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男性下着に「美しさ」を 総レースのパンツ売れるわけ

日経ビジネス電子版

男性下着といえば、「ウエストテープにブランド名が入ったボクサーパンツ」――。この常識はもう古いかもしれない。総レースのボクサーパンツや、ふんどしを現代風にアレンジした下着など、従来とは異なる下着の売れ行きがじわりと広がっているのだ。身に着けるものによって生まれる「自信」や「満足感」などの精神的要素に左右される「見た目」市場に迫る。

◇    ◇    ◇

男性用につくられた総レースのボクサーパンツが売れている。SNS(交流サイト)などで話題になっているワコールの「レースボクサー」(3960円)。フロント部を除く全面に花柄のレースがあしらわれている。ワコールは販売枚数を公表していないが、2021年12月にオンラインや一部店舗で販売開始したところ、3カ月分の販売目標をわずか10日間でクリア。増産を繰り返しているという。

ネット上では「着心地がいい」「ぴったりきれいに履けるのに締め付けがなく、気に入った」「再び販売されて速攻買った」などポジティブな意見が目立つ。ワコールメンズインナー商品部の溝口曜課長は「ここまで売れるとは思ってなかった」と話し、想定を上回る売れ行きに驚きを示す。

購入層は40代を中心に20代~60代までと幅広い。自分のために買う人もいれば、男性へのプレゼント用に購入する女性も少なくないという。購入者の特徴について溝口氏は「ものづくりへのこだわりや、レースの美しさに共感してくれる人が手に取っている印象だ」と話す。

普段は人目に触れない下着だが、身に着けるものによって生まれる「満足感」や「高揚感」などの精神的要素は、外見的な"見た目"にも影響を及ぼす。そう感じる消費者は意外と多いのかもしれない。

下着の役割に変化

商品開発の背景には、男性下着の「日用品化」への危惧がある。男性下着はウエストテープにブランド名やロゴが入っているものが代表的で、女性下着に比べてデザインや生地に変化が少なかった。溝口氏は「あまりこだわりなく下着を買っている人が多いと感じる。下着に『気分を高める』という役割をもっと持たせたい」と思い、レースボクサーの開発に踏み込んだ。

女性下着を販売するワコールでは、男性下着にレースを使うことに社内から抵抗の声はなかったという。ただ、懸念したのは「色物」として見られること。「『男性らしさ』『女性らしさ』にとらわれず、誰でも美しいと感じるつくり方をしている」と溝口氏は強調する。

溝口氏が特にこだわったのはレースだ。デザインや機能性などを考え、一から開発に挑んだ。レースが初めての人にも違和感なく、手に取りやすいデザインを意識してエレガントな柄を起用。さらに、激しい動きでも体にフィットする伸度、ガサガサして擦れや痛みが生じない肌触り、着用時に腰の部分を引っ張って、破れてしまわないような強度など、女性用途とは異なる課題を意識して開発した。

クラファンで想定の10倍以上のサポーター

商品に自信はあったが、本当に世間に受け入れられるのか。21年10月、テストマーケティングの意味を込めて、クラウドファンディングサイト「Makuake(マクアケ)」で先行予約を開始。すると、目標金額の30万円に対して、700人以上のサポーターから327万円以上の購入があった。十分な手応えに、「2カ月後に控えた販売に、より自信を持って挑むことができた」と溝口氏は振り返る。

多様性や個を尊重する意識が高いとされる若者だけではなく、幅広い世代に支持されたレースボクサー。しかし、生産が追いついておらず「本当の需要はまだ見通せていない。ただ、レースボクサーを一過性で終わらせるつもりはない。新しいメンズボクサーの定番商品として市場に浸透させていく」と溝口氏は意気込む。「レースは女性向け」「男性が履くものではない」といった固定観念を払拭し、市場に定着できるかが試されている。

「履くことで内なるパワーが湧く」

男性下着市場の変化はワコールメンの「ふんどしNEXT(ネクスト)」(2750円~)の好調な売り上げからも読み取れる。

13年から発売しているふんどしNEXTは、日本古来のふんどしを現代風にアレンジした下着だ。全方向に伸びる生地を使用しているため、動いてもずれにくい。また、通常のふんどしはTバックだが、バックが隠れるようにアレンジしている。通気性の良さや締め付け感がないといったふんどしの良さを残しながら、ブリーフに近い形にすることで、手に取りやすい工夫を施した。

ふんどしNEXTは、一時的な販売休止を経て21年7月に再販したところ、22年7月~9月は前年同期の4倍も売れた。現在は一部在庫切れになっているほどだ。人気の背景には、商品やサービスの持つ社会的・文化的な価値を重視する「イミ消費」の増加があるのかもしれない。

販売開始した当時は、ワコールメンのコンセプトでもあった「男らしさ」を意識していた。しかし、21年に再販売するときにはコンセプトを一転。「ふんどしを締め直す」という言葉があるように、「履くことで内なるパワーが湧く」(溝口氏)ことを意識した。22年7月の新ラインアップでは、縁起がいいとされる「赤いふんどし」を連想させる無地の赤色やシンプルな黒色を販売。すると、21年に販売した柄物よりも人気が高かったという。

医学的にもメリットあり

購入しているのは、レースボクサーと同じく、40代を中心に20代~60代だ。ふんどしNEXTの購入者でもあり、いぬいクリニック(京都市)で院長を務める乾将吾氏(38歳)は購買理由として「ファッションや服に興味があり、以前から意識していた。最近は見える部分だけではなく、見えない部分にも興味が湧くようになり、珍しさも相まって購入した」と話す。気に入ったものを身に着けることで自己肯定感が高まると、振る舞いや姿勢など、「見た目」にも影響があるからだろう。

また、泌尿器科と内科の医師である乾氏は、医学的な観点からも通気性の良さはメリットがあると指摘する。「エアコンなどではなく、自然に熱のコントロールができるのがメリット。熱を体から逃がした方が良質な入眠効果が期待できる」(乾氏)。一過性のはやりにしないためにも、デザイン性だけではなく、機能性という高付加価値は欠かせない。

見えない部分に自己投資

「人は見た目が9割」の著者であり、宝塚大学東京メディア芸術学部に勤める竹内一郎教授は、衣服やアクション、姿勢、声量などの非言語情報は、広義での「見た目」だと定義する。その上で、「見た目に自信があると、社会とポジティブに向き合える」と話す。従来の性別による固定概念が崩れつつあるなかで、「テレビなどメディアを見ていても、これでないといけないという正解はなくなっている。ただ、営業職の人などは、相手の価値観が分からない場合は慎重に対応する方がいいかもしれない」(同氏)。

「レースボクサー」や「ふんどしNEXT」は目新しさがあるかもしれないが、それだけがヒットの理由ではない。男性下着に求める要素や性別に対する固定観念の変化など、需要の変化に対応していることも大きい。ワコールの溝口氏は「新型コロナウイルス禍によって変化した生活や価値観に対応した、新しい価値を提供し続けたい」と話す。

コロナ禍で増えた孤独な時間は、多くの人に自分と向き合う機会を与えた。改めて自身を見つめ直し、自己投資する人が増えている。いつもより良い下着を身に着けると気分が上がり、前向きな姿勢で1日を過ごせる――。見えない部分に投資する価値が見直されている。

(日経ビジネス 藤原明穂)

[日経ビジネス電子版 2022年10月27日の記事を再構成]

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