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日立の小島新社長、ハングリー精神秘める研究者

日立製作所の小島啓二新社長は「いろんな逆境の中でも揺るがずに1兆円の営業利益をしっかり出す」と語る
日経ビジネス電子版

日立製作所は23日、7年ぶりに社長が交代し、小島啓二副社長が昇格した。研究畑を歩んできた小島氏は、同社が成長の核に据えるIoTサービス基盤「ルマーダ」事業の生みの親だ。一方、30歳過ぎで、米国のスタートアップに役員として身を置き、限りある資金の中で「スリルとサスペンス」を味わった。穏やかな語り口からは想像しづらいハングリー精神を秘め、日立のかじ取りを担う。

社長就任から2日後の6月25日、日立本社で開かれた小島氏の共同インタビュー。約2週間前の投資家向け説明会で初めて掲げた「2026年3月期に営業利益1兆円」の真意について記者が問うと、次のように説明した。

「いろんな逆境の中でも揺るがずに1兆円の営業利益をしっかり出す。日立をそういった強靱(きょうじん)な会社にすることが(社長の)バトンを受け取った私の役割だと考えている」

7年ぶりに社長が交代し、トップに就いた小島氏は入社以来、情報システムを中心とした研究畑を歩んだ。ルマーダ事業に16年の立ち上げから関わってきた同事業の生みの親だ。顧客の課題解決を目指すルマーダで、従来にはない、日立社員が顧客側に入り込む、新しい研究の形をつくってきた。

鍛えられた米国時代

30歳過ぎのとき、米シリコンバレーで経営の面白さを知った。日立の米国法人に籍を置きながら、米スタートアップの役員を務め、その会社で共同研究のリーダーになった。「どんどんお金が減っていくけど、人を雇わないといけない。銀行口座にあといくら残っているのかという、スリルとサスペンスを味わった」と振り返る。

「会社の中だけを見ていてもだめで、外に出て、例えば、会社をつくってみようかという、山っ気が(経営者の)原点になるのでないか」。柔和な顔つきや穏やかな語り口からは想像しづらい、ハングリー精神を感じさせる。

経営上重視しているのはコミュニケーションだ。社長就任前まで就いていたライフ部門トップのとき、東原敏昭社長(当時)から日立ハイテクの完全子会社化や、自動車部品事業、家電事業などを切り出して他社との共同事業化を進めるよう頼まれた。各事業の約10年を振り返って調べてみると、切り出そうと試みたものの、実現に至らなかったことが何度もあったことが分かった。

「トップダウンで決めても、多くの階層やファンクションの人たちが同じ思いにならないと、どこかで引っかかる。その結果、スピードが遅れて、(協業を進めようとする)相手の企業もいるなかで、どんどん状況が変わり、結局、(事業を抱え続ける)現状がそのまま続いていた」

そうした過去から、小島氏はライフ部門での事業見直しに当たり「トップから、現場で交渉に当たる人、切り出される事業の人まで」コミュニケーションの徹底を図った。「その先にどんな成長のイメージがあるのか。そして、この決断が、その事業を強くするために一番重要であることを共有した」という。トップダウンといっても、上から指示を出すだけではそう簡単に組織は動かない。議論を尽くして思いを共有できてこそ、改革のスピードを速められると小島氏は強調する。

小島氏が掲げた「営業益1兆円」は、単なる利益目標ではなく、何が起こっても堪えられる強い企業の条件を示したものだ。「私が目指す日立のイメージ」と語る。日立の過去最高の営業利益は19年3月期の7549億円だった。21年3月期は前期比25%減の4951億円で、目指す目標はここから2倍の水準だ。

日立の事業ポートフォリオ改革のスタートは、リーマン・ショックが08年に起こり、7873億円の最終赤字となった09年3月期にさかのぼる。そこから川村隆氏、中西宏明氏、そして東原氏と3代にわたって改革を続けてきた。しかし「相当体質は強くなったとはいえ、(今回の新型コロナウイルス禍で)7000億~8000億円出るはずの営業利益が5000億円程度に落ち込んだ」。コロナ禍を受けて強い経営の必要性を痛感したといい「もっともっと強靱な会社になりたい」と話す。

「1兆円クラブ」への仲間入り目指す

世界の上場企業の決算をQUICK・ファクトセットで調べたところ、直近の決算期でEBIT(利払い・税引き前利益)が1兆円を超えた企業は約70社。日本企業はソフトバンクグループトヨタ自動車NTTソニーグループKDDIが入る。「1兆円クラブ」への仲間入りを果たすのは並大抵のことではない。

小島氏はトヨタについて「リーマン・ショックや東日本大震災を経て、危機のたびに強化を図ったのだろう」と語る。同社は20年5月時点で、21年3月期の営業利益を5000億円と見込んでいたが、蓋を開ければ2兆円超となった。

強靱な会社をつくる上でカギとなるのは、自身が深く関わってきたルマーダ事業。様々な事業部門のうち、IT部門に占めるルマーダの売上高比率が22%なのに対してエネルギー、ライフの各部門では4%程度にとどまる。日立は今後、エネルギー部門で20年に買収したスイス重電大手ABBの送配電事業、ライフ部門では完全子会社化した日立ハイテクとそれぞれ融合させ、事業を拡大する。

何が起きても営業益1兆円を計上する――。小島氏は「利益面のバッファ、事業や地域のポートフォリオの強さが必要」と語る。川村氏から続く日立の改革は世界で存在感を示す企業に成長していく局面へと変わっている。新生日立が越えるべきハードルは一段と高くなっている。

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス 2021年6月29日の記事を再構成]

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