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倉庫の自動化どこまで ロボット・ドローン活用最前線

CBINSIGHTS
スタートアップがロボットやドローン(小型無人機)、AR(拡張現実)グラスなどを使って倉庫での仕分けや在庫管理など作業の効率化を推し進めている。ネット通販の利用拡大や人手不足を背景に倉庫の自動化ニーズが高まっており、関連製品の市場規模は2024年に3260億ドル(約45兆円)に達する見込み。CBインサイツが倉庫関連スタートアップの最新の取り組みをまとめた。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

未来の倉庫は現在とは様変わりしているだろう。

現在は多くの作業員が携帯スキャン端末など数十年来のオートメーション機器を手に忙しく動き回り、商品のピッキングや仕分け、梱包、配送をしている。

未来の倉庫では、人の姿はなく、ロボットの運転音だけが静かに響く。ロボットは真っ暗闇で作業し、冷暖房は商品やロボットを保護する程度で済むため、エネルギーとコストを節約できる。ロボットは調和して動き、棚から商品を取り出してコンベヤーベルトに届ける。自動梱包システムは商品にぴったり合ったサイズの箱を作る。

ドローンは空中を飛んで無線自動識別(RFID)タグが埋め込まれた商品をスキャンし、場所や数量についてリアルタイムのデータを送る。各ロボットの動きは追跡され、機械学習のアルゴリズムに入力される。このアルゴリズムはサプライチェーン(供給網)のエコシステム(生態系)全体につながっており、あらゆるものの迅速化と効率化を図る。

この「ライツアウト・ウエアハウジング(明かりの消えた倉庫)」とも呼ばれる完全自動倉庫では、ロボットやセンサー、最先端のアルゴリズムが人間の作業員に取って代わる。

だが、そこに至る前に、作業員のパフォーマンスを向上させる様々なテクノロジーが進化し続けている。あらゆるモノがネットにつながるIoT機器の商用化やロボットの低コスト化、人工知能(AI)の進化などにより、倉庫業界では協働ロボットからパワーアシストスーツまで新しいテクノロジーの利用が広がっている。

今回の記事では、未来の倉庫のカギを握るテクノロジーについて取り上げる。

・人間とともに作業し、生産性を高める協働ロボット(コボット)

・商品をスキャンしたり移動したりし、在庫管理の時間を削減するドローン

・作業員の教育訓練を改善し、ミスを減らすARとVR(仮想現実)

そもそも何が問題なのか?

倉庫の自動化がなぜ重要なのか:世界で電子商取引(EC)の利用が拡大し、消費者の迅速な配達への期待が高まっているため、自動化と効率は極めて重要になっている。米ベイン・アンド・カンパニーの推計では、自動化によって2030年には倉庫の運営コストは13%減る。

倉庫では数十年前からベルトコンベヤーや仕分けシステム、携帯スキャナーなど標準的なオートメーション技術が使われてきたが、効率化とコスト削減をもたらすよりスマートでネットにつながったテクノロジーの採用が進んでいる。CBインサイツのアナリスト予想によると、24年にはこの分野の市場規模は3260億ドルに達する。

自動化の進展に向けた最初のテクノロジーは、作業員に取って代わるのではなく、生産性を高めるものになるだろう。だが、最終目標は完全自動化とサプライチェーンの完全相互接続だ。ロボットはいずれ、多くの倉庫の作業で作業員に完全に取って代わるようになるだろう。

なぜ今なのか:世界のサプライチェーンが新型コロナウイルス禍に伴う混乱から回復し、消費者がモノにお金を使い、迅速な配達を求めるようになっているため、倉庫の効率化はこれまで以上に重要になっている。

倉庫業界は人手不足に悩んでいる。21年7月の米輸送・倉庫業界の求人件数は過去最高の49万人に上った。産業用モバイル機器などを手掛ける米ゼブラ・テクノロジーズが委託した研究によると、倉庫責任者の60%が人材確保を課題に挙げた。自動化は人手不足を補うことができる。

もう一つの重要な課題はインフレの高進だ。倉庫の3大コスト「労働力、設備、不動産」が軒並み上昇しているため、自動化か作業員の生産性向上により必要な労働力を減らしたり、倉庫の利用効率を最大化したりする動きが生じている。

優位に立とうとしている企業:最新のロボットや特注の自動化技術により倉庫を一から設計し直せば、多額の費用がかかる。米アマゾン・ドット・コム、中国ネット通販大手の京東集団(JDドットコム)、米小売り大手ウォルマートなどの企業はこうした高価なシステムを導入できる資金力がある。独シーメンスやスイス重電大手ABB、日立製作所、米IT(情報技術)システム大手ロックウェル・オートメーション、米機械大手ハネウェル・インターナショナル、ファナックなどの自動化大手各社は大きな役割を果たすだろう。

それでもなお、スタートアップによる変革の余地は十分にある。米ベクナ・ロボティクス(Vecna Robotics)やクロアチアのギデオン・ブラザーズ(Gideon Brothers)といった新興勢は自動フォークリフトなどの倉庫用ロボットを手掛ける。仏エクゾテック(Exotec)は倉庫内で容器を運ぶロボットを開発し、米ロジワ(Logiwa)はクラウドを活用した倉庫や在庫の管理に特化している。

協働ロボット(コボット)

コボットは人と一緒に働くロボットシステムだ。

コボットはAIと高度化しつつある電気機械システムを活用して作業を速やかに完了することで、作業員の生産性を向上できる。

コボットとは何か

コボットは人間とともに安全に働けるよう設計されたロボットシステムだ。人間の制御なしで稼働する広範なオートメーション技術など従来のロボットとは違い、所定の作業で作業員に直接置き換わることを目的にはしていない。

コボットは軽量で動かせるため既存のインフラに組み込みやすく、システム展開にかかる時間を数カ月から数週間に短縮できる。しかも、従来のロボットシステムよりも低コストだ。

ソフトウエアプログラムにより作業指示を与えることが可能で、力覚センサーや映像解析技術(コンピュータービジョン)を備えているため周囲も感知できる。倉庫で商品を運ぶ自動のフォークリフトやペレタイザー、無人搬送車(AGV)などが主な例だ。

先発企業

最近の技術の進歩と低コスト化により、倉庫業界ではコボットの導入が進んでいる。

米コボットメーカー、ローカス・ロボティクス(Locus Robotics)の調達総額は3億1500万ドルで、21年にはシリーズEで5000万ドルを調達した。同社は22年にピッキングした商品の数が10億個に達するとの見通しを示した。同社のカレン・リービット最高マーケティング責任者(CMO)によると、同社のコボットは各作業員の生産性を最大3倍高め、「歩数をおそらく75~80%減らしている」。

大手ロボットメーカーの一部も倉庫物流に注目しつつある。

米マサチューセッツ州に拠点を置くボストン・ダイナミクス(Boston Dynamics)は19年4月、倉庫ロボットに手を広げるために産業用マシンビジョンのスタートアップ、米キネマシステムズ(Kinema Systems)を買収した。韓国の現代自動車グループは21年、ボストン・ダイナミクスの株式80%を11億ドルで取得した。

一方、米6リバー・システムズ(6 River Systems)は倉庫用コボットの開発費として4700万ドルを調達した後、19年にカナダのネット通販プラットフォーム、ショッピファイに4億5000万ドルで買収された。

エクゾテックもコボット分野の主なスタートアップだ。調達総額は4億5000万ドル近く、企業価値は20億ドルに上る。同社は様々なシステムを手掛けているが、特に注目すべきは倉庫用の搬送ロボットが作業員まで商品を運ぶ垂直保管システム「スカイポッド(Skypod)」だ。

予想される影響

・コボットはあらゆるタイプの倉庫に適しているわけではないが、適した状況で使えば大規模な刷新をせずに大きな付加価値を生み出せる。例えば、作業員がカートを多用し、歩く範囲が広く、注文を速やかに配送する圧力にさらされている倉庫で活用すれば、恩恵を得られる。

・このテクノロジーは柔軟性が高く、価格帯が広いため、大企業でも中小企業でも採算をとりやすい。レンタルサービスを提供している業者もあるため、各社は需要に応じて導入規模を調整できる。

・コボットは実装しやすい手段で作業員の生産性を高めることができるため、倉庫の人手不足の影響を軽減する大きな役割を果たせる。

ドローン

倉庫は管理された予想可能な環境であり、ドローンにとって理想的といえる。ドローンの飛行速度や精度、到達しづらい場所にアクセスする能力は、在庫管理など倉庫の作業で大いに役立つだろう。

ドローンとは何か

倉庫では、ドローン(飛行ロボットシステム)は在庫管理、イントラロジスティクス(倉庫内での商品の移動)、検査、監視に活用できる。

利用が拡大しつつあるのは在庫管理だ。軽量のスキャナーは倉庫内を素早く飛び回る能力を妨げず、ドローンの強みを生かせる。ドローン導入の成果をすでに報告している企業もある。

これまでの大量導入に際しての大きな課題は、倉庫内で正確な飛行を達成することだった。だが、高性能センサーのLiDAR(ライダー)など新しい視覚テクノロジーによって性能が大幅に向上し、より多くの倉庫で導入可能になった。

倉庫の運営責任者は今後数年のこうした発展に目を光らせておくべきだ。ドローンは大きな可能性を秘めているからだ。仏アルゴン・コンサルティングによると、わずか2機の在庫管理ドローンで作業員100人分の作業をこなせる。基礎技術のさらなる発展に伴い、ドローンの性能も向上し続けるだろう。

先発企業

ドローンは今のところ、主に在庫管理に活用されている。

米マサチューセッツ工科大学(MIT)の研究グループが17年、倉庫内を飛び、10メートル以上離れたRFIDタグを読み取るようドローンをプログラムしたのが最初の活用事例の一つだ。このシステムを開発した研究グループのファデル・アディブ教授によると「03~11年に米陸軍の倉庫で追跡不能になった補給品の総額は58億ドルに上った」。同氏はさらに「ドローンでアイテムや機器を見つけて識別できるようにすることで、この研究はこうした問題を解決する基礎技術に進化をもたらすだろう」とも語った。

ウォルマートはドローンの導入を推進している大企業の一つだ。同社は16年、在庫追跡の難しさに伴う売り上げの逸失を減らすため、ドローンを試験導入すると発表した。こうした売り上げの逸失は13年だけで30億ドルに上った。同社は当時、ドローンを活用すれば作業員による1カ月分の作業を1日で終えられると強調した。

この分野の主なスタートアップは米ギャザーAI(Gather AI)だ。同社はQRコードやバーコードをスキャンする在庫管理ドローンを手掛ける。ドローンを3機導入すれば、1時間にパレット(荷役台)1000枚分の荷物をスキャンできるとしている。同社はこのほど、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイを拠点とするエミレーツ航空傘下の空港地上支援企業ディナータと提携し、米テキサス州ダラス・フォートワース国際空港の倉庫にドローンを納入した。

仏アイシー(Eyesee)、南アフリカのドローンスキャン(DroneScan)、スイスのベリティ(Verity)などもこの分野での成功を目指している。各社は倉庫管理システム(WMS)を組み込んだドローンシステムを提供し、日々の正確な在庫追跡と分析を可能にしている。

予想される影響

・ドローン開発会社は初期のプロジェクトで好結果を出したとしても、自社のシステムが大規模な利用に対応可能だと示す必要がある。

・ドローンの倉庫での活用は、映像解析など他の多くの業界による主要技術への投資によって恩恵を得るだろう。

・イントラロジスティクスは引き続き大きな挑戦となる。重い荷物を運びながら飛行できるバッテリーを開発できるかどうかが倉庫用ドローンの成否のカギを握る。基礎技術が向上するまで、大きな進歩は見込めない。

AR・VR

倉庫運営各社による作業員の訓練や生産性の向上、ピッキング時のミス削減への需要は高まっている。これらはAR・VRが役立つ分野だ。

ARVRとは何か

ARとは現実の風景にデジタル要素を重ね合わせる技術を指す。自動車のヘッドアップディスプレーに似ている。AR機器は作業員の目の前にリアルタイムで指示を直接示せるため、訓練やピッキングなどの分野で役立つ。これにより訓練時間を短縮し、効率を高め、一部の作業を「ダウンロード可能な」スキルにすることさえ可能になる。

一方、VRは完全にバーチャルな没入体験だ。倉庫の設計時のレイアウトや長期計画のほか、訓練に活用すれば新入りの作業員がより素早く安全に仕事を覚えられる。

先発企業

AR・VR端末市場は比較的新しく、多くのスタートアップがシェアを争っている。一方、この分野ではミッドステージ(中期)やレイトステージ(後期)の企業への投資件数が占める割合が高くなりつつあり、成熟の兆しがみられる。

注目すべきARスタートアップは、倉庫用ARグラス「PikVu」を手掛けるインドのGetVuだ。人的ミスを減らすため、ピッキング担当者に商品までの経路案内、商品の特定、手ぶらでのスキャン、確認機能を提供する。同社はこのスマートグラスの活用によりピッキングのミスを最大99.99%減らせるとしている。

米ビュージックス(Vuzix)は音声で操作するスマートグラスで同様のシステムを提供している。バーコードスキャナーとエラーをリアルタイムで記録するビデオキャプチャーも搭載している。

倉庫管理システムに組み込めるARシステムもある。21年にシリーズDで1億5000万ドルを調達したスイスのスキャンディット(Scandit)は、在庫の補充や管理のためのARスキャンシステムを提供している。

大手物流企業はARの導入を進めている。独物流大手DHLは17年にARテクノロジーを導入して成果を挙げ「ARは物流に付加価値をもたらし、ピッキングプロセスの効率を25%高めた」と評価した。同社は独ユビマックス(Ubimax)のシステムを使っている。ユビマックスは20年、リモート接続サービスを手掛ける独チームビューワーに買収された。

一方、各社は倉庫の建設前からVRを活用し、業務フローや設計を最適化している。例えば、独エアハルト・パートナー・グループ(EPG)は仮想物流の計画に活用するサウンドプロジェクションを内蔵した特殊な空間「EPGホロデック」を開発した。従来のCAD(コンピューターによる設計)ソフトを超えた没入感の高い3次元(3D)体験を提供する。

VRは作業員の訓練にも役立つ。倉庫や製造業向けのフォークリフトを手掛ける米ハイスター(Hyster)は、リフトトラックの運転手1万人以上にVR訓練を実施したとしている。VRを使えば安全な環境で短時間に作業員を訓練できるという。

予想される影響

・AR・VRシステムはデータ追跡機能を向上するため、既存の倉庫管理システムと接続する可能性がある。もっとも、この機能は今のところ限定的だ。

・今後数年でネットワークの接続性とデータ処理機能が向上し、AR・VRシステムの動画ストリーミングと訓練の機能は高まるだろう。

・生理的状態を監視したり追跡機能を使ったりするウエアラブルでは、作業員のプライバシーが大きな懸念になる。企業は慎重に導入を進める必要があるだろう。

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