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中国恒大EV工場は鉄骨野ざらし 「成長」のからくりは

日経ビジネス電子版

世界が息をのんで見守る不動産大手、中国恒大集団の経営危機。その実態を知るために避けて通れない重要なグループ企業がある。経営トップの許家印氏が「3~5年で世界最大の電気自動車(EV)メーカーとなり、10年後には年産500万台を目指す」と宣言したEV事業会社、恒大新能源汽車集団だ。誰もが「実現は困難」と感じるいかにも大風呂敷な目標だが、恒大のビジネスモデルを解読すると、許氏がそう言うしかなかった「事情」が見えてくる。

9月下旬、中国江蘇省南通市にある恒大新能源汽車集団の工場用地を訪れると、目の前には奇妙な光景が広がっていた。だだっ広い敷地に無数の鉄骨が立ち、野ざらしになっている。作業員も建設機械も見当たらず、周囲は静寂に包まれていた。事情を聞こうとプレハブの建物の前で呼びかけてみたが、応える人はいない。

恒大汽車は9月26日夜、上海証券取引所の新興ハイテク市場「科創板」における人民元建て株式の発行計画を断念したと発表。同24日には高齢者向けリゾート施設に関するプロジェクトを一部中断したことを明らかにし、「資金注入がなければ資金繰りが破綻する」と投資家に警告していた。

恒大汽車は以前の社名を恒大健康産業集団といい、病院や老人ホームなどの経営を手掛ける会社だった。今回一部中断を発表した高齢者向けリゾート施設のプロジェクトは、その名残だ。かねてEV事業への参入意向を見せてきた恒大集団は、新興EVメーカーの米ファラデー・フューチャーに出資したが紛争に陥り、2018年末に和解。19年にスウェーデンのサーブを源流に持つNEVSを恒大健康が買収して、念願のEV事業に参入した。

老人ホームからEVメーカーへ

恒大健康は20年9月、恒大汽車へと社名を変更。同月、騰訊控股(テンセント)や滴滴出行(ディディ)、アリババ集団創業者の馬雲(ジャック・マー)氏の雲峰基金、米セコイア・キャピタルなどからの資金調達に成功したと発表している。香港市場に上場しており今年4月16日には時価総額で9兆5800億円となって米フォード・モーターを上回る局面もあった。経営危機が表面化し、株価は暴落した。

なぜ、恒大集団はEV事業にここまで執心したのか。そこには、2つの理由がありそうだ。

1つ目の理由は分かりやすい。中国政府が不動産価格抑制の方針を打ち出す中で、不動産以外の事業の柱をつくる必要に迫られていたことだ。中国の国策でもあるEV事業なら資金を集めやすい上に、海外市場へと打って出る可能性も開ける。

もう1つの狙いは、中国独特の事情を利用し、不動産事業とのシナジー効果が見込めたことだ。

冒頭の工場用地からクルマで10分ほど行くと、恒大の名を冠したマンション群が見えてきた。だが、建設工事が進んでいる様子はなく、販売事務所にも人影がない。展示用に造られたとみられる庭園の池に、事前には予想困難だが起きたときは非常に大きな衝撃をもたらす出来事を示す「ブラックスワン(黒い白鳥)」が2羽泳いでいたのは偶然だったのだろうか。周辺のマンションの守衛に聞いてみると「しばらく前から工事は止まっている」と教えてくれた。

恒大汽車は19年7月、グループ会社を通じて南通市内に「住宅用地」3カ所を取得している。総額は8億4300万元で「最安値に近い価格」だと報じられた。注目すべきは取得条件。「3カ月以内にEV工場の建設に取りかかり、36カ月以内に基本的に完成すること」という内容が含まれていた。果たせなかった場合は5億元の違約金が発生する。

恒大汽車はEV工場を建設することと引き換えに、地方政府から交通の便が良い住宅地を安価に提供してもらい、その土地をグループのマンション開発に活用する。中国では土地の所有は認められていないため、厳密には地方政府にお金を払って土地の使用権を認めてもらうことになる。地方政府にしてみれば、地元にEV工場ができて税収や雇用が生まれる上に、恒大がマンションを建ててくれて土地使用料も得られるという魅力的な提案だ。不動産とEVというはた目に不自然な組み合わせは、恒大にとってはシナジーを生むベストな組み合わせだったといえる。

恒大はわずか2年間で中国国内に広州、上海、青島、広西チワン族自治区、天津、鄭州、瀋陽、貴陽、西安などに続々と生産子会社を設立した。これらの工場全てを建設することは現実的ではないが、違約金を払わないために着工した形を取る必要がある。こうして、冒頭のように鉄骨だけを建てておき、資金繰りにメドが付くまで放置するという状況が生まれたわけだ。「年産500万台」という野心的な販売目標を掲げることは、工場建設計画との整合性をとるためにも必要だった。

売却先探しも難航

複数の中国メディアによれば現時点で工場の体をなしているのは天津と上海、広州だけだ。その中でNEVSから引き継いだ経緯がある天津工場のみが当局からEVの製造許可を得ているという。まだ1台もEVを販売できていない恒大はできる限りのリソースを天津工場に振り向けており11月中旬に生産開始する目標を立てているようだ。

中国政府が安易に救済に乗り出す可能性は低いとみられる。恒大集団は事業を売却して資金を捻出する必要に迫られており、恒大汽車については売却先を見つける必要がある。恒大汽車は8月、EV事業に参入したスマートフォン大手の小米(シャオミ)と初歩的な交渉をしたと明らかにしている。ただし、北京市当局はシャオミに北京宝沃汽車(北京ボルクヴァルト)を買収させようとしてきたとされる。シャオミにとっても恒大汽車が保有する資産はいかにも重すぎる。

中国の経済システムに深く食い込み、地方政府と二人三脚で業容を拡大してきた恒大。それだけに経営危機の解消に向けて問題を解きほぐす作業は一層難しくなっている。

(日経BP上海支局長 広岡延隆)

[日経ビジネス電子版 2021年9月29日の記事を再構成]

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