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NFTで変わる顧客との関係 東海自動車も凸版印刷も

日経ビジネス電子版
「Web3(ウェブスリー)」と呼ばれる次世代のインターネット技術がオンライン上に出現させる無数のつながりの場では、知らない人同士が共通の目的や利益を対等に分かち合う。ビジネスの世界でも顧客や他社との結びつきをより強めて一緒に何かを創り出そうと、新たな風が吹き始めている。

映画「となりのトトロ」に出てくる「ネコバス」のような見た目の昭和レトロなボンネットバス。かつては路線バスとして日本中で活躍したが、元気に走る現存車体は数少ない。小田急グループの東海自動車(静岡県伊東市)が所有する1964年式の「伊豆の踊子号」は今も貸し切りやツアーで走る。1917年の設立から105年、伊豆の足として走り続ける同社の歴史を象徴する存在だ。

「105年の歴史を永久的な証しとしてNFT(非代替性トークン)に残しましょう」。東海自動車は22年10月に、この伊豆の踊子号や過去に存在していたバスなどのイラスト10点を複製ができないNFTとして1点3000円で発行した。総務部の土屋知也氏が1年前、社内の新規事業募集に提案した。わざわざ同社のレトロバスを目当てに、伊豆地域を訪れる乗客もいる。こうした価値をIP(知的財産)ととらえ、NFTとして具現化しようとしたのだ。

乗り物好きのNFTユーザーに狙い

土屋氏は「乗り物好きであり、かつNFTが好きな層」を戦略的なターゲットにして企画を練った。これまで東海自動車が重視してきたのは実際にバスを利用する乗客で、日々のバスの運行と直接つながりのないNFTユーザーをファンとして取り込もうという発想そのものがなかった。

「管理や会計処理などリスクはないのか」「複製できないデジタルデータなんてあるのか」「バスの絵にお金を払う人がいるのか」審査通過後、社内で様々な疑問をぶつけられた。悩んだ土屋氏がWeb3のインフルエンサーにメールで相談すると、NFT事業のコンサルティング会社を紹介された。暗号資産を保管する財布「ウォレット」や会計処理などのシステムを委託することで、経営上のリスクを切り離した。

土屋氏はチャットツールのディスコード内に東海バスのコミュニティーも開設した。「次は斜め45度のバスのNFTが欲しい」「バスツアーの活性化につながる何かをできないか」など意見も少しずつ出てきているが、まだ盛り上がっているとは言えない。「一過性で終わらせたくない」。土屋氏はファンとのつながりが熱量を高め、同社や地域の移動・観光の起爆剤になってくれることを期待している。

目下、構想を温めているのが、「伊豆を周遊してもらう仕組み作り」だ。伊豆半島の観光スポットや飲食店などと連携してNFTを発行して周遊してもらえるような仕組みを作るなど、ビジョンは広がる。

凸版印刷がWeb3支援組織を設置

東海自動車のようにWeb3に可能性を感じる企業は多い。だが、ほとんどの企業がどこから手をつけていいか分からない状態で悩んでいる。

凸版印刷は10月、NFT販売支援やファンコミュニティー形成、DAO(分散型自律組織)構築などを使った顧客のマーケティング活動を支援する「WEB3マーケティングユニット」を立ち上げた。Web3時代はマーケティング領域において、個人がつながるコミュニティー向けが主流になる可能性が高いと判断したからだ。

米IT(情報技術)大手「GAFA」のようなプラットフォーマーを介して人々がつながっているWeb2時代は発信力があるインフルエンサーが影響力を持ち、企業はブランドや製品の宣伝に彼らを活用した。だが、Web3時代はネットに接続する誰かと瞬時にデータのやり取りや自動取引ができる。つまり、中央管理の仕組みを使わずに個人間のコンピューターで直接通信するようになる。オンライン上に不特定多数の個人がつながる「集いの場」が無数に出来上がる。企業も「コミュニティー」を重視し、様々な集いの場に訴求したり、自ら形成したり、とマーケティングの打ち手が変わっていくということだ。

凸版印刷によると、国内外スタートアップ企業やDAOから、ブロックチェーン技術などを活用した素晴らしいアイデアが次々と登場している。ただ課題がある。「Web3関連のサービスは、誰が作っているのか、不正工作が可能なバックドアがないのかなど調べることが難しいものが多い」と情報コミュニケーション事業本部の山下薫氏は語る。

そこで凸版印刷は媒介役として名乗りをあげる。日本企業が使いやすいようにWeb3関連のサービスを再開発し、自らがプロバイダー的役割を担うことで、誰もが安心安全にWeb3を活用できることを目指す。

給与とは別にトークン発行も

新設部署は組織も働き方も水平的なDAO的組織とした。「まず自分たちから変わらないと、顧客にも勧められない」。凸版印刷でWeb3関連事業をけん引する同本部の平山正俊氏は狙いをこう語る。チームは70人。決裁権を役員が持つのではなく、民主的に合意形成して物事を決める。会社役職の上下関係は排除して、活動への貢献度などで組織内の立場が変わる仕組みにする。

チャットツールのディスコードでは早速、幅広い提案が飛び交い、外部企業との複数の提携案件が同時並行で進められるようになった。今後、ディスコードには業務提携する企業も入れるようにする予定だ。独自のプライベートトークンを給与や稼働費とは別に支払うことでインセンティブを高めていく。

70人はそれぞれ所属部署の業務を抱えながら自発的に集まった。売り上げやノルマはなく、自由にアイデアを出しスピード感を持って動いている。「将来、本格的にWeb3時代に突入すれば、ビジネスも組織のガバナンスも変わる。誰かがいじっておかないとダメだから勝手にやろう。そういう集団です」(山下氏)

他にも多くの企業がWeb3時代に顧客との結びつきを再構築しようと、情報を集めて社内外で議論を進めている。どうコミュニティーを形成して盛り上げていけるか。求められているのは「何を提供するか」から「何を共に創るか」へと、発想を転換することだ。

(日経ビジネス 岡田達也)

[日経ビジネス電子版 2022年11月28日の記事を再構成]

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