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利益追求主義否定へ違和感 利益を最大化してこそ企業

ハーマン・サイモン氏 経営学者、サイモン・クチャー&パートナーズ名誉会長。経済学と経営学を学び、独ボン大学で博士号取得。独マインツ大学とビーレフェルト大学などで教授を務めた。1985年、独コンサルティング会社サイモン・クチャー&パートナーズを共同創業。ドイツ語圏ではピーター・ドラッカーに次いで最も影響力のある経営思想家とされる。著書に『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(中央経済社)、『価格の掟』(中央経済社)など
日経ビジネス電子版

国外では、「株主第一主義」とともに「企業の利益最大化」にも厳しい視線が向けられている。ドイツの経営学者、ハーマン・サイモン氏はその風潮に疑問を投げかける。

『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』をはじめ、ビジネスに携わる者に様々な示唆を与える数多くの著書で知られ、徹底して「利益」を重視するスタンスからの提言を続けてきた。

そんなサイモン氏は、昨今流行している「企業の目的は必ずしも利益の追求ではない」という論調をどう見ているのだろうか。

「今日、まるで『それ以上に人のしゃくに障る概念はない』と思えるほど、『企業の利益最大化』が嫌われているようだ。『株主価値の向上』と同じくらい嫌われている。しかし(米英を中心とする)この風潮について、私には大きな違和感がある」

2019年8月に開催された米ビジネス・ラウンドテーブルで「企業の目的」に関する宣言の見直しが発表され、注目を集めた。利益追求に取って代わる新たな「企業の目的」として表明されたのが、「すべてのステークホルダー(利害関係者)に対する責務を全うする」ことだった。

188人中181人が賛同

この会議には米国の大手企業の最高経営責任者(CEO)188人が参加し、181人がこの新たな宣言に賛同した。その中には、米大手投資銀行JPモルガン・チェースのジェイミー・ダイモンCEOや、米国で影響力のある投資家、ブラックロックとバンガード・グループのトップも含まれていた。

「米ビジネス・ラウンドテーブルでは過半数の賛成で決議案が可決されたが、これは集団心理のようなものも働いていたと思う。(利益追求主義の否定が)ある種の『流行』として社会的に受け入れられていたからである。その後に世界経済フォーラムが発表したダボス会議における『ダボス・マニフェスト』もおおむね同じような内容だったのが、その証拠だ」

こうした風潮の源流には、米ゼネラル・エレクトリック(GE)の元CEOである故ジャック・ウェルチ氏が、09年に英フィナンシャル・タイムズ紙などに語っていた、利益追求への批判などがある。だがサイモン氏は、当時ウェルチ氏が否定したものは、正しい意味での「利益追求」とは異なると主張する。

「ウェルチ氏は株主のための利益最大化を批判したが、これは彼がGEで約20年間やっていたことと明らかに矛盾する。彼は、GEの株価を高めたことで尊敬された経営者だった。私に言わせれば、そもそもウェルチ氏は在任中、確かに短期的な株価上昇には貢献したが、『長期的な利益を追求できる体質』に会社を変えた経営者ではない」

「例えば、20年以上にわたって毎四半期収益を増大させ続けたというが、それはウェルチ氏が、GEのすべての部門に非常に強いプレッシャーをかけ続けた結果、実現したことだ」

「実際、彼の後継者のジェフ・イメルト氏はその反動に苦労した。15年ほど前、イメルト氏に会ったことがあるが、彼は『収益性が低く、長期的に生き残れない部門がある』と語っていた。つまり、ウェルチ氏は長期的ではなく、短期的利益の最大化につながる施策を実践していたのだ。そこには、私の利益に対する考え方と、根本的な違いがある」

ジャック・ウェルチ氏は長期的な利益を高めたのか(2001年撮影)

サイモン氏は、短期的な利益最大化を目指す経営は、もはや時代遅れであると考えている。現在、企業の現実の行動に最も影響を与え得るのは、投資家やファンドといった金融資本を動かすグループによる働きかけだ。そして、彼らが企業に求めるものは既に、短期的な成果から、長期的な繁栄につながる活動へと取って代わりつつあるからだ。

「最近、主要な投資家の一部が、持続可能性や気候変動への対応こそが投資の重要な判断基準になると述べている。企業が環境を汚染することは、未来永劫(えいごう)とても高いリスクを抱えることにつながるからだ」

「投資家は当然、このようなリスクを回避する。投資ファンドや大手のアセットマネジャーはとりわけ、『ESG(環境・社会・企業統治)』と呼ばれる概念に配慮するよう企業に大きなプレッシャーをかける傾向にある。それは(企業の行動変容に対して)ラウンドテーブルやダボス会議の声明よりはるかに強い影響力がある」

つまりサイモン氏が言いたいのはこういうことだ。

世界では「企業の利益主義への否定」が称賛を浴びているが、否定すべきは「短期的利益の追求」であり、長期的利益は、企業が必ず目指すべきものである。にもかかわらず、昨今の利益否定の風潮は、企業が利益確保を目指すこと自体を否定すべきであるかのように聞こえかねない──。これがサイモン氏の「違和感」の正体だ。

まるで異なる2つの利益

「長期的な利益の最大化を目指す場合は、短期志向とは発想が全く異なってくる」

「例えば今回のコロナ禍を考えてみてほしい。世の中に不足している製品を保有している企業は、そのポジションを乱用し得る。例えば、製造費が1枚5セント程度しかかからないマスクを1枚5ドルで売ることだってできた。だがそうすれば、短期的には利益が増えても、長期的には会社のイメージや評判が台無しになるだろう」

(日経ビジネス 広野彩子)

[日経ビジネス 2021年4月26日号の記事を再構成]

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