/

この記事は会員限定です

ロシア文学者が心奪われた絵画 沼野恭子さん思い出の品

こころの玉手箱

[有料会員限定]
ぬまの・きょうこ 1957年東京都生まれ。東京外国語大教授。翻訳家。専門はロシア文学・比較文化。著書に「ロシア万華鏡」「アヴァンギャルドな女たち」など。訳書には「ソーネチカ」や「ペンギンの憂鬱」などがある。

自著の表紙を飾った絵画

ひとめ見るなりその絵に心を奪われた。「コケティッシュな鳥」という意味深なタイトルもさることながら、2羽の鳥と画面いっぱいのバラにほどこされた鮮やかな赤と黒のコントラストが強烈だった。

2002年、神楽坂のギャラリーで開かれたオリガ・ソンツェワさんの個展を見にいったときのことである。彼女はそのころ東京に住んでいて、絵画作品を制作するほか、日本のキモノをスカーフに作り変えるという斬新な服飾コンセプトを世に問うアーティストとしても活動していた。

ちょうどそれまで書いてきたものをささやかな本にまとめようとしているところだった私は、五柳書院の担当編集者・小川康彦さんに相談し、ソンツェワさんの許可を得てこの作品を表紙に使わせていただくことにした。「アヴャンギャルドな女たち」というタイトルで上梓したこの本には、ロシアの傑出した女性文化に焦点をあてた論考やエッセイを収めた。20世紀初頭に才能を発揮した「ロシア・アヴャンギャルドのアマゾネス」たちや、ペレストロイカ前後から台頭しはじめ存在感を増すばかりの現役女性作家たちへの驚嘆と憧れと羨望の入り混じったファンレターの束のようなものである。

ソンツェワさんも私にとってまさにそうした憧れの芸術家のひとりとなり、「アヴャンギャルドな女たち」の仲間入りをしていただいたのだった。ところが、気に入った絵が自著の表紙を飾るという幸せに酔いしれるあまり、このとき小川さんがこの作品を購入されていたことが私の記憶からすっぽり抜け落ちていた。

だから2019年の春、小川さんがこの絵を抱えて大学の研究室を訪ねてきてくださったときは驚いた。「前からプレゼントしようと思っていたんですよ」といつもの柔和な笑顔でおっしゃる。縁あってまた五柳書院から本を出していただくことになり、刊行準備をしている最中の出来事だ(ちなみに今度は「ロシア万華鏡」と名づけたが、食文化やファッション等にも関心が広がりテーマが多様になったからである)。

思いがけない贈り物は、久しぶりに会う大事な友人のように懐かしく愛(いと)おしかった。それ以来コケティッシュな鳥は、まるで昔からずっとそこにいるかのように私の研究室にしっくり馴染(なじ)んでいる。...

この記事は会員限定です。登録すると続きをお読みいただけます。

残り2548文字

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン