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あなたの「生物学的年齢」は? AIが顔写真から判定

ナショナルジオグラフィック

年齢とは、生まれてから経過した年数だ。何を当たり前なと思うかもしれないが、これとは別に生物学的な年齢という考え方がある。個人差がある老化の度合いなどを加味した年齢であり、人の老化や健康状態を表す尺度としては、生物学的年齢のほうがむしろ「本当」と言えるだろう。

私たちの生物学的年齢は、環境や食事、運動の習慣など、さまざまなものの影響を受けている。人によっては、生物学的年齢が実際の年齢から大きくかけ離れている場合もあり、生物学的年齢を特定するのは簡単ではない。

北京大学の計算生物学者である韓敬東(ハン・ジンドン)氏は、AIを使って人の顔の3D画像を作成し、生物学的年齢を割り出す「顔の老化時計」なるものを開発した。顔を「読む」ことによってその人の健康を占う、中国古来の「相人術」にヒントを得て、韓氏とそのチームは、中国黒竜江省鶏東県の住民約5000人の顔を撮影した3D画像を分析し、AIによって実年齢と生物学的年齢を推測する"時計"を作成した。論文は2020年9月、学術誌「Nature Metabolism」に発表された。

これらの時計は、目尻が下がったり、鼻が広がったり、顎がたるんだり、鼻と口の間が次第に離れていくといった、時の流れに伴う顔の変化を追っている。顔の特徴のなかには、体の不調と関係するものがあることがわかっている。例えば、皮膚のたるみは全身性の炎症の表れだという。

米国カリフォルニア州ロスアルトスにある医療用AIのスタートアップ企業の創業者兼最高経営責任者を務めるアンドレ・エステバ氏は、韓氏の研究が予防医学を根底から覆す可能性を秘めていると話す。「写真を撮るだけで生物学的年齢がわかるなら、その人のライフスタイルに大きな影響を与えるでしょう」。また、ガンの化学療法など、老化を早める治療を受ける患者へのケアや、老化に関する研究にも役立てられるかもしれない。

AIのモデルを作るには、最初から正解の例を用意しておく必要がある。AIはその正解データを使って、新しいデータの読み取り方を学ぶ。例えば今回の研究の場合、被験者の年齢をその人の顔と組み合わせることができる。しかし問題は、生物学的年齢には判断基準となるものがないことだ。

英ロンドン大学で年齢と慢性疾患の関係を研究しているクリストファー・ベル氏は、「生物学的年齢とは、どちらかといえば加齢とともに体全体に生じる様々な現象のことをまとめて呼ぶ言葉です」という。例えば、老化のマーカー(目印)には、テロメア(染色体の末端にあり、その劣化を防ぐ役割を果たす)が短くなっていくことや、ミトコンドリアの減少、免疫力の低下などが含まれるが、そのなかのどれか一つだけを老化のマーカーとして選択するというのは難しい。

顔の老化時計の作り方

韓氏は2016年に、他の人から見て何歳くらいに見えるかという「見た目年齢」を測る時計を作ろうと考えた。そのヒントとなったのは、2009年に英国の医学誌「BMJ」に掲載されたある研究だった。ボランティアが、双子の写真だけを見てそれぞれの年齢と健康状態を推測する。その7年後、双子の健康状態を調べてみると、年上に見えた双子の方は健康状態が比較的悪く、認知機能も劣り、早死にする可能性が高いことがわかった。

明らかに、見た目年齢は生物学的年齢と関係があり、健康状態も示していると韓氏は考えた。韓氏自身も、顔の3D画像を取り入れた研究を2015年3月に学術誌「Cell Research」に発表している。この研究は、北京に住む300人の被験者を基に開発した統計モデルによって、顔の3次元的な特徴から老化の度合いを推測できることを示していた。

その頃、血液中のマーカーと年齢との関係について調べていた韓氏は、当時所属していた中国科学院マックス・プランク協会計算生物学研究所に顔の3D画像装置があることに気付いた。そこで、血液サンプルを採取する際にこれで被験者の顔を撮影し、老化についてその画像からわかることと血液マーカーからわかることを比較してみようと考えた。

2016年には、黒竜江省鶏東県に住むおよそ5000人という大集団を対象に調査を行うことが可能になった。AI技術も進歩し、その優れた処理能力によって、韓氏は人の顔に表れる生物学的年齢を人間がどのように読み取るかを再現させることに成功した。1人の観察によってAIの推測結果が左右されるのをできるだけ抑えるため、5人のボランティアが別々に一人ひとりの生物学的年齢を推測し、それらを「正解データ」としてAIの訓練に使った。

人間の観察結果から学習し、さらに改善を加えたAIエンジンは、驚くほど正確だった。平均するとその推測のずれは、実年齢と見た目年齢のいずれにおいても、前後3年ほどだった。韓氏は、出生証明書に基づく実年齢より3歳以上、年上に見える人を「ファストエイジャー」、3歳以上、年下に見える人を「スローエイジャー」と呼ぶことにした。

見た目と実年齢、そして健康に影響を与える根本的な要因のつながりを探るため、韓氏は血液サンプルを採取しながらサンプル提供者の生活習慣を調査した。すると、喫煙、いびき、高い血中総コレステロール値は、ファストエイジャーによく見られる特徴であることがわかった。また、ヨーグルトを食べたり、決まった時間に食事をとったり、骨密度が高いといった特徴はスローエイジャーに共通していた。

中年期に当たる40代から50代前半は、ファストエイジャーとスローエイジャーの差が目立ち始める時期のようだ。40歳で随分と老けて見える人もいれば、55歳でもまだまだ若く見える人もいる。このように人によって見た目が大きく違うということは、この時期に健康的な生活習慣を身に着けるよう推奨すれば、状況を大きく改善させる余地があるともいえる。

いずれは健康診断にも?

老化に関する研究は盛んになっているものの、この分野の問題は、生物学的年齢とは正確に何なのかがはっきりせず、またそれを定量的に示す客観的な方法がない点にある。とはいえ、他の研究とともに韓氏の研究は、こうした情報の空白部分を埋める大きな前進であることは間違いないと、中国にある海南医学院国際老化・腫瘍研究センター主任の任瑞宝(レン・ルイバオ)氏は評価する。

「老化を測定できるようになったというだけでも、大きな進歩です。韓博士の技術は、これからも老化の研究に重要な役割を果たすことでしょう」と、任氏は話す(韓氏の技術は、既に海南省にある任氏の病院で使用されている)。例えば、製薬会社はこの技術を採用して、長寿を促す薬や老化を遅らせる薬を評価できるかもしれない。また、ガンの専門医である任氏は、ガンの早期診断に顔時計を利用できるようになることを期待する。ガンは年齢と大きく関係があり、老化が早まっているように見えたら、医師は詳しい検査を勧めることができるだろう。「老化は、病気の根本的な原因の80%を占めていると思われます」と、任氏は言う。

コレステロールや血圧などを測定する定期健診のなかに、生物学的年齢の検査項目を含めてもいいかもしれない。「その結果によって、自分が行っている健康管理を見直す機会になるかもしれません」

何よりも、顔時計は3D画像カメラの前に1分間座っていればいいだけだ。他の検査のように血液や細胞サンプルを採取するよりも安上がりで、体への負担もない。

文=CONNIE CHANG/訳=ルーバー荒井ハンナ(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2023年2月5日公開)

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