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町工場から梱包材EC事業者へ変身 ダンボールワン

辻俊宏代表取締役CEOは電子商取引(EC)を主力事業に育てた後、MBO(経営陣が参加する買収)で経営権を取得。受発注プラットフォーマーへ事業転換した
日経ビジネス電子版

従業員5人の段ボール工場で電子商取引(EC)事業をゼロから始め、受発注プラットフォームを構築したダンボールワン(金沢市)。全国の中小工場をネットワーク化するビジネスモデルで、梱包材EC事業を急拡大している。

「6年で売り上げを10倍に」──。こう聞くと、まず頭に浮かぶのは今はやりのIT(情報技術)系ソフトウエアサービスかもしれないが、さにあらず。売っているのは段ボールだ。特殊な素材を使っているわけでもない。古くからあるアナログな商材でも、売り方次第で成長できることを示したのがダンボールワンだ。

「安くて送料無料なのがいい」「15時までの注文で翌日配送なのはありがたい」「必要量だけ発注できて便利」──。同社のウェブサイトには利用者の声がずらりと並ぶ。

EC事業をゼロから育て、MBOでオーナーに

ダンボールワンは見積もりや発注が簡単にできるウェブサイトを武器に、顧客の用途に応じた仕様の段ボールを小ロットでも素早く提供することで、個人事業主から大企業まで幅広い需要を取り込むことに成功した。

この戦略は、辻俊宏最高経営責任者(CEO)が2005年に入社して、ゼロから立ち上げたものだ。秘密は業界の構造問題にある。

段ボールはかさばり、輸送コストがかかるため、家族経営の小規模な工場が全国に散在する。加えて各工場が手掛ける注文は、農産品向けや工業製品向けなど偏りがあり「季節による繁閑の差が大きい」(辻氏)。

辻氏はこうした工場と交渉し、閑散期を活用して生産を委託することで、多様な製品を安く調達する仕組みをつくり上げた。提携工場は全国約100カ所に上り、顧客は30万社を超えた。牛丼さながらの「早い(短納期)、安い(従来品に比べ最大9割引き)、便利(小ロットやオーダーメードも可能)で、段ボール生産のシェアリングプラットフォームを作っている」と辻氏は話す。

ダンボールワンは顧客のニーズに応じた段ボールを素早く提供する

もともと辻氏は学生起業家だ。19歳で地元・北陸地方の産品を販売するECサイトを立ち上げた。22歳で同事業を売却し、次の挑戦の場として選んだのが地元の段ボールメーカー、能登紙器(現ダンボールワン、石川県七尾市)だった。ビジネスの全体像や現場の課題が把握しづらい大企業よりも、町工場の方が成長できると考えたからだ。

入社当時は従業員5人で平均年齢は50代。社内の請求書は手書きという想定以上のアナログさだった。早速パソコンを導入し、対面や電話での注文受け付けをメールやウェブ上でできるように変えた。EC化で営業コストが削減でき、取引先の利便性が高まれば、注文を多くとれるはずと考えたのだ。学生時代の産直ECの成功パターンだったが、そうは問屋が卸さない。ECでの売り上げは半年で1万円にも届かず、「社内では『仕事をしていない人』扱いを受けた」(辻氏)。

転機は地道な営業活動の中で生まれた。辻氏は「どうしてうちで買わないのか」と取引先に尋ねて回った。訪問は月に約100件に上ったこともある。顧客の望むサイズや形を作ればいいと考えていたが、「サイズにこだわりはない。もっと安く」「じゃあいつ届けてくれるの?」という価格重視、納期重視の意見が主だった。

ここで得た知見を反映したのが、今の事業の原型だ。まず材料在庫をあえて抱え、10~20枚の小ロットでも買えるようにし、サイトに自動見積もり機能をつけて即日出荷にも対応した。初年度に30万円だったECでの売り上げは翌年度に280万円、2年後には2500万円まで伸びた。

スマートフォンサイトもいち早く用意し、利用者が簡単に使えるデザインソフトを取り入れるなど「使い勝手」を徹底的に追求した。価格は競合他社に対して大幅に下げたが、ただの安売りではない。価格重視、納期重視の両方の顧客に対応できるよう、納期に応じた価格設定も始めた。

こうしてECが売り上げの9割に達した17年、再び転機が訪れる。オーナーが会社売却を検討していることが判明したのだ。辻氏は自ら会社を買い取ることを決断した。

MBO(経営陣が参加する買収)の後、打ち出したのが現在のシェアリングプラットフォーム構想だ。折しも顧客数の増大とともに、自社工場からの輸送コストが重くなりつつあった。受注内容に応じて最適地で生産すればコストを抑えられる。そこから提携工場を次々と増やし、今では自社生産比率は3%程度。旧本社工場は研究開発拠点として、デザインや印刷方法を試す位置づけになった。ダンボールワンはマーケティングや技術開発に集中する。

ダンボールワンの売上高の推移

今後の目標は現在の約6倍に相当する売上高300億円。「段ボールと梱包材を合わせた国内市場は約3兆円、その1%を数年以内にとりたい」と意気込む。様々なデザインの印刷を施せる技術を利用し、梱包材に広告枠を設けるビジネスも構想中という。

課題は組織力だ。20年春には「何でも自分一人でやってきたせいで回らなくなった」(辻氏)。コロナ禍の巣ごもり需要でECが急拡大し、段ボールの需要も急増。対応が追いつかずに納期遅れが発生した。そこで20年11月にネット印刷のラクスル(東京・品川)から出資と人員の受け入れを決め、立て直しに動いた。辻氏のワンマン経営からチーム経営への脱皮が成功すれば、シェア1%の実現はぐっと近づくだろう。

(日経ビジネス 三田敬大)

[日経ビジネス 2021年8月2日号の記事を再構成]

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