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味の素や日東電工、合成技術でCDMO 大手と競争や共存

CDMO医薬変革(3)

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

CDMO(医薬品の開発製造受託)では「ものづくり」の技術が重要となるため、素材や食品のメーカー各社にも商機がある。日東電工はバイオ医薬品の一種である核酸薬の受託で、米国の3拠点で投資を進める。味の素は核酸薬やメッセンジャーRNA(mRNA)医薬品などの受託に挑む。各社が技術的な強みを競うことは日本全体の競争力の向上にもつながる。

日東電工は米国でマサチューセッツなど3カ所に投資している。2022年度末までに生産能力が現状の3倍に拡大する見通しだ。

核酸医薬品とは遺伝子を構成するリボ核酸(RNA)やデオキシリボ核酸(DNA)の成分を使った薬を指す。病気の原因物質ができる前に物質の生成を阻害するなどの効果が期待されている。

核酸薬が「普及期」に

調査会社のアーサー・ディ・リトルによれば核酸薬の30年の世界市場は2兆1000億円で、20年からの年平均成長率は17%と急成長を見込む。これまでの主力だった低分子医薬品や、バイオ医薬品の先駆けともいえる抗体薬に次ぐ世代の治療薬とされる。

従来は対応が難しかった疾患への治療に道を開くという期待は大きい。デロイトトーマツグループの増井慶太パートナーは核酸医薬について「まだ勢力図が固まっていない流動的な分野だ」と語る。

これまでに発売された核酸医薬品には、筋肉が衰える難病「筋ジストロフィー」に対応する製品などがある。最近では各種のがんや脂質異常症など患者数が多い疾患向けにも開発が進み、CDMOの役割も大きくなっている。

日東電工は核酸医薬に限定すればCDMO事業で世界シェア大手とされており、20年以上の受託実績を持つ。23年度のCDMO売上高は400億円を見込んでいる。今後も30年度に700億円を目指すペースで事業を拡大していく計画だ。

味の素は大量生産で優位

食品関連で培った技術を生かすのは味の素だ。生産手法に特徴がある。日東電工など多くの企業は「固相合成」と呼び、専用の粒子の表面で核酸を結合させて作る。日東電工によれば固相合成は歴史が長く技術的なノウハウも蓄積しているため、開発に必要な時間が短くて済む。一方で1つの装置が生産できる量は少なく、数ミリグラムから数キログラムにとどまる場合が多い。

このためバイオスタートアップが新薬の研究開発のため少量の生産を他社に委託し、それをCDMO企業が請け負って商用化までパートナーとして事業を進むようなビジネスモデルに適している。

これに対し、味の素は溶媒に溶けやすい「アンカー」に核酸をつなげる「液相合成」の手法を採用している。核酸が伸びても溶液が均一に保たれるため、合成効率が高いことが特徴といわれる。しかし少量の生産には向かず、商用段階の医薬品の大量生産に適しているとされる。

味の素の担当者は「品質管理が容易で、原料の使用量も抑えられる利点がある」と説明する。ただしスタートアップが一般的な固相合成で研究開発を始めた場合、液相合成に製造法を転換すると追加コストが必要になる。これは新規顧客を獲得するための壁となるため、今後の課題だ。

同社は核酸医薬品だけでなく多様なバイオ薬の受託に取り組んでいる。開発製造のラインアップは抗体と低分子薬を組み合わせた抗体薬物複合体(ADC)やメッセンジャーRNA(mRNA)を使う医薬品など、製薬会社の要請に応じて幅広い内容で請け負える体制だ。

味の素は31年3月期に、CDMO事業の売上高を1000億円以上に成長させる計画だ。白神浩副社長は「生産方式のイノベーションが起きているときに、デファクト(業界標準)になれるかが成功のカギだ」と戦略を語る。

「他家細胞」の実用化に力

バイオ医薬品で技術的な最先端ともいえるのが、遺伝子や細胞を体内に投与することで効果を発揮する遺伝子・細胞治療薬だ。がん治療などで研究開発が進んでいる。細胞治療薬の受託における国内大手が、昭和電工の傘下企業である昭和電工マテリアルズ(旧日立化成)だ。

同社は「他家細胞」の培養に使える生産方法の実用化に力を入れている。細胞を培養して人体に投与する手法には、患者自身の細胞である「自家細胞」と他人の細胞「他家細胞」を使う2種類の方法がある。他家細胞は大量生産した後で保存できるため、自家細胞を使うよりもコストを下げやすい。一方で他人の細胞を体内に入れると免疫反応が起きるため、実用化のハードルは高いとされる。

それでも細胞治療を普及させるには他家細胞の有効利用が欠かせない。昭和電工マテリアルズは将来を見据え、他家細胞の生産性を高める技術の開発を製薬会社と共同で進めている。様々な種類の細胞で試して汎用性があるかを見極め、これから拡大していく需要に備える構えだ。

電機大手ではニコンも細胞培養を通じてCDMO事業の拡大を進めていく。21年度の細胞受託生産事業の売上高は約25億円で、25年度に約75億円を目指す。

成長の土台と位置づけるのが、東京都江東区のCDMO拠点だ。面積は7500平方メートルと、日本企業の再生医療用細胞の国内拠点としては異例の大きさだ。さらに25年までに施設を一段と広げ、安定稼働に向けた投資を進める。30年までには他家細胞で大量培養を手がけるほか、自家細胞でも多品種の生産ができる体制を目指す。同社は「50年にはCDMOで売上高1000億円」と意欲的な将来像を描いている。

タカラバイオは特殊な手法に活路を求める。遺伝子治療は2種類の手法がある。1つは遺伝子を患者の体外で細胞に導入し、その細胞を投与する方式だ。これに対し治療用の遺伝子を体内に直接投与するタイプもある。

タカラバイオはライバル企業が少ないとされる直接投与法に力を入れている。CDMO売上高は23年3月期に約100億円を見込み、将来は200億円を目指す。

コストなど競争軸が複雑に

半導体やディスプレーなどの材料を製造するJSRは買収した米国のCDMO企業であるKBIバイオファーマの技術を使い、多品種少量のCDMOに力を入れる。22年4月にはKBIを通じ、1億5000万ドルを投じて新工場を米ノースカロライナ州に開いた。22年末までに350人まで従業員を増やす計画だ。

国内製薬大手の幹部は「技術力のあるCDMOへの発注は、各社で奪い合いになっている」と現状を明かす。参入企業が増えれば技術の独自性や製造能力、納期やコストなど競争軸は複雑になる。日本全体でCDMOの総合能力を高めるためには、各社が競争と共存の最適なバランスを探ることが欠かせない。

=おわり

(茂野新太)

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