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作家、呉明益が台湾少年工の記憶をたどる「眠りの航路」

盗まれた自転車をモチーフに戦前戦後の台湾史を物語る「自転車泥棒」、台湾の自然環境や先住民の神話に着目した「複眼人」など、邦訳の刊行が相次ぐ台湾の実力派作家だ。「眠りの航路」(倉本知明訳、白水社)は台湾で2007年刊行の長編デビュー作。太平洋戦争末期、台湾人少年工として日本軍の戦闘機製造に従事した父「三郎」の記憶を、現代に生きる「ぼく」がたどる。

自身の父親は日本統治時代(1895~1945年)に少年期を過ごし、実際に13歳で海を渡り、神奈川県の高座海軍工(こう)廠(しょう)で働いていた。台湾では日本語教育を受けた世代と、中国語が新たな国語になった世代の断絶が大きい。「父の世代は『日本人になる』ことが重要な価値観だったが、私たちが教科書で習う日本は、戦争を起こした悪い国。教育を受けるほど矛盾に陥り距離ができる。日本に苦しみ、同時に憧れたあの時代の境遇を少しでも理解したかった」

作中には、若き日の三島由紀夫が本名の「平岡君」として登場する。高座海軍工廠の宿舎には勤労動員された三島が住んでいたことが川端康成への手紙で明らかになっている。平岡君を慕い、彼が語る物語に耳を傾ける三郎。少年工の父にも起こり得たエピソードだ。「残酷な時代にあって、創作を続けた三島の存在はひとつの慰めといえるのではないか」

三島も三郎も、それぞれが戦後の矛盾した社会を生きた。ただ、父親とは多くを話さなかったという。「執筆時点で既に父は亡くなり、和解の可能性はない。でも時に人は(相手と)和解しないほうが尊重できるのかもしれない。日本人に憧れた13歳の父の立場を、今の私は尊重したい」(ご・めいえき=作家)

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