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デンカの4番になった「粉」 長打狙わず単打重ね飛躍

日経ビジネス電子版

2022年3月期に過去最高益を見込む中堅化学メーカーのデンカ。稼ぎ頭の一つになっているのが、電池や半導体の放熱部品に使う材料「球状アルミナ」だ。開発してから20年弱、改善を繰り返し、えり好みせずに顧客の要望に応えてきたことが実を結んだ。

「これ以上お客様をお待たせするわけにはいかない」。デンカで電子・先端プロダクツ部門長を務める石田郁雄執行役員は、シンガポールの新工場が22年4月に稼働するのを心待ちにしている。約40億円を投じた新工場で造るのは、デンカの稼ぎ頭の一つである特殊な「粉」。これまでは大牟田工場(福岡県大牟田市)で製造してきたが、新工場の設置で生産能力を一気に約5倍に引き上げることになる。「その生産能力を満たすだけの十分な潜在需要がある」と石田氏は自信を見せる。

電池や半導体の放熱を支える

この特殊な粉とは「球状アルミナ」。アルミニウムの酸化物を球状の粒子にしたものだ。粒子の直径は1マイクロ(マイクロは100万分の1)メートルに満たないものから0.1ミリメートル程度のものまである。樹脂やゴムに混ぜると高い放熱性を発揮することから、放熱用部品の材料として用いられる。

デンカは球状アルミナで世界シェア60%を占める最大手。その用途は、電気自動車(EV)の電池向けの放熱パッド、半導体パッケージ向けの放熱シート、高速通信規格「5G」の基地局向け放熱グリースなど、成長著しい分野が多い。半導体や電池など、大量の電力を消費して大きく発熱する部品が増える中、機器の小型化や軽量化を実現するためには効率よく放熱できる素材が不可欠だ。そうした機器を開発する企業にとって、高品質の球状アルミナを提供するデンカは不可欠な存在になっている。

デンカが04年に球状アルミナを開発した当初は、競合品を引き離すほどの製品力があったわけではない。パソコンの放熱シートなどに使われる程度で、放熱材として使う球状アルミナ自体の市場規模も「今の20分の1程度と小さかった」(先端機能材料部の末永卓也部長)。

その球状アルミナを主力製品に押し上げた原動力は、「粉」の技術を磨き続けるDNAと、ホームランを狙わずに単打を積み上げるように顧客からの要求に応える文化だ。石田氏は「困ったらデンカに行けば何かある。そんなデパートのような存在になろうと取り組んできた」と話す。

規模を追わずに着実に利益を積み重ねてきたことはデンカの業績からも分かる。21年3月期までの10年間を見ると、売上高は1%減った一方で、営業利益は41%増えている。そして、22年3月期はさらなる上乗せを見込む。今井俊夫社長は11月8日、「過去最高を目指すとした期初予想からさらに増益を見込んでいる」と力強く宣言した。

奇をてらわず改善続ける

デンカが球状アルミナの品質を高めた取り組み自体に奇策と言えるようなものはない。開発部門と工場が連携しながら「高温で溶かす、不純物をなくすといった技術を突き詰めてきた」(デンカアドバンテックの飯塚慶至General Manager)。奇をてらわず、地道な改善を続けるのがデンカらしさだ。

例えば1000度を超えるような高温で加熱する工程。「電気化学工業」として1915年に設立した時に手掛けていた石灰窒素肥料の製造以来、デンカは高温を制御する技術を脈々と受け継いできた。ただ、単純な加熱方法ではアルミナの粒が不ぞろいな形状になってしまう。どのように加熱すればきれいな球体に近づくのか。低温から徐々に高温へ温度を上げたり、逆に下げたり……。細かな微調整を何度も繰り返してきた。

不純物を減らす取り組みにも余念はない。製造工程の中で不純物を入れないための設備の工夫や、不純物を除去する技術の開発を進めるだけでなく、原料メーカーの指導にも踏み込む。原料の製造過程の粉末を提供してもらい、徹底的に分析。「この工程で異物が増えているので対策してほしい」といった要望をしてきた。

顧客をえり好みしない

こうして品質を高めてきた球状アルミナを、どんな分野で使ってもらうか。デンカが大事にしてきたのは、えり好みをしないことだ。既存の顧客や、展示会などの機会を利用して接点ができた顧客の要望にとにかく耳を傾ける。「もう少し小さい粒径にできないか」「この部品の冷却に使おうとすると放熱性が少し足りない」「不純物の混入をこれぐらいに抑えてくれたら新しい用途に使える」。こうした顧客の声を開発部門や工場に届け、見込まれる需要の多少にかかわらず最大限対応してきた。

根底にあるのは、「ホームランを狙う必要はない。単打を積み重ねるやり方で安定的な事業拡大が図れる」(石田氏)という発想だ。あらゆる顧客の声を聞いた結果、デンカの球状アルミナは品質だけでなくラインアップの多さでも競合を引き離せるようになった。平均粒径が0.3マイクロメートルと極めて微細なものから、肉眼で球形を確認できる100マイクロメートル程度のものまで豊富な品ぞろえだ。「顧客から『デンカに頼めば何とかなる』と言ってもらえるようになった」(同)という。

トップシェアという現状に満足せず、さらなる技術開発にも取り組む。EVの電池や5G以降の通信機器などは今後も需要が拡大するうえ、より高い放熱性能への要求が見込まれるからだ。そこで20年10月に発売したのが「球状マグネシア」。マグネシウムの酸化物を球状の粒子にしたもので、球状アルミナに比べて約1.5倍の放熱性能を持つ。アルミナで培った製造技術を応用し、幅広い顧客の要望に応えられる体制を整えた。

40億円を投じたシンガポールの新工場に続き、21年10月には球状アルミナの生産を担ってきた大牟田工場への50億円の設備投資を決定。球状アルミナや球状マグネシアの高機能グレード品の製造設備を増強する計画だ。売上高に占める研究開発費の比率も徐々に高めており、21年3月期は4%台前半だった。三菱ケミカルホールディングス(3%台後半)や三井化学(2%台後半)といった国内化学大手を上回る水準だ。

5カ年の経営計画の中で「社会にとってかけがえのない存在」という理想像を掲げるデンカ。地道な努力や顧客対応をいとわない社風を維持した先に、こうした理想像に近づいた姿が見えてくるはずだ。

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス 2021年11月29日号の記事を再構成]

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