ブッダは何を説いたか、研究者が仏教論じた新書続々

ブッダの教えそのものに注目して、研究者が仏教を論じた新書が相次ぎ刊行されている。2021年10月に刊行された「最澄と徳一」(岩波新書)は平安初期、天台宗の最澄と法相宗の徳一が5年にわたって繰り広げた論争を読み解いている。人々を悟りに導く教法は3つあるとする「三乗真実説」の徳一と、真の教えはただ一つだとする「一乗真実説」の最澄の対立とされるが、著者の師茂樹・花園大学教授は「単純な対立に落とし込んで理解しようとするのは、知的な(そしておそらくは倫理的な)怠慢である」と記す。新たな「見取り図」で2人の論争を考えようとするのは、より始原から仏教をとらえる試みともいえるだろう。さらにこの本は分断が進む現代にあって、立場の違う人同士が話し合うヒントも与えてくれる。
古代インドの仏典を読み解き、ブッダの教えを探る初期仏教の研究は西欧を中心に進められてきた。近年日本でも注目されており、18年には馬場紀寿・東京大学教授が最新の研究成果を紹介した「初期仏教」(岩波新書)が出版された。木村清孝・東京大学名誉教授が仏教の歴史を概観した「教養としての仏教思想史」(ちくま新書、21年)、チベット歴史文献学を専攻する今枝由郎氏による「ブッダが説いた幸せな生き方」(岩波新書、同)も初期仏教に言及している。
「最澄と徳一」を担当した岩波書店の編集者、飯田建氏は「専門家の方が『初期仏教』を解説したアカデミックな本であっても、一般読者が手に取ってくれている」と話す。その理由について「若者に『極楽浄土に行ける』と言ってもピンとこないだろう。ブッダの教えという根本的な部分は同じでも、『初期仏教』は19世紀から西欧で研究されている。今の暮らしに近いところから考えるので、若い人々の興味も引くのではないか」と日本の仏教受容史を研究する碧海寿広・武蔵野大学准教授はみる。
瞑想(めいそう)を通じて心をいま、ここに向ける「マインドフルネス」は、米アップルの創業者スティーブ・ジョブスが実践したとされ、日本でも話題になった。今ではスマートフォンのアプリで瞑想の時間をが計れるなど広まっている。「瞑想は禅という形でもともと日本にもあった。現代の生き方にあった形に変換されたわけだが、初期仏教も同様の受け入れられ方をしているように思う」。碧海氏はそう述べた上で、「今後の仏教書は初期仏教が主流になるのでは」と予想する。
(篠原皐佑)