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30歳のサントリー天然水、首位浮上は「森の恩返し」

日経ビジネス電子版

「南アルプス 天然水♪」。CMで流れていたこんな歌声を覚えている読者も多いだろう。発売30周年を迎えたサントリー食品インターナショナルの「サントリー天然水」が飲料市場で首位の座を維持している。ヒットを支えるのは、商品の源である「水源」とその価値を守る取り組みだ。

7月上旬、サントリー食品インターナショナルの新たな水源である北アルプス(長野県大町市)からの出荷が本格的に始まった。ミネラルウオーター「サントリー天然水」の4番目の水源地であり、現在は年間1500万ケース(1ケースは550ミリリットル入りペットボトル24本換算)の生産能力を持つ。

7月上旬に本格的に出荷を始めた「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」(長野県大町市)

サントリー食品インターナショナルは2020年11月、「南アルプスの天然水」「奥大山の天然水」「阿蘇の天然水」として提供してきたミネラルウオーターのブランドをサントリー天然水に統一した。新工場の製品は北陸や東海地域を中心に出荷していく予定という。

飲料総研(東京・新宿)によると、サントリー天然水の20年の販売数量は1億1290万ケース。18年から3年連続で国内清涼飲料市場の首位をキープしている。

10年時点のサントリー天然水の販売数量は5080万ケースで、飲料品では6位。上位を占めていたのはコーヒーやお茶、コーラなどだった。そのサントリー天然水が18年に首位に躍り出た要因の一つは、ミネラルウオーター全体の消費量の増加だ。健康志向や備蓄意識の高まりにより、ここ10年間で1.7倍に増えている。

飲料品のブランドランキング。サントリー天然水が直近の3年連続で首位

ミネラルウオーターの消費量が増えただけではなく、サントリー天然水は競合品との差を広げた。全体で6位だった10年時点では、9位だった日本コカ・コーラの「森の水だより」「い・ろ・は・す」(計4120万ケース)とそれほど大きな差はなかった。それが、20年には販売数量で2.5倍の差をつけるまでになった。

サントリー食品インターナショナル ジャパン事業本部ブランド開発事業部の平岡雅文課長は「水の清らかさ、それを体内に取り込む心地よさといった水の存在意義を浸透させることを重視してきた」と話す。

例えばテレビコマーシャル。発売当時は「世間の水より、天然水」というナレーションで、現地でしか飲めなかった天然水を都会でも口にすることができるようになったことを強調した。宇多田ヒカルさんを起用した最近のコマーシャルでは「#水の山、行ってきた」というキャッチコピーで、天然水を育む山や森、水源の身近さを前面に出した。

商品ラインアップも拡充した。13年に炭酸水「サントリー南アルプスの天然水スパークリング」を発売。フレーバーウオーターの分野では、14年に「サントリー南アルプスの天然水&朝摘みオレンジ」、15年に「同ヨーグリーナ」を投入した。こうした商品で若年層との接点を増やし、「天然水」を身近に感じてもらえるようになったわけだ。

そして、「天然水」という言葉を使った商品の価値を損ねないために継続してきたのが、森づくりに始まる水源保全の取り組みだ。

使用量の2倍の水を涵養

サントリーグループは03年に「天然水の森」と呼ぶ活動を始めた。ミネラルウオーターや茶、ウイスキーやビールなど多くの飲料を手掛けるサントリーにとって、水は欠かせない資源。水源を維持するために、国や自治体などの森林所有者と30~100年の長期協定を結んで森林を整備している。

「地下水の持続可能性を守れるかどうかが会社の生命線。自社だけでなく社会にとって大切な資源だからこそ、水の涵養(かんよう)が欠かせない」とサントリー食品インターナショナルは説明する。

天然水の森として整備している森林は、全国15都府県の計21カ所、約1万2000ヘクタールに及ぶ。「工場でくみ上げる地下水量の2倍以上の水を涵養する」との目標を達成している。

その司令塔を務めるのが、サントリーグループで基礎研究を担うサントリーグローバルイノベーションセンター(東京・港)の「水科学研究所」だ。地下水の持続可能性を大きな研究テーマの一つと位置付けるこの研究所は、土壌や水質、水量などを実地調査し、コンピューター上で山を再現。そこに雨や雪を降らせ、地下水がどのようにして流れていくかをシミュレーションする。

レーザーを使った航空測量も実施する。地形図で読み取れない細かな地形の変化が分かるほか、木がどのような密度で生えているかも断面図で分析できるからだ。シミュレーションや実地調査の情報に基づいて、50年や100年先まで森林を守っていくために必要な森林整備計画を立てていく。これを天然水の森の活動に反映している。

水源づくりには実地調査とシミュレーションが欠かせない。写真は地下水調査の様子

こうした長期的な活動を続けていても、供給できない事態に陥ることはある。16年4月に発生した熊本地震。九州熊本工場(熊本県嘉島町)の配管や天井などの設備が損傷した影響で「阿蘇の天然水」の生産がストップした。阿蘇の天然水が流通している九州地方に近畿や中国・四国地方で流通している「奥大山の天然水」を代わりに供給しようとしても、小売店側で商品登録ができておらず、速やかに融通するのが難しい状況だった。サントリー食品インターナショナルはブランドを統一した20年11月にJANコード(日本の統一商品コード)も統一。緊急時であっても商品供給を途切れにくくする体制を整えた。

自然の恵みを生かした商品の「清らかさ」を伝えるブランドづくりやプロモーションはヒットした理由の一面にすぎない。商品の特長を守り続けるために自然そのものを守るという長期的な活動が「森の恩返し」を呼び、飲料品首位の座を強固なものにしている。

(日経ビジネス 生田弦己)

[日経ビジネス電子版2021年7月27日の記事を再構成]

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