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藤原無雨「その午後、巨匠たちは、」 注釈と本文自在

2020年に文芸賞を受賞した藤原無雨の小説「水と礫(れき)」は、3つの章を繰り返すなかで物語が変容する不思議な構成で注目を集めた。このほど刊行の「その午後、巨匠たちは、」(河出書房新社)もまた、北斎やダリといった画家が神社の神様としてまつられるという筋書きはもとより、小説の書き方そのものが斬新だ。語句の解説のために付く注釈がいつしか本文に成り代わり、注釈を乗り換えるようにしてストーリーが進んでいくのだ。

読者が絵画に詳しいとは限らない。しかし「ただ注釈を加えただけでは小説への注意が飛んでしまう」。注釈と本文をなめらかに移行することによってそれを防いだ。この技法には、さらにもうひとつ効果があると言う。

「我々は普段『これは小説である』と当たり前のようにレッテルを貼って読んでいるが、注釈によって頭の中がリセットされる。(注釈だと思って読んでいたものが)いつの間にか小説に戻ったとき、小説だという思い込みをせずに小説を読んでいる状態を作り出せる」

世界の行く末を表すラストシーンから自身が導き出した本書のテーマは「自分の目で、対象を見ること」だと語る。「小説だという刷り込みを取っ払って、自分の目で小説と向き合う」のもそのひとつ。「世界の見方を変えるために小説を書いている。『自分の目で対象を見ること』を皆がやったら、社会は変わる」

純文学とライトノベルの「兼業作家」でもある。「ラノベで重要なのはホスピタリティー。読者が心安らぎつつ世界にわくわくできるようにと、それだけを考える。一方で文学は思考材料として機能しなければならない。誰も踏み入っていないところで問題を解き続ける。そのプロセスが小説です」。未踏の地に分け入り、次は何を見せてくれるのか。期待が尽きない。

(桂星子)

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