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商用車をスマート運用 バーチャル車両や無線充電道路

CBINSIGHTS
商用車の運行管理に最新のテクノロジーが次々と導入されている。自社で車両を所有せずカーシェアを利用する「バーチャルフリート」や、電気自動車(EV)の走行中の充電を可能にする「充電道路」がその代表例だ。燃料費の高騰や人手不足、環境意識の高まりなどから、世界の物流会社がスタートアップなどと組み、デジタル技術などを活用した効率化に力を入れ始めた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

未来の商用車ではこのテクノロジーが土台になる

・バーチャルフリート:商用車の所有コストを削減するために、需要に応じて提供されるカーシェアリングサービス

・充電道路:EVを走行中に充電し、継続的な運行を可能に

・デジタルツイン:車両運行管理の的確な判断とプランニングを支援

・完全自動運転の商用車:人手不足を解消し、燃費と道路走行の安全性を向上

・車載決済プラットフォーム:充電やサービス、メンテナンスの代金決済を自動化し、効率を向上

この記事では、この5つのテクノロジーの仕組みや先行企業、商用車の未来がどう形成されつつあるかについて取り上げる。

何が問題なのか

なぜ商用車の運行管理が重要なのか

商用車の運行を管理する企業はこれまで、新たなテクノロジーの導入にどちらかといえば抵抗してきた。既存車両の刷新には費用も手間もかかるからだ。

だが、サプライチェーン(供給網)の目詰まりや燃料費の高騰、人手不足など足元の市場要因や、サステナビリティー(持続可能性)を巡る懸念から、各社の業績は圧迫されている。

こうした状況を受け、世界の物流会社は商用車の運行管理を効率化し、二酸化炭素(CO2)排出量を削減するために、テックを活用した策に注目しつつある。この分野には大きな商機がある。世界の貨物業界の市場規模は推定4兆ドル近くに上り、今後何年も成長し続けるとみられている。

なぜ今なのか

次世代の商用車への投資はこれまで以上に重要になっている。燃料費の高止まりやインフレの長期化、人手不足の深刻化により、従来のディーゼル車の運営コストは今後も上がる可能性が高いからだ。電子商取引(EC)の需要拡大とサプライチェーンの混乱でより多くの荷物を短時間で多くの場所に配送するよう迫られ、商用車の運行管理は一段と難しくなっている。

さらに、サステナビリティーと貨物業界のCO2排出量への懸念も高まっている。新たな規制により商用車を管理する企業の多くは今後20年で、自社車両の電動化を余儀なくされるだろう。例えば、英国は2040年までに内燃機関エンジンの大型トラックの販売を禁止する。米カリフォルニア州も35年までにガソリン車の新車の販売を禁じる。現時点では車をEVに替えるとディーゼル車に替える場合の最大2倍のコストがかかるが、35年には中大型EVトラックの購入費用や運営維持費は従来のディーゼルトラックよりも安くなるとみられる。

道路の安全性を高め、配達時間を短縮し、人手不足に対処する手段として自動運転車にも期待が寄せられている。人工知能(AI)やロボット、データサイエンスの進化により、自動運転車の実現可能性は急速に高まっている。これは想定外の状況が少なく、あらかじめ定められたルートを走行するトラックに特に当てはまる。

だれが注意を払う必要があるか

EC企業や配送会社、物流会社の車両運行管理の担当者は商用車の未来を導くためにテック企業との提携に乗り出している。次世代の車の開発に必要なテクノロジーの多くにはなお費用の高さや厳しい規制などのハードルが立ちはだかるが、運行管理の担当者らはすでに試験プログラムを通じ、こうした新しいテクノロジーをいかに有効にとり入れるかを理解しつつある。

大企業も商用車の未来に関心を示しつつある。例えば、米小売り大手ウォルマートはオンライン配送で自動運転トラックを活用するため、自動運転技術を手掛ける米ガティック(Gatik)と提携している。一方、スウェーデンのアインライド(Einride)はこのほど、自動運転トラックで米GEアプライアンスの倉庫間配送を試す許可を米連邦政府から得た。

バーチャルフリート

バーチャルフリートは運送会社や物流会社が需要に応じて利用できる共有の商用車を提供する。顧客は車両のメンテナンスや燃料の管理、ドライバーの監視など従来の商用車が直面する運営上の課題の多くを避けられる。

バーチャルフリートとは何か

バーチャルフリートでは運送会社や物流会社は全ての車両を自社で所有せず、需要に応じて外部車両をシェアする。デジタルプラットフォームを活用し、貨物の需要やルートに基づいて運行管理担当者と空きのある貨物・配送トラックをマッチングする。

この資産を減らせるモデルにより、車両の購入やメンテナンスに伴う資本コストや運営コストの大半が不要になる。

先行企業

バーチャルフリートはテクノロジーとしてはまだ発展段階にあるが、一部の運行管理会社はこのアプローチを試し始めている。例えば、米物流大手ライダーシステムは18年、商用車シェアリングネットワーク「クープ(COOP)」を始めた。テレマティクス(車両向け情報通信)技術を手掛けるイスラエルのオートノモ(Otonomo)は、コネクテッドカー(つながる車)のバーチャルフリート運営システムで特許を申請している。

一方、仏自動車部品大手ヴァレオは仏コンサルティング会社キャップジェミニ(Capgemini)と提携し、スマートキー技術の開発に取り組んでいる。利用者は自分のスマートフォン上の安全なデジタルキーを使い、車を開錠・施錠できる。これによりバーチャルフリートが可能になる。

予想される影響

・商用車の点検やメンテナンスの管理、所有を委託することで、運行管理各社は運営コストを削減し、車両のメンテナンスよりもプロセスの最適化に力を入れられる。

・商用車のシェアリングモデルは貨物シェアリングの機会をもたらす。これにより車両の運営を効率化できる。

・バーチャルフリート技術が進化すれば、小売りや配送業者を自動運転トラックにつなぎ、需要に応じてモノを輸送するプラットフォームを提供できるようになる。

充電道路

現在の充電インフラは商用EV網に対応するには不十分だ。もっとも、多くの企業が道路を効率的な無線充電器にするテクノロジーの開発に取り組んでいる。

道路とは何か

充電道路にはEVが走行しながら充電できるよう、ワイヤレス充電装置が埋め込まれている。太陽光パネルなどを設置して直接発電できる道路もある。

商用車のEVシフトには多くの課題があるが、目下の主なハードルは充電インフラだ。EVトラックは非常に重く、充電に時間を要する大型電池が必要だが、充電道路は走行しながら電力を補充し続けられるため、充電などで停止する時間が減り、車を有効活用できる。

充電道路はいわばスマホのワイヤレス充電器のパワーアップ版だ。設置コストが高く、車と規格を統一しなくてはならないため、地域ごとに異なる様々な規制のハードルに直面している。このため、当面は他の充電インフラや大容量の車載電池へのニーズを補完するほど普及することはないだろう。

それでもなお、充電道路は貨物トラックが多く走行する一部の高速道路にはうってつけだ。貨物トラックは同じルートを通ることが多く、余計な停止をせずに済むなどのメリットから十分に採算がとれる可能性があるからだ。

この技術はまだ開発初期の段階であり、試験区域の大半は1マイル(約1.6キロ)未満の単車線にとどまる。

先行企業

スタートアップ各社は様々なパートナー(企業、大学、電力会社、政府など)と共同で充電道路テクノロジーの開発に取り組んでいる。

イスラエルのエレクトレオン(Electreon)は22年初め、米フォード・モーターと米DTEエナジーと提携し、米ミシガン州で充電道路を実証した。エレクトレオンはすでにスウェーデン、イスラエル、イタリアで充電インフラを実装している。最高時速60キロで走行するEVを充電するために、車両下部のレシーバーで受電する電磁誘導(インダクティブ)方式の充電の開発に取り組んでいる。

一方、仏ベデコム(Vedecom)は道路でのインダクティブ充電技術を開発するため、米クアルコムと仏自動車大手ルノーと提携している。クアルコムは19年にワイヤレス充電事業を売却するまで、この分野の特許計1500件を保有または申請していた。

予想される影響

・充電道路網が広がれば、航続距離の制約が減り、路上で過ごせる時間が長くなるため、EVトラックの導入が進むだろう。

・充電道路のインフラを設置するには、巨費を投じて主要道路を大々的に刷新する必要がある。商用貨物トラックが多く走行するルートでは設置の正当性を主張しやすい。

・道路脇の太陽光パネルで集めたエネルギーを送電網に供給することで、新たな道路の設置費用の一部を相殺できる可能性がある。

デジタルツイン

車両運行管理向けのデジタルツインは、運行管理各社の業務を最適化し、プランニングを効率化する。

デジタルツインとは何か

車両運行管理向けのデジタルツインは実世界の車を仮想空間に動的(ダイナミック)に再現し、車両の状態や走行状況をモニタリングしたりシミュレーションしたりする。運行管理各社は自社の車両の運行状況やその改善方法を把握しやすくなる。

デジタルツインは車両から得たデータを分析し、実際に問題が生じる前にリスクを予測して軽減する。こうしたデジタルツインのシミュレーションによって故障を防いだり、車両の運行を最適化したりできる。

車両の運行を維持するのは複雑な作業で、提供されるサービスとコストのトレードオフ(相反)が頻発する。デジタルツインは車両運行モデルをダイナミックにし、遅延や故障など現場で起こる問題にリアルタイムで対処する。デジタルツインで運行モデルを作成することで、車両の制約(台数や空き状況)、製品の在庫、顧客への配達状況などの要因に、より適切に対応できる。

ECの需要は拡大し続けており、配送管理はこれまで以上に重要になっている。世界的なサプライチェーンの逼迫で、効率と接続性(コネクティビティー)を高めながらコストも削減できるデジタルツインのよう技術を活用した解決策の必要性が高まっている。

先行企業

車両運行管理でのデジタルツインの利用は増えている。各社は競争が激しく複雑な物流業界で優位に立とうとしているからだ。

空間の3次元(3D)データを制作する米マターポート(Matterport)はデジタルツインを支える多くの特許を保有または申請している。例えばKLMオランダ航空と提携し、同社が所有する航空機のモデルを作成している。

カナダのデカルト・システムズ・グループは配送ルートを計画する「ルートプランナー」で車両運行管理にデジタルツインをいち早く採用した。同社のデジタルツインでは運行上の問題に対する警告、パフォーマンスを予測するためのモデルの作成、政策変更に伴うアセスメントなどを提供しているという。米物流会社ジャガーフレイトはコストを削減し運送業者を最適化するため、デカルトのプラットフォーム「デカルト・デリバリー・マネジメント」を活用している。

予想される影響

・車両運行管理会社はデジタルツインを使ってダイナミックなシミュレーションを実施することで、資産を最適化して故障を減らし、コストを削減できる。

・デジタルツインはリアルタイムのデータを活用し、運送業者に交通状況や事故、悪天候を通知して配送時の混乱を減らす。遅延を避けるために走行ルートの設定を最適化することもできる。

・車両運行管理と物流の分野は極めて細分化されているため、商用車ネットワークを網羅するデジタルツインの構築は難しいだろう。

完全自動運転の商用車

「ファーストマイル(工場などから流通拠点まで)」から「ラスト(ワン)マイル(最寄りの物流拠点からエンドユーザーまで)」に至る輸送車両を完全に自動化するのは至難の業だ。だが多くの企業が陸や空の完全自動配送車の開発に取り組んでいる。

完全自動運転の商用車とは何か

完全自動運転の商用車は、ファーストマイル、ミドルマイル(物流拠点や倉庫などをつなぐ中間物流)、ラストワンマイルの配送を担う自動運転トラックなどからなる。

倉庫間の荷物の移動や流通拠点への輸送など、プロセスの大半で長距離トラックが使われる。その後は配送バンや歩道を通行するロボット、ドローン(小型無人機)などの小型車両(機)を活用し、顧客の玄関先に荷物を届ける(ラストワンマイル)。

完全自動運転とは、人間が導かなくてもどの場所にも運転できるという意味だ。完全自動運転車は通常は電動化もされており、事故の減少や生産性の向上、継続的に発生する費用(保険料や燃料費、ドライバーの人件費)の削減につながる。

250マイル(約400キロ)を超える長距離輸送で自動運転トラックを活用すれば、車両の効率は特に高まる。自動運転トラックはドライバーの飲食や休憩のために停止せずに済むからだ。

先行企業

各社は配送プロセスのあらゆる面で完全自動運転車を試行し、展開している。

米ウーバーテクノロジーズの物流部門ウーバー・フレイトは積み下ろしスペースでの自動運転車間の荷物の受け渡しや、自動運転トラックの遠隔サポート、自動運転車のコントロールなど自動運転トラックに関する多くの特許を保有している。ライバルの自動運転トラックメーカー、図森未来科技(TuSimple)も物体追跡、画像認識、配電構造など多くの特許を持つ。

ウォルマートは自動運転トラックの分野で特に活発に動いている。米クルーズ(乗用車)、米ニューロ(Nuro、配送ロボット)、ガティック(中間物流)などの自動運転開発企業と提携している。

ラストワンマイル配送では、米アマゾン・ドット・コムとウォルマートがドローンや配送ロボットから自動トレーラーに至るまで様々なタイプの自動運転車の特許を積極的に申請している。アマゾンは米オーロラ・イノベーション(Aurora、自動運転技術)、米リヴィアン(自動運転のEVトラック)、米ズークス(自動モビリティー)に出資している。

予想される影響

・自動運転の商用車が実用化されれば、無人のロボットやドローン、トラック、バンの活用により商用車の運行に伴う人件費が減り、人手不足の問題が回避されるだろう。

・専用の自動配送車、歩道を通行するロボット、ドローン配達は通常は完全に電動化されているため、従来のガソリン駆動のバンやトラックよりも持続可能な輸送オプションになる。

・自動運転車はドライバーが同乗しないため、食事や睡眠のために停止する必要がなく、配達速度が増す

・あらゆる形態の自動輸送で、複雑な規制環境がサービスの開始や規模拡大のネックになっている。

車載決済プラットフォーム

車載決済プラットフォームは車両運行管理の効率化と自動運転の商用車の充電自動化を支援する。

車載決済プラットフォームとは何か

車載決済プラットフォームはスマホのデジタルウォレット(財布)と似た機能で、車に搭載されている。人間が同乗しない自動配達車が充電や駐車などのサービスの代金を支払えるようにするために、必須の機能になるだろう。

通信機能を備えた自動運転車は、内蔵された決済プラットフォームでこうした代金を支払う一定の意思決定権限を持つ必要がある。例えば、インターネットとAIを活用して充電の最低価格や充電スタンドがある場所を見つけ、その場所まで自動で走行し、リアルタイムで安全な決済をするようになる。

自動運転車が他の車から取引可能なトークン(電子証票)として、(充電の価格や充電スタンドがある場所などの)データを購入するブロックチェーン(分散型台帳)プラットフォームを開発している企業もある。この仕組みによって自動運転車は効率的かつ安全にデータを共有できるようになり、安全性や取引の透明性、他の車やインフラとの通信能力が高まる。

あらかじめ定められた条件に基づいてブロックチェーン上で契約を自動執行する「スマートコントラクト」を活用し、自動運転車と充電スタンドなどとのサービスをつなぐ構想を抱いている企業もある。

先行企業

自動コネクテッドカーの決済システムという概念はあるが、開発はまだ初期段階にとどまる。

例えば、決済大手の米ビザはホンダと組み、未来の自動運転車の普及を見据えた車載決済技術を開発。ライバルの米マスターカードと米P97ネットワークス(P97 Networks)も同様の車載決済プラットフォームに取り組んでいる。

一方、米ゼネラル・モーターズ(GE)の商用EVブランド「ブライト・ドロップ(BrightDrop)」は自動運転バンの車載決済プラットフォームを開発している。シンガポールのスタートアップ、コーラス・モビリティー(Chorus Mobility)はブロックチェーン技術を使って取引を照合し、追跡する車載決済システムを手掛ける。

予想される影響

・金融機関には自動車メーカーやEV充電業者と提携し、自動決済プロセスを推進する新たな商機が生じる。

・取引を安全かつ適切に承認するために、データのプライバシーと保護は今後も最優先課題になるだろう

・ブロックチェーンなど分散型台帳技術の進化が、自動運転車の車載決済テクノロジーを支える可能性がある。

今後の見通し

次世代の商用車は今後10年の電動化、自動運転、充電インフラ、デジタルツイン技術の新たな進歩を活用し、コスト削減と効率化、持続可能性の向上を果たすだろう。こうした変化のなか、需要に応じたカーシェアリングモデルの台頭により車両運行管理の性質自体も進化し続ける。

競争の激化とテクノロジーの進化によって次世代の車両テックは手ごろになり、導入が加速するだろう。一方で規制の障壁が下がり、各社はコスト管理を推進して機能を拡充するために、自動運転の商用車の展開に目を向けるだろう。

NIKKEI Mobility

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