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製品のCO2排出量、カードで確認 環境貢献度を測定

Earth 新潮流 日本総合研究所常務理事 足達英一郎氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

脱炭素に向けて環境意識が高まるなか、自身の消費行動による二酸化炭素(CO2)排出量を確認できるサービスが出てきている。カナダの金融機関はクレジットカードの所有者が購入した製品などの炭素排出量を追跡できるサービスを始めた。環境への貢献をポイントとして付与する金融機関もあり、環境価値と経済価値を可視化して統合する流れが期待されている。

カナダ・バンクーバーに本拠を置く大手信用組合ヴァンシティはCO2の排出量を計算できる機能を備えたクレジットカードを開発した。この機能を活用し、2月1日に新たなサービスを始めた。クレジットカード「Vancity Visaカード」の所有者は購入した製品・サービスの炭素排出量を推定・追跡できるようになった。

全国平均と比較、見直しも

カード会員は毎月の炭素排出量の集計を確認して全国平均と比較したり、履歴から自分の購買行動を見直したりできるようになる。相談窓口も設置し、会員に対してCO2の排出削減に関するアドバイスも提供する。

今回のサービスは欧州で気候関連技術を手がけるecolytiqとの提携により誕生した。ヴァンシティは推定炭素排出量を追跡できるクレジットカードを提供するカナダ初の金融機関とされる。

スウェーデンでは、2018年に設立されたスタートアップのDoconomyが19年にマスターカードと連携し、クレジットカード「DOカード」を発行した。これ以来、クレジットカードを通じて製品・サービスの購入による気候変動への影響度合いを把握できるサービスが世界で広がっている。

日本では22年6月に大手信販系カード会社から、購買行動による炭素排出量を推計できるクレジットカードが発行された。海外では銀行口座の支出上限だけでなく、推定炭素排出量の合計が上限を超えると、それ以上購入できなくなるクレジットカードも出てきている。

「炭素アカウント」も登場

中国では、スマートフォンなどでの電子決済や様々な行動履歴を気候変動に与える影響度と結びつけ、スマホアプリなどでポイント管理する仕組みが急速に広がっている。これは「炭素アカウント」と名付けられており、電子商取引(EC)最大手のアリババ集団が22年8月に開始した「88カーボン アカウント」がその代表格とされている。

こうしたポイント付与の対象や方法は、口座を管理する金融機関やアプリ運営会社によって、現時点ではそれぞれ異なっている。しかし、これを集約させていこうという試みも出てきている。

中国環境保護連合会(CEPF)が22年4月に公表した「市民のグリーン・低炭素行動のための温暖化ガス排出量削減の定量的ガイドライン」もその一つだ。衣食住や交通、その他生活での利用、オフィス、デジタル金融の7つのカテゴリーごとに、排出削減につながる40の「グリーン・低炭素行動」を特定している。気候変動の緩和に貢献する行動パターンを分類した個人版タクソノミーといえる。

中国では個人の生活だけにとどまらず、経済取引の対象として「環境権益」が一般化する現象も出てきている。環境権益とは、「経済の負の問題を解決するために天然資源の消費や環境負荷に関して企業や個人の許容量を設定し、総量を抑制する過程で生じる権利と利益」を指す。

具体的には、再生可能エネルギー由来のグリーン電力やグリーン証書、中国政府が自主的に参加する事業者に対して発行する炭素クレジット「中国認証排出削減量(Chinese Certified Emission Reduction)」などが該当するとされている。

ここでの取引主体は現時点では企業中心となっている。ただ、個人の削減努力や気候変動の緩和への貢献度が客観的に信頼性のある形で算定されたり、個人の排出枠取引制度が導入されたりすれば、今後は企業と個人の炭素アカウントが統合されていく可能性もあるだろう。

また、こうしたポイントが経済的価値を持ち、金融取引の対象として拡大していくことも考えられる。例えば、ポイントをもとにお金を借りたり、利殖ができたりするようになるというイメージだ。

このように経済価値とともに環境価値を可視化していくことで、両者を統合していくという方向性は自然な流れなのかもしれない。また、その領域は気候変動の緩和のみに決してとどまらない。

自然資本、財務に反映も

英国規格協会は1月19日付で国際標準化機構(ISO)の各国会員団体に、新規のISO規格(ISO14054)の開発提案を送付した。その内容は「組織のための自然資本会計(仕様)」という規格を国際標準にしたいとするもので、4月14日には各国の採否の投票が締め切られる。

提案書によると、この規格は自然資本の勘定を作成するプロセスの仕様とガイダンスを提供するものという。自然資本に対する組織の依存度を示す自然資本バランスシート(NCBS)と、自然資本に対する組織の影響を示す自然資本所得計算書(NCIS)の2つの文書の作成を想定している。

NCBSは貸借対照表(バランスシート)を手本とし、自然資本の資産価値と自然資本維持の負債を示す。ただ貸借対照表が過去の実績の集計であるのに対して、NCBSは将来予測が前提となる。NCISは損益計算書を手本とし、組織の活動がもたらすプラスとマイナスの影響を示すものとなっている。

英国規格協会の提案書は「こうした自然資本会計は、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)、自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)、企業持続可能性報告指令(CSRD)などに対応する際に役立つ」と作成意義について触れている。

こうした一連の潮流に通じているのは「炭素排出量を測定できなければ気候変動を制御することができない」という思想だと考えられる。逆に言えば「制御するためには測定しなければならない」ということだ。計測の取り組みや手法の作成は、常に情報開示の手法やルール作りに結びつき、金融サービスにも統合されていく。

日本国内では、気候変動への影響度合いを厳密かつ正確に測ることなど簡単ではないとし、環境価値を数値化することへの抵抗感がまだ残っている。だが、世界の多くの地域では積極的に様々な試みが導入されている。こうしたダイナミズムが数年前には考えられなかったデジタル技術によって現実のものとなっており、新たな潮流に乗り遅れないようにしたい。

[日経産業新聞2023年3月3日付]

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