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三菱商事、移動データ活用実験 観光や防災など幅広く

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

三菱商事が福島県の会津若松市で、移動データ活用の実証実験を進めている。同市はスマートシティー構想を掲げ、30社以上の大手企業が集まる。三菱商事は地域を支えるモビリティー分野でデジタルトランスフォーメーション(DX)を進め、これをモデルに新たなデータ応用の手法を探る。住民一人ひとりの需要に応じた地域分散型のITサービスを確立する構えだ。

三菱商事は移動データを軸に幅広い企業と連携する

東北有数の観光地である会津若松市の鶴ヶ城を起点に、城下町を巡るコースを案内する専用サイトが立ち上がった。名称は「会津でチャリ旅やってくんつぇ。」で、手掛けたのは三菱商事と昭文社ホールディングス子会社のマップルだ。「酒蔵」や「伝統工芸」などテーマごとにコースを設定している。自転車のレンタル予約機能を備えるとともに、地図やおすすめスポットの情報を用意した。

ビッグデータと連動

画面を見るだけでは一般的な観光案内サイトとの違いは分からないが、実は三菱商事が進めるビッグデータ活用の実証実験と連動している。自転車に取り付けた全地球測位システム(GPS)のセンサーで得た走行データを使い、利用者が実際に自転車で走った経路を把握するのだ。

観光客は提案したコースをそのまま走るとは限らない。実際の走行ルートや一時的に駐輪した位置と時間なども把握する。これを利用者の属性や購買履歴などと組み合わせて分析することで、個人の好みと行動の関連などを詳細につかむことが可能になる。

このデータを生かせば周遊しやすいルートづくりや、土産店やカフェなどに誘導するクーポン作成に生かせる。自治体や地元企業と連携し、移動や消費を促す仕組みづくりを探ることが狙いだ。

実証実験は2021年度末まで続け、その後はバスなど公共交通との連携も想定している。観光客だけでなく、市民の日常の移動効率を高める取り組みにも広げていく方針だ。さらには災害対策や買い物補助、医療機関への通院支援といった分野で、移動データを有効活用した新サービスの創出を目指す。

実証にはオランダのヒア・テクノロジーズが持つ分析技術を活用している。三菱商事がNTTと共同出資したヒアは、地図上に蓄積した様々なデータを大量に処理できる技術に強い。三菱商事にとっては、ヒアの技術を実際の現場に応用する機会にもなる。

実証の場となった会津若松市はスマートシティー構想を掲げる複数の自治体の中でも、広範囲にわたるデジタル対応の取り組みで知られる。東日本大震災が起きた11年以来、住民の需要に合ったサービスの開発を徹底してきた。個人情報の提供に同意したIDの登録者数は1万人を超える規模まで拡大している。

地域情報ポータルサイトでは除雪車の位置の把握やスマートフォンで母子手帳や小学校からの連絡が見られるアプリなど、住民の要望に寄り添った仕組みを設けている。

これまでは遠隔医療や地域通貨、農業向けドローンといった分野で実証実験を進めてきた。「ヘルスケア」「行政」「防災」など重点分野に加えて交通や教育、エネルギーなどにも幅広く力を入れ、スマートシティー構想の実現に向けて進めていく。

アイクトには多くの企業が入居している

鶴ヶ城の近くにあるオフィス「スマートシティAiCT(アイクト)」には米アクセンチュアや日本マイクロソフト、NECなど30社以上が拠点を構える。出光興産などIT以外の企業もイノベーション拠点として入居することが増えており、地元の会津大学やスタートアップと連携する場としても機能している。

三菱商事は19年にアイクト内で「三菱商事デジタルイノベーションセンター」を開設した。基礎分野である交通(モビリティー)分野を担い、位置情報の活用や移動需要の創出などを探っている。平竹雅人センター長は「市民生活を便利にするIT活用で、中核にあるのが移動データだ」と意義を強調する。

アルゴリズムがビジネスに

レンタサイクルが主軸の実証実験は観光客が主な対象だが、データの活用範囲は広い。冬場の路面の状況に応じて除雪作業の効率を高めたり、災害時に避難者が1カ所に集中する事態を避けて安全に市民を誘導したりと、様々な応用が考えられる。平竹氏は「実証データを基にアルゴリズムをつくれば、それがビジネスになる」と狙いを語る。

三井住友海上火災保険とは、移動データを活用した新たな「時間保険」の構想も練り始めた。1年単位の契約ではなく、乗り物に乗った時間や用途に応じて保険商品を売るといった将来像を描く。

会津若松市は政府が募集する国家戦略特区「スーパーシティー」の指定を申請している。指定を受ければ、新たな取り組みの障壁となっていた規制を変えられる可能性がある。モビリティー分野では地域内でのカーシェアや自動走行ロボットなど、様々なサービスの開発に道が開ける。

「地域分散」のビジネスモデルを

三菱商事が地域密着型のITサービスを開発する背景には、米グーグルやアマゾン・ドット・コムなどGAFAに対抗する意識もある。会津若松での取り組みは個人データを自治体や地元企業など地域の共同体で保有し、データ提供に同意した市民が積極的に参加する構造だ。データの独占を武器に巨大化してきたGAFAとは異なる新たな「地域分散」のビジネスモデルを導き出そうとしている。

アイクトで三菱商事と同居するアクセンチュアは「都市OS」と呼ぶ基本システムづくりでスマートシティーを主導している。中村彰二朗マネジング・ディレクターは「(決済の取引情報など)データを地域の共有財産にしないと、住民への恩恵は限られる。GAFAの成功モデルは中央集権型で、欧州を中心に逆風が吹いている」と指摘する。

許可を得たうえで住民の個人データを積極的に活用できれば、地域の経済活性化などにつながる。スマートシティーづくりが進めば三菱商事は電力やエネルギー、小売り、物流など傘下の事業やサービスを導入できる。

会津若松市で市民の細かい需要をくみ取る地域版プラットフォームをつくることは、新たなビジネスの種をまくことにもつながっている。

(薬文江)

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