車ビジネスの大変革
新風シリコンバレー 米インタートラストテクノロジーズマネジャー フィル・キーズ氏
先日、英国のトヨタ自動車は面白い発表をした。それは自社の中古自動車を改造して、再販売するサービスを開始するという話だった。実際にトヨタはこの先を検討しているかどうかが分からないが、このサービスは今後の自動車ビジネスの可能性を指摘していると思う。

まず、この取り組みは自動車業界が電気自動車(EV)に切り替えた時代を想定している。EVはモーターやブレーキなどの機材部品は長持ちするとされているのでこれら部品を改造させる手間は少ないと考えられている。逆に、デジタル技術の速い進化で電池や半導体、ソフトウエアなどデジタル・システムの方がアップグレードさせる重要性が高くなる。
現在の自動車業界は長持ちする自動車部品とデジタル技術進化のミスマッチで苦労しているので、こうしたサービスがこの問題を解決するだろう。しかし、これに限らず自動車業界は、車自体を販売するビジネスモデルから「自動車アズ・ア・サービス(MasS)」を提供することに切り替わっていくのだろう。
すでにいくつかの自動車会社は車をリースしたり時間貸しするサービスを試行し始めた。したがって今後は自動車各社は自動車単体を販売するより、必要な時期に自動車とデジタルシステムをアップグレードさせるサービスを販売するビジネスモデルにシフトしていくだろう。
こうしたビジネスシフトをするには今がちょうどいいタイミングかもしれない。従来の自動車ビジネスモデルは毎年スタイリングや機能の変更をしていた。だが、今では「現在の顧客は自動車の外見より中身が気に入っていると思う」と米フォード・モーターの幹部は言う。
顧客は自動車の電子技術の魅力が高まっていると認識している。米テスラは既に、スタイリングを変更するより自動車の電子技術の進化で、製品に顧客の興味をひきつけ続けることができることを示している。
自動車の設計はボディーやドライブトレーンは長持ちできるように、中央演算装置(CPU)やセンサー、ソフトウエアなどを簡単にアップグレードができるようになるだろう。ある意味、長持ちする飛行機製品と似るようになる。製品寿命が終了した自動車を廃棄する数を減らすことで環境負担を減らせる。
さらに電子システムのアップグレードでサイバーセキュリティーや運転手のアシスト機能が高まり安全性も飛躍的に向上できる。
独フォルクスワーゲンや米ゼネラル・モーターズなどの大手メーカーが既にソフトウエアの開発を強化すると発表している。それにしても、半導体の開発やソフトウエア、デジタルサービスの展開や、MaaSではシリコンバレーのテック企業が大きく重要な役割を果たすだろう。
さらにはこうしたサービスを先に市場に展開して、従来型の自動車メーカーの収益構造やビジネスモデルに変革を迫るだろう。
[日経産業新聞2022年4月5日付]
