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セイコーHDが志す第2の創業 社会課題の解決役に

日経ビジネス電子版
顧客や社会の課題を解決する「ソリューションカンパニー」への転換を打ち出したセイコーホールディングス(HD)。時計、デバイス、IT(情報技術)サービスといった従来の事業の枠を超えて、技術や知見を結集しようと動き始めた。狙いを定める医療や社会インフラなどの領域でシナジー(相乗効果)を発揮できるかどうかに、老舗グループの再成長がかかっている。

グループを挙げて再成長を図るには、顧客のニーズが何か、社会の課題をどう解決すればよいかといった視点が必要だ。そこで、セイコーは従来「ウオッチ」「電子デバイス」など製品ごとだった事業区分を4月に見直した。

時計など感性に訴える商品を手掛ける「エモーショナルバリューソリューション(EVS)」、精密部品の「デバイスソリューション(DS)」、ネットワーク系などの「システムソリューション(SS)」の3つに改めた。セイコーHDの服部真二会長は「3つのドメインをDX(デジタルトランスフォーメーション)でつないでシナジーを生み出したい」と意気込む。

B to B(企業向け)とB to C(消費者向け)の双方の事業を抱え、ハードからソフトまで幅広い製品・サービスを手掛けるのがセイコーの強み。それらを生かすことで、成長を期待する医療やスポーツ、環境関連といった分野へのソリューション提供を目指す。

現状、セイコーの連結業績をライバル2社と比べると、売上高はほぼ同規模。カシオ計算機は楽器事業、シチズン時計は工作機械事業を持つなど厳密に比較はできないものの、営業利益額や利益率、時価総額などで見劣りする。「一部製品でセイコーエプソンにOEM(相手先ブランドによる生産)委託していることもあり、製造マージンを取りづらい」(国内証券アナリスト)構造要因もある。

一方、ソリューションカンパニーへの転換を打ち出したことは「単なるメーカーから変わろうという意思を感じる」(岡三証券の島本隆司アナリスト)との評価も出ている。

「時計一本足」から少しずつ変わり始めたセイコー。DXを生かし、消費行動やニーズといったデータと、定量化できない「感性価値」の両側面から顧客へのアプローチを進められれば、VUCA(ブーカ=変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)時代をも生き抜く筋肉質な会社に生まれ変われるかもしれない。

そのためには「ソリューションカンパニー」が意味するところをグループの各事業会社、全ての社員に浸透させることが前提となる。

デバイス×ITサービスで農業DX

精密機器や2次電池などを手掛けるセイコーインスツル(千葉市)。内藤高弘社長はセイコーソリューションズが持つIoT(モノのインターネット)関連技術と、自社のデバイスやシステム開発技術などを組み合わせることで、農業など向けのソリューションビジネスを展開する構想を温めている。

その一つとして考えられるのが、農業用の自動運転機器だ。全地球測位システム(GPS)を活用して農場の温度や土壌の状況といったデータを集積した上で、農機を遠隔操作するといった具合だ。農機メーカーなど外部と組む前提ではあるものの「無線ネットワークやデータ分析、センシングといったユニットは提供できる」(内藤氏)と見る。

セイコーインスツルはセンシング機器や高性能デバイスを持つ。センシング機器には有線のみならず無線で使えるものや、バッテリーが不要なものもある。「セイコーソリューションズのようにパッケージでソリューション提供できる会社と組むことで、大化けさせることができるのでは」(内藤氏)と期待する。

例えばコンビニエンスストアでは新型コロナウイルス禍もあって、空気中の二酸化炭素(CO2)濃度の監視や、店内や冷蔵庫の温度管理を徹底する動きが広がっている。こうした動きを受け、コンビニや映画館といった公共施設向けにモニタリングシステムの売り込みを始めている。

祖業はどこへ行く

一方、祖業の時計事業はどこへ向かうのか。

「素材の組み合わせが興味深い」「ルーペでじっくり細部を眺めたい」。海外評論家らがこう高く評価する腕時計がある。時計事業会社のセイコーウオッチ(東京・中央)が手掛ける高級ブランド「グランドセイコー(GS)」の人気商品「SLGH005」(希望小売価格104万5000円)だ。

時計界のアカデミー賞ともされる「ジュネーブ時計グランプリ」で21年、メンズウオッチ部門賞を受賞した。かつて低中価格帯の商品を中心にしてきた海外市場で、高級化戦略が実を結び始めたことを示す。

服部会長(当時は社長)の号令で10年に海外販売を本格化したが、当初は「セイコー」ブランドの中の1コレクションとしての扱いだった。だが海外では思うように売れない。それまでのセイコーは中価格帯の時計が主力だったため、スイスブランドの腕時計が並ぶ高級店にGSを置いてもらうこともかなわなかった。

リスクを覚悟で戦略を転換したのは17年。海外市場ではGSをセイコーブランドから切り離し、独立ブランド化に踏み切った。販売ルートも分けた。GSとセイコーは別ブランドと強調することで「流通や消費者への明確なメッセージとなり、GSが伸びるきっかけの一つになった」(セイコーウオッチの内藤昭男社長)。

ソリューションカンパニーへの転換──。それは祖業にもシナジー(相乗効果)をもたらす。新型コロナの影響で時計の対面販売は大きく落ち込んだが、買い物相談に乗ってくれる「オンラインコンシェルジュ」を和光が導入したことでGSの販売数量が増え、和光の収益を下支えした。このシステム開発にセイコーソリューションズが携わった。

時計で培った信頼生かせるか

ドメイン間でのシナジー創出に向けては、セイコーHDの100%出資で子会社「セイコーフューチャークリエーション(仮称)」を7月に設立する。医療やヘルスケア、社会インフラ、環境といった分野での新事業開発や研究開発(R&D)を担う。

数多くの社会課題が存在するという意味では、いずれも成長が見込めそうな領域だ。ただ、グループの力を結集することで具体的にどのような事業や製品・サービスを生み出せるのか、具体策づくりはこれからだ。

重点分野に掲げる「ウェルネス」や「社会・環境」といったテーマは同業他社のみならず、国内外の多くの企業も触手を伸ばしている。結果としてレッドオーシャン(競争が激しく、収益を上げるのが難しい市場)に飛び込んでしまうことになりかねず、競争の中で埋もれてしまう事態は避けなければならない。

「時計の会社」として培ってきた信用や信頼を武器にしつつ、セイコーにしか出し得ない新たなソリューションを世に送り出し、しっかり稼ぐ──。それが、セイコーの第2の創業が成功するための絶対条件だ。

パートナー交え総力戦 セイコーHDの高橋修司社長に聞く



ソリューションカンパニーを目指す理由はモノを売るだけではなく、社会課題を解決するための会社になっていくという意思表示だ。対外的なメッセージではあるが、社員たちの意識を変えるためのメッセージでもある。
 
お客様が持ついろんな課題の裏には社会が抱えている課題がある。それを我々が解決しようとする際にどういうベネフィットや価値を生んでいくかを考え、ビジネスモデル化していく、という発想をする。それがソリューションカンパニーになるということだ。


歴史が長ければ長いほど、目の前の仕事を片付けたり、それを改善したり、といったことに意識が向かいがちだ。
だが、そもそもどういうお客様がいて、我々がどんな価値を提供するか、もう一度立ち返って考えないとサステナブル(持続可能)な事業体になれない。そうでないと、本当に変化の激しいこの時代に生き残っていけないんじゃないかという危機感がある。
だからこそ、企業としての成長と社会課題の解決という両輪を回すことを、今後の経営の根幹に据えている。その実現には、人材育成、特にDX(デジタルトランスフォーメーション)の教育が非常に大切だ。
IT(情報技術)を使えば今までできなかったことが容易にできるようになる。例えば、お客様のデータを活用してAI(人工知能)で解析すれば、モノを売りっぱなしではなく、次にお客様に何か違った提案ができる可能性がある。
自分たちが強みだと思うものを伸ばすのが経営の基本かもしれない。だが、ソリューションカンパニーは強みじゃないこともやる必要がある。デジタル化したこの成熟社会では、昔みたいに絶対的な技術はあまりない。お客様や社会の課題解決のためには自社内の技術だけでなく、他のパートナーから提供してもらうという考え方が必要だろう。
ブランドというのは大きな強みで、141年積み重ねてきた、お客様から見たある種のイメージだ。ただ、いつまでも「セイコーは時計のブランドだ」と言われているようでは困る。セイコーがソリューションカンパニーとしてもう一度評価されるような立ち位置に早く行きたい。(談)

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス電子版 2022年6月30日の記事を再構成]

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