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オミクロン型BA.2系統の「危険度」 従来型と同レベルか

ナショナルジオグラフィック

米国では新型コロナウイルス感染症の感染者数が再び増加している。背景にあるのはオミクロン型のBA.2系統と、その"子孫"でさらに感染力が強いBA.2.12.1亜系統だ。わずか2カ月間という短い停滞期の後、多くの人々がマスクの着用をやめ、パンデミック前の生活に戻ろうとしている中での増加に、専門家らは懸念を募らせている

4月1日から24日の間に、新型コロナの新規感染者は75%も増加した。その多くがBA.2系統によるものだ。

4月22日の時点で、BA.2は米国の感染者の約68%、BA.2.12.1は約29%を占めている。入院患者数は今のところ、パンデミック開始以来の最低水準ではあるものの、全国的に増加傾向にある。また、高齢者施設の入居者や職員の感染者数は、およそ3カ月間減少を続けた後、再び増加に転じた。

「BA.2の感染拡大は、ウイルスの感染力の増大と、パンデミックの規制緩和の両方に関係していると思われます」と、米ハーバード大学医学部の免疫学者ダン・ブルーク氏は言う。「そのどちらもが現在の急増に関わっているのは明らかです」

加えて、国内のワクチン接種率も停滞している。米国民のうちブースター接種(追加接種)を受けた人はわずか45.6%であり、南部を中心に少なくとも10州では、人口の3分の1以上がいまだにワクチンを接種していない。これが非常に憂慮されるのは、初期データによって、BA.2は従来のオミクロン型よりも重症化する可能性が示唆されているからだ。

オミクロン型の第一波がやってきたのは、多くの米国民がワクチン接種を済ませていた時期だった。そのため、以前の型ほど重症化を引き起こすようには思われず、その症状は軽症であると認識されるようになったと、香港大学の疫学者ベンジャミン・カウリング氏は言う。ただし「軽症」というのは、かつて優勢だったデルタ型が引き起こした極めて深刻な病状と比較してのことでしかない。

カナダ、トロント在住のコミュニケーション・ストラテジスト(戦略研究家)、メリンダ・マルドナドさんは、ワクチンの3回接種を終えた後、カナダでオミクロン型の波がピークを迎えていた2021年12月にブレイクスルー感染を経験した。その結果、何週間もベッドから出られず、3カ月が過ぎた今も、ひどい倦怠(けんたい)感、ブレインフォグ、認知障害などの後遺症に悩まされている。

「"軽症"というのは、死にはしない、集中治療室に入るようなことにはならないという意味です」とマルドナドさんは言う。「わたしにとって、これは"軽症"と呼べるようなものではありませんでした」

現在、BA.2系統は最初に報告されたオミクロン型のBA.1系統よりも感染力が強く、感染時にはウイルス量がより増え、新型コロナ感染症の症状が長引くという証拠が集まりつつある。

BA.2はなぜ重症化するのか

BA.2より先に報告されたオミクロン型のBA.1は、それ以前の変異型よりも感染力が強かった一方で、主に上気道にとどまっていたため、デルタ型よりも肺へのダメージが少なかったと、米ミシガン州立大学の数学者・分子生物学者のグォウェイ・ウェイ氏は言う。現在のワクチンはBA.1に対する予防効果があり、ワクチン接種者や過去の感染による免疫を持っていた人にとっては、ほとんどの場合、以前の変異型に比べてさほど重症化することもなかった。

複数の研究により、オミクロン型による重症化の全体的なリスクは、デルタ型より低いことが示されている。一方で、10歳以下の子どもの入院リスクは、オミクロンとデルタで有意な差はなく、非常に幼い子どもたちでは、オミクロン感染による入院が増加している。

また、2022年4月15日付けで医学誌「JAMA Pediatrics」に発表された別の研究からは、子どもの場合、オミクロンは以前の変異型と比較して、呼吸器感染症で入院する割合が3倍ほど高かったことがわかっている。

そして今、BA.2への懸念はさらに高まりつつある。数だけの単純な比較だが、英国では3月以降にBA.2が急増したところ、感染者数は2021年12月末のオミクロン型流行時と比較してかなり少ない一方で、入院者数と死亡者数はほぼ同程度なのだ。

ある研究は、BA.2感染がより重症化する理由を示唆している。東京大学のウイルス学者、佐藤佳氏らのチームは、実験室内でBA.2を合成し、これが鼻腔(びくう)内側の細胞でより速く成長し、肺を攻撃する傾向が強いことを発見した。このBA.2類似ウイルスはまた、BA.1のそれに比べて、ハムスターにおいてより重篤な症状を引き起こした。この論文は、2月15日付けで査読前の論文を投稿する「bioRxiv」に発表されている。

この研究は、スパイクタンパク質(ウイルスが細胞に結合する部分)の変異によって、BA.2が以前のBA.1感染によって得られた抗体を回避できるようになったことを示唆している。

4月14日付けで「medRxiv」に発表されたカウリング氏のチームによるまた別の未査読論文によると、2022年に入ってBA.2の感染者が100万人を超えた香港で、ワクチンを接種していなかった場合の致死リスクは従来の変異型と同じぐらい深刻だったという。

「わたしは香港や上海での状況から、BA.2の症状は以前考えられていたほど軽くはないと考えています」とカウリング氏は言う。

BA.2に対するワクチンの効果は

3月28日付けで医学誌「The Lancet Microbe」に発表された論文によると、ファイザー社製のワクチンによってもたらされる抗体の効果は、BA.1感染よりもBA.2感染に対して全般的により高いことが示されている。

感染による免疫力の違いについてはどうだろうか。デンマークと南アフリカでは現在、前者はワクチン接種、後者は感染によって、高いレベルの免疫を保持している。両国のデータを比べてみると、BA.2とBA.1の感染の重症度に大きな差は見られない。オミクロン型の異なる系統による再感染はあるものの、ワクチン接種率の高いデンマークでは、そうした事例はまれであり、再感染は主にワクチンを接種していない若年層で起こっている。

またファイザー社製ワクチンのブースター接種は、オミクロン型のすべての変異に対して予防効果を持つことを、ハーバード大学のブルーク氏らが4月21日付けで医学誌「New England Journal of Medicine(NEJM)」に発表した。

さまざまな研究から、ワクチンの3回目接種あるいはブレイクスルー感染は、免疫系の記憶を呼び覚まし、オミクロンを含むあらゆる変異型に対して有効な抗体が作られることがわかっている。先のルーク氏らの研究では、ワクチンの3回目接種は、BA.1に対する完全な防御に、またBA.2に対する十分な抗体レベルを作り出すため不可欠であることが示されている。

米国疾病対策センター(CDC)は現在、50歳以上で3回目接種から4カ月たった人に4回目の接種を、またがん患者などの免疫系が抑制されている人に対しても追加の接種を推奨している。4月13日付けで「medRxiv」に投稿された査読前の論文によると、4回目の接種は、オミクロン型第一波のピーク時であっても、感染リスクの高い医療従事者のブレイクスルー感染を大幅に減少させたという。ブースター接種はまた、人がウイルスを拡散させる可能性を大きく減らすと4月8日付けで医学誌「Nature Medicine」に発表された。

「組み換え体」のXE系統とBA.2.12.1

パンデミック疲れに勢いを得て、新型コロナウイルスは今も世界中で拡散と変異を続けている。最近発見され、拡散を始めているBA.1とBA.2の「組み換え体(近縁のウイルスの間で遺伝子が置き換わったハイブリッド)」がXE系統だ。XEの感染例は比較的まれではあるが、英国保健安全保障庁(HSA)が、この系統はBA.2よりも市中で感染者が約10%増えやすいと報告している。

一方、BA.2.12.1はXEよりもさらに急速に広がっている。3月上旬に発見されてから1カ月もたたないうちに、米国内の全感染者の20%がこの系統になり、4月23日には約29%になったのは冒頭で述べた通りだ。初期の推定では、BA.2.12.1はそれ以前の系統よりも速いスピードで広まり、免疫系の抗体を回避する能力も高いとみられている。

「実のところ、オミクロン型にはふたつだけでなく、もっと多くの系統があります。そして、オリジナルのBA.2よりも、一部の亜系統は優勢になっていくと思われます」と、ハーバード大学のブルーク氏は言う。

こうした状況は、秋冬に予想される感染者の急増を回避するために、米国が「ワクチン接種計画に改めて注力しなければならない」ことを示していると、米エール大学グローバルヘルス研究所長の疫学者サード・オマー氏は言う。

ワクチンに加えて、マスクを着用することは、感染者からのウイルスの拡散を減らし、また感染する可能性を下げることによって、新型コロナ感染症のリスクの抑制に有効であることがわかっている。

感染しないようにすることが大事だと、専門家は強調する。さまざまな症状が起こる新型コロナ後遺症は、非常につらいものになる可能性もあるからだ。

「以前は、もし自分がコロナにかかっても、鼻水が出るくらいだろうと思っていました。みんなそう言っていたからです」とマルドナドさんは言う。「これから社会活動を再開して、マスクも使わないようにしようという人たちには、感染した場合のリスクについても考えてほしいと思います。次につらい思いをするのは、自分かもしれないのですから」

文=SANJAY MISHRA/訳=北村京子(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2022年4月27日公開)

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