立飛HD、料亭×高級旅館の新施設 食でインバウンド誘客
不動産開発を手掛ける立飛ホールディングス(HD、東京都立川市)は今春にも日本料理店や茶房と旅館を融合した新施設を立川市に開業する。食をサービスの重要なコンテンツとしてとらえ、料理人が部屋の清掃や接客まで手掛けるなどきめ細かな対応が特徴。立川エリアは東京都心や富士山麓といった観光地と比べて訪日外国人(インバウンド)の取り込みが遅れており、食を起点に「通過されない街」を目指す。

施設名は「オーベルジュときと」でJR南武線の西国立駅から徒歩1分に位置する。約80年営業を続けた料亭が2019年に閉業したのに伴い、立飛HDが取得した。歴史ある建物を保存しつつ内装などを刷新しており、施工を住友林業が担う。
開発コンセプトは料亭と高級旅館の融合だ。施設内にはカウンター10席とホール22席を備える料亭を設ける。他にも16席の「茶房」や、最大20人を収容できる宴会場もある。対して客室は4つ。部屋面積を106平方メートルと高級ホテルと比べても大きくとった。全室に温泉掛け流しの露天風呂がある。
運営を指揮する立飛ホスピタリティマネジメント(同市)の坂本裕之取締役は「インバウンド向けには、日本文化を食と宿泊の両面から体験できる施設になる」と話す。オーベルジュとは食事を楽しみながら観光客が滞在できるフランス発祥の宿泊施設で、日本ではなじみの薄い宿泊形態だ。
開業に向け、総料理長と総支配人にはミシュランの星獲得経験のある料理人を招いた。

一般的なホテルでは調理や清掃、フロントでの接客などそれぞれの仕事ごとに専門の従業員を置いている。ときとは部屋数が少ないこともあり、料理人が清掃や接客など旅館の運営を兼ねる。直接利用客の声を聞くことで料理の味を工夫したり、感想を次のメニューに生かしたりする考えだ。
立飛HDが食に重点を置いた背景には新型コロナウイルス下での成功体験がある。同社は20年6月にJR立川駅前でソラノホテルを開業。ウェルビーイング(心と体の健康)をうたい高品質なベッドや自然由来の日用品、パーソナルトレーニングなどを用意したところ、ホテル市場に逆風が吹くなかでも順調に客数を伸ばしていった。
足元でも、立川エリアの宿泊施設の平均客室単価が1万円前後のところ同ホテルは4万円台で推移する。「食事や文化、健康などコンテンツを磨けば差異化につながる。都心の好立地でなくても集客できる」(坂本氏)。
立川市は新宿駅や東京駅からも近く、山梨県など自然観光へのアクセスもいい。ただ、特急や高速道路網が充実しており「通過されることも多かった。ときとで訪日外国人を取り込みたい」(坂本氏)。現状立飛HDは同エリアでホテルや複合商業施設を展開しているが、運営ノウハウを培って海外展開も視野に入れる。
立飛HDは1924年創業の飛行機製造会社を源流とし、「立川飛行機」の社名で知られた。70年代以降は不動産賃貸業に注力し、2011年に立飛HDが設立された。
今後の課題は認知度の向上だ。大手ホテルチェーンは数百万〜数千万の顧客基盤がある。ときとは大手ホテルよりも施設規模こそ小さいが、客室単価は都心の高価格帯と同水準かそれ以上を目指している。
政府の水際対策緩和や旅行支援で国内の宿泊・観光需要は急回復している。ただ新規オープンに際しては、魅力や思想が十分に伝わらなければ集客は難しい。通過される街から滞在目的地になれるか、立川を地盤とする立飛HDへの期待は大きい。
(佐伯太朗)
