動画配信の成長の壁、アニメが破れるか
先読みウェブワールド(藤村厚夫氏)
動画配信サービス大手の「ディズニー+(プラス)」、そして「ネットフリックス」に異変が生じている。いずれも2020年からのコロナ禍で生じた「巣ごもり需要」も追い風にして急成長を続けてきたが、ここにきてその減速が明らかになってきた。
まず、ディズニー+だが、21年7~9月期で会員数の伸びの鈍化が指摘された。ネットフリックスも1月に発表した21年10~12月期の純増数が会社予想に届かず、22年1~3月期の有料契約者の見通しも市場予測を下回った。決算発表を受け、米国市場でハイテク関連株に売りを広げる一因ともなった。

もちろん、米国内での成長余地が無限でないことはわかっていたことだ。消費者がいくつもの動画配信サービスに支出するのには限界がある。ネットフリックス、ディズニー+、Amazonプライムビデオだけでなく、HBOマックス、Hulu、そしてピーコック……と群雄割拠状態の動画配信市場では、それぞれの成長余地は今後限られてくる。
そこで、ディズニーやネットフリックスは海外市場に目を向ける。ディズニー+はインドでの成長に熱心で、ネットフリックスはここ数年、日本、韓国などアジア圏でのオリジナル作品開発に力を注ぐ。「全裸監督」(日本)や「イカゲーム」(韓国)などのように、単に各国市場向けの現地制作にとどまらず、世界に通用する大ヒット作品が生み出されるようになったことはよく知られているところだ。
これら動画配信大手の成長を阻むのは、ライバルである同業他社の存在だけとは限らない。実際、ネットフリックスの最高経営責任者(CEO)であるリード・ヘイスティングス氏は、最大のライバルとして「フォートナイト」などオンラインゲームの存在をあげており、21年には日本でもアンドロイド版のネットフリックスアプリに、ゲームを配信する試みを開始した。
このように、他の産業から羨まれるような成長を続けてきた動画配信にも、「成長の壁」ともいえる現象が生じているわけだが、ここにきて世界の動画配信の未来に影響を与えそうな材料に注目が集まっている。それも日本発の動向だ。「アニメ」である。

世界の視聴者動向を分析する米パロット・アナリティクスが発表した「グローバルTVデマンド・アワード」で、日本の「進撃の巨人」が21年に最も需要があったアニメシリーズと発表された。パロットはアニメの世界需要が大きく伸び、日本語コンテンツの世界需要も増加したと説明する。
もちろん、このような視聴者の変化を動画配信大手が気づかないわけがない。実際、ネットフリックスでは、アニメ専門の担当チームを組織し作品の品ぞろえ強化を進める。日本発アニメやその実写版などオリジナルにも力を入れる。アニメ制作会社との提携にも熱心に取り組んでいる。
ネットフリックスだけではない。HuluやAmazonプライムもアニメの品ぞろえを急ぐかまえだ。アニメはグローバルな市場で勢いを増している。まさに動画配信大手の成長を支える救世主ともなりそうな勢いなのだ。
[日経MJ2022年2月7日付]