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東京ガス、株主還元を縮小 脱炭素投資へ資金創出

東京ガスが脱炭素投資を手厚くするため、株主還元の縮小に踏み切る。2022年3月期から、連結純利益に占める配当と自社株買いの合計額の比率「総還元性向」の目標を6割から5割に下げる。年間で数十億円の現金を創出し、再生可能エネルギー企業への成長資金に充てる。脱炭素投資のために株主還元を減らすケースは世界でも珍しい。

29日の取締役会で決め発表した。総還元性向は配当と翌期の自社株買いの合計額を連結純利益で割って算出する。東ガスは07年3月期に6割の目標を掲げ、約15年にわたり実行してきた。4~5割程度にとどまる他のエネルギー関連企業より高く、市場から「還元優等生」との評価を受けてきた。

22年3月期からは自社株買いを圧縮して総還元性向の目標を5割に引き下げる。現状60円に設定している年間配当は下げない方針だ。直近5年間の純利益は平均すると600億円程度で、1割縮めれば年間約60億円の投資余力を生む計算になる。株主還元を縮小すれば財務の改善につながり、金融機関からの借り入れ余地も広がる。東ガスは今後10年程度で数兆円規模の資金を創出できるとみる。

捻出した資金で太陽光や洋上風力、バイオマスといった再生エネ事業の開発を加速する。二酸化炭素(CO2)と水素を合成して都市ガス主成分のメタンをつくる「メタネーション」の技術開発も進める。「都市ガス一本足経営」と皮肉られる現状を打破するには、株主に一時的な負担を強いてでも、脱炭素時代の事業基盤を整えるべきだと判断した。

東ガスにとって還元の見直しは昨年からの課題だった。20年11月末の経営説明会で内田高史社長が株主還元の見直しを示唆したところ、株価は説明会前につけた高値から数週間で1割超下落した。

新型コロナウイルス下でガス需要が振るわない一方、21年1月には寒波でアジア地域の液化天然ガス(LNG)需給が逼迫し、スポット市場の価格が暴騰した。事業環境の悪化もあって投資家との対話も深まらず、4月ごろとしていた還元方針の公表時期を延期していた。それでもこのタイミングで還元縮小に踏み切ったのは「いまのままでは生き残れない」(内田社長)との危機感がある。

17年4月、都市ガス販売の全面自由化をきっかけに、消費者は自由にガス会社を選べるようになった。東ガスの地盤である首都圏では、東京電力グループなどが新たに参入。東ガスのガス部門の顧客数は17年3月末時点で1000万件以上あったが、21年3月末には880万件と1割以上減った。

新しいエネルギー政策も背中を押した。政府は20年10月に「50年の温暖化ガス実質ゼロ」を宣言。LNGは石炭に比べCO2排出量は少ないものの、欧州などではすでに脱炭素エネルギーとはいえない「グレーな存在」となりつつある。50年を見据えれば、いまから再生エネを経営の柱に育てていかざるを得ない。

東ガスはいまの中期経営計画で再生エネ投資を加速する。23年3月期までの3年で国内外の再生エネ事業に1400億円を投じる方針だ。30年までに営業利益と持ち分法投資損益の合計で約2000億円を目指す。これは21年3月期の2.5倍にあたる。ガス・電力セグメントの比率を5割に下げ、海外事業は現状の数%から25%に伸ばす。東ガスは今回の還元縮小に合わせた新たな成長戦略を年内にも公表する予定だ。

約1年続いた配当政策の不透明感を映し、東ガスの株価は29日終値で昨年末比12%安の2092円だった。時価総額は約9200億円と業界2位の大阪ガス(約8500億円)の接近を許している。

総還元性向5割という水準はエネルギー業界ではなお高い。東ガスは今後、株主や投資家に還元縮小の背景と理由を説明し、理解を求めていく。成長という果実が伴わなければ、投資家からの反発が強まるのは必至だ。

市場との対話重要に


経済社会の変化に応じて株主と経営者が経営資源の配分で正面からせめぎ合う。東京ガスの今回の決断は、非連続な時代の企業統治改革の本質を映す。
市場の目線はなお厳しい。大和証券アナリストの西川周作氏は「投資のリターンと、なぜ今すぐ巨額投資が必要なのかきちんと示すべきだ」と話す。脱炭素投資で業績拡大を示唆しながら、具体的にどう業績に反映されるかの説明が足りないとの指摘だ。
脱炭素投資のために株主還元を減らすケースは世界でも珍しい。欧州では20年に英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルが油価下落による業績の悪化を受けて80年ぶりに減配した。ただ21年には、脱炭素投資と株主還元の強化をセットで経営戦略として公表した。
国内では昭和シェル石油(現出光興産)が10年12月期に年間配当を15年ぶりに減配した。当時の新井純社長は「需要が低迷する石油事業の構造を変える一方、太陽電池事業のコスト競争力を高める必要がある」と理由を説いた。太陽電池事業はその後、中国勢におされ停滞を余儀なくされた。成長を実現する難しさを象徴する。
企業統治に詳しい井上光太郎・東京工業大学教授は「多くの機関投資家は高い水準の企業統治を確保した上で、環境も社会も追求せよと要請している」と指摘する。「(東ガスが)建設的会話を重ねて機関投資家と合意できるかどうかが、脱炭素投資を加速させる今後の試金石になる」とみている。
(向野崚、鈴木大祐)

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