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5〜11歳へのファイザー製ワクチン 米はなぜ推奨?

ナショナル ジオグラフィック

10月26日、米食品医薬局(FDA)の諮問委員会が5〜11歳の子どもを対象としたファイザー・ビオンテック製ワクチンの安全性と効果に関する報告書を審議し、接種を推奨すると決めた。今後FDAが承認し、米疾病対策センター(CDC)が追随すれば、米国に2800万人いるこの年齢層の子どもたちもワクチン接種を受けられるようになる。

ファイザーがFDAに提出した臨床試験の結果は、ワクチンが5〜11歳の子どもたちを強力に保護することを示唆している。発症を防ぐ効果は90.7%で、現在広まっているデルタ株にも有効だった。

諮問委員の一人で、ボストン小児病院の精密ワクチンプログラムを率いるオファー・レビー氏は、新型コロナウイルス感染症が大人に与えた打撃があまりに大きく、子どもたちへの感染の影響が見えにくくなっていると話す。CDCによれば、パンデミックが始まって以来、5〜11歳の200万人近くが新型コロナウイルスに感染し、150人以上が亡くなった。

もし大人の感染者が一人もいなかったら、子どもの被害だけでも重大な公衆衛生上の緊急事態になっていたはずだとレビー氏は断言する。今問題となるのは、幼い子どものワクチン接種が可能になったとき、親がどれくらい素早く動くかだ。

カイザー・ファミリー財団は9月、5〜11歳の子を持つ親を対象に、自分の子にワクチン接種を受けさせたいかどうかという調査を実施。すぐに受けさせたいと答えた人は34%だった。様子を見たいと回答した人は32%で、学校の義務などで必要になればと答えた人は7%だった。24%が絶対に受けさせないと回答した。

非営利団体「予防接種活動連合」の会長兼CEOケリー・ムーア氏は、ワクチン接種をためらう親たちについて、「この段階で親が多くの疑問を抱くのは理解できます」と述べている。「自分の子どものことになると、人々は必ず用心深くなります。しかも、この年齢層に関しては、これまで安全性や副作用の情報が存在しませんでした」

ムーア氏によれば、大人のときも同じような動きが見られたが、「効果があるとわかったら、多くの人がワクチン接種を望むようになりました」

見落としがちな子どもへの影響

高齢者の高い死亡率を考えると、幼い子どもたちへの影響を見落としてしまうのも無理はない。

軽度、中等度の症状に加え、5000人以上の子どもが新型コロナウイルスへの重篤な全身反応である小児多系統炎症性症候群(MIS-C)を発症しており、そのほとんどが11歳以下だ。症状は発熱、嘔吐、下痢などで、心不全、腎不全、そしてまれに、死に至ることがある。

「インフルエンザなどに比べると、新型コロナ感染症の子どもへの影響ははるかに悲惨です」とムーア氏は語る。

もちろん、ほかの人が発症した場合も、子どもたちは苦しむ。医学誌「Pediatrics」に10月7日付けで発表された論文によると、今年の6月末までに新型コロナ感染症のせいで一次または二次養育者を失った子どもたちは14万人を超えていた。また、相次ぐ学校閉鎖や社会活動の縮小が子どもたちの心に深刻な影響を及ぼしており、米国小児科学会(AAP)をはじめとする医療団体は、子どもたちの心の健康が国家的な緊急事態にあると宣言している。

さらに、子どもたちがワクチン接種を受けることで、家族全員の防御力が高まる。特に、まだワクチン接種を受けられない5歳未満の子どもと、重症化のリスクがある大人は助かるはずだ。

ムーア氏は移植した腎臓を守るために免疫抑制剤を服用している夫を持つ友人の例を挙げた。「彼らの8歳の娘はアイスクリーム店に入ることもできません。もし新型コロナウイルスに感染したら、父親のリスクが高まるためです」

スウェーデンの研究チームが10月11付けの医学誌「JAMA Internal Medicine」に発表した論文で、こうした「防御の輪」の価値が確認されている。2~5人家族の1人がワクチン接種を受けている家庭では、ほかの家族の感染リスクが最大61%減少し、3〜4人がワクチン接種を受けている場合、90%以上も減少する。

ほかの人を守るために子どもへのワクチン接種を行うことは、米国ですでに実行されている、とレビー氏は指摘する。「本人にあまり影響がない病気のために子どもたちにワクチン接種を受けさせるのは倫理に反すると言う人もいます」。が、子どもたちは今、妊娠中の女性へのリスクが主に懸念される、風疹のワクチンを接種している。

投与量は大人の3分の1に

米国では12歳以上の約1億500万人がファイザーとビオンテックのワクチン接種を完了している。FDAはすでにワクチン接種の有効性について広範な情報を得ているため、5〜11歳の年齢層では、安全性と投与量に主眼を置いた異なるタイプの臨床試験が行われた。

少数の子どもたちを対象にした第1相試験では、12歳以上と同量の30マイクログラム、20マイクログラム、または10マイクログラムのいずれかが投与された。「有害事象を抑制しながら、強い免疫反応が得られる用量を見つけることが目的です」と、ファイザーの臨床試験の責任者を務める米エール大学医学部の感染症専門家オニェマ・オブアグ氏は言う。最終的に、10マイクログラムの2回投与が勝利を収めた。ファイザーはFDAに約2250人分の試験結果を提出した。

FDAの「ワクチンならびに関連の生物学的製剤に関する諮問委員会」は今回、ファイザーのデータを精査したうえで、5〜11歳への使用を推奨することに決めた。ファイザーは現在、2〜5歳と6カ月〜2歳未満に対するさらに少量の投与を検討している。一方モデルナも25日、6〜11歳を対象にした臨床試験でも強固な免疫反応が得られたと発表した。

ファイザーの臨床試験で見られた副反応は、注射部位の短期的な痛み、疲労感、頭痛、悪寒などで、12歳以上の子どもと同様だった。ワクチンに関連する重篤な有害事象は確認されなかった。「医療に絶対はありませんが、さらに多くの子どもたちがワクチン接種を受けても、有害事象は起こらないと確信しています」とオブアグ氏は述べている。

1万または10万人に1人の割合で発生するまれな有害事象は、それだけの子どもがワクチン接種を受けるまで表面化しない。心筋炎と呼ばれるまれな症状は主にmRNAワクチンを接種した思春期の男性と若い男性に見られ、10月6日付けで医学誌「New England Journal of Medicine」に掲載されたイスラエルのデータを分析した論文によると、男性の場合およそ2万6000人に1人の割合で発生すると推定されているが、発症後、ほぼ全員が回復している。

不安を抱く親もいるが

親は潜在的なリスクを考慮する際、ワクチンとワクチンによって予防される病気のリスクを比較すべきだとムーア氏は話す。たとえ軽症の新型コロナ感染症でも、子どもたちは恐怖を感じ、しばらく学校に行くことができなくなる。さらに、その数は不明だが、症状が出た後、何カ月も後遺症に苦しんでいる子どもたちもいる。

ワクチンが子どもの免疫系を刺激することについて心配する親もいるが、オブアグ氏はこれに対し、「新型コロナに感染したときの強い刺激とは比べものになりません」と反論する。

ワクチンに使われている遺伝情報物質、メッセンジャーRNA(mRNA)を懸念する親もいる。mRNAは体に指令を出し、免疫系が反応するためのスパイクたんぱく質をつくらせる。しかし、ミネソタ州ロチェスターにあるメイヨー・クリニックでプライマリケア・ワクチン・プログラムの医療ディレクターを務めるロバート・ジェイコブソン氏は、子どもたちがほかの病気を予防するために受けてきた予防接種のワクチンにもさまざまな技術が使われているが、ほとんどの親はこれまで気にしていなかったと指摘する。

例えば、麻疹(はしか)、おたふくかぜ、風疹を予防するMMRワクチンや水痘(みずぼうそう)のワクチンは弱毒化されたウイルスを使用しているとジェイコブソン氏は説明する。また、ジフテリアのワクチンにはジフテリア毒素を無毒化したものが使われている。B型肝炎のワクチンも組み換え技術を用い、酵母に本来つくらないタンパク質をつくらせている。

しかも、オブアグ氏によれば、子どもはライノウイルスやほかのコロナウイルスなど、いわゆるかぜの原因となるRNAウイルスに日常的に感染しているため、子どもたちの体にとって未知の構造ですらないという。「もし子どもの細胞に絶え間なくさまざまなRNAウイルスが入ってくることを知っていれば、ワクチンについてこれほど心配することはないでしょう」

ファイザーのワクチンはすでに、12〜17歳の子どもに有効であることが証明されようとしている。AAPの10月20日の発表によれば、米国ではこの年齢層の58%にあたる約1350万人が少なくとも1度のワクチン接種を受けており、48%が接種を完了した。CDCは19日、ワクチン接種を完了したこの年齢層について、入院が必要な事態を防ぐ効果が93%と発表している。

FDAとCDCが最終的に5〜11歳へのワクチン接種を認めた場合、ほかのワクチンのように学校で義務化することをレビー氏は望んでいる。レビー氏は6月、「Pediatrics」に、新型コロナ感染症の拡大を抑制するには、子どもたちの間でウイルスが広がらないことが一番の近道かもしれないと寄稿した。

「私たちはまだ危機を脱していません。これから冬になり、新たな変異株が現れる可能性もあります。子どもたちとその家族を守ることが大きな助けになるでしょう」

たとえ義務化されなくても、ワクチン接種は賢明な手段だということを家族に納得してもらいたいと望む医師もいる。「初期に対応する小児科医として、インフルエンザや百日せき、MMRなど、この年齢層への定期的な接種が推奨されているほかのワクチンと同じように、このワクチンを接種することを勧めていくつもりです」とジェイコブソン氏は話す。

「研究結果は安全で効果的であることを示唆しています。また、新型コロナウイルスは今も流行しているため、明らかに必要性があります」

文=MERYL DAVIDS LANDAU/訳=米井香織(ナショナル ジオグラフィック日本版サイトで2021年10月28日公開)

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