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帝人や旭化成、CDMO参入で独自技術を前面 大手に対抗

CDMO医薬変革(2)

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

2022年に入って医薬品の開発製造受託(CDMO)へ参入が相次いだ背景には、バイオ医薬品市場が急拡大するという予想がある。英調査会社のエバリュエートは28年度の世界市場が6759億ドル(約90兆円)で、21年度と比べて6割成長するとみている。これまで医薬品の製造受託とは関連が薄かった幅広い業種の企業が、新規需要の獲得に動き出した。

再生医療の分野で参入を目指すのは帝人だ。富士フイルムから21年にTOB(株式公開買い付け)で取得した再生医療を手がけるジャパン・ティッシュ・エンジニアリング(J-TEC)のノウハウを活用し、CDMO事業を始めることを表明している。

既存の子会社と融合効果

J-TECは軟骨や角膜などの組織を再生する事業を手掛けてきた。本業の「再生医療等製品」を製造販売する事業の売上高は22年3月期の段階で14億円となっている。

その技術をCDMOに生かし受託事業を手掛けているが、売上高は3億円で小さい。生産拠点の受託能力が小さいことが課題であり、今後2~3年で30億円以上を投じて能力を拡大する計画だ。30年度の段階では、帝人グループ全体のCDMO事業で約70億円の売上高を目指している。

帝人はヘルスケアの新規事業に力を入れてきた。15年の段階で、人工関節を手掛ける帝人ナカシマメディカル(岡山市)に出資している。再生医療新事業部の中野貴之氏は「再生軟骨などを手掛けるJ-TECとは親和性が高い」と語る。両社の強みを生かし、技術や営業網などを組み合わせる構想を立てている。

J-TECは再生医療で豊富な経験を持つが、帝人にとってCDMO事業は「新規参入」だ。技術や製品などの面で、どのように独自性を発揮するかが課題となる。現状の再生医療は軟骨や皮膚などの組織を再生させる製品が多い。これに対してJ-TECは、がん領域でも製品開発や受託に力を入れる構えだ。

いま製薬各社が開発に力を入れている細胞関連の治療は人体から取り出した細胞に手を加えた「CAR-T細胞」などを使う手法が多い。一方で組織を再生する場合は立体的な構造を作ったり輸送したりする必要があり、難易度が一段と高くなるとされる。

どちらの方向性を目指すかも今後の課題だ。米コンサルティング会社のアーサー・ディ・リトルは「組織を再生する医療」の30年の世界市場が900億円で、20年段階と比べて5割増えると予想する。これに対してCAR-T細胞などの細胞治療は14倍の2兆円に拡大するとみている。

細胞治療に関連する受託事業では昭和電工などが大手企業とされる。帝人が存在感を示すには、先行する各社とは異なる強みを顧客である製薬会社に示す必要がある。

スタートアップを顧客に

旭化成は子会社を通じ、米スタートアップのバイオノバサイエンティフィックを買収した。バイオノバは様々な抗体医薬品の生産手法を編み出す技術に強い。抗体と低分子医薬品を特殊な方法で結合させた「抗体薬物複合体(ADC)」にも力を入れていることが特徴だ。患者に投与すると体内で病気の原因まで正確に届くことを見込み、治療効果が高いとされている。

バイオノバの本社はカリフォルニア州にあり、米国の西海岸では多くのバイオスタートアップが研究開発を進める。これらの企業を主な顧客に想定している。スタートアップは医薬品生産の発注量が少なく、研究開発の段階で失敗する可能性も高い。旭化成は大手企業が対応しにくい分野だと判断し、積極的に受注を獲得していく構えだ。

旭化成グループはこれまでにバイオ医薬品の開発や生産プロセスに関わる2社を買収している。ともに薬を生産する段階で異物が混入していないか確認する受託企業だ。具体的には19年に研究開発や製造の各段階でウイルスなどの異物が混入していないか調べるオーストリア企業を傘下に収め、21年にはマイコプラズマ菌の混入を調べる米国の企業を子会社化した。

この2社にバイオノバが加わることで、異物の混入試験から生産まで一括してバイオスタートアップなどから受託できるとみている。複数の工程を請け負える体制を前面に打ち出し、他社との違いを訴えていく方針だ。

大手企業との協業経験

中堅化学のデンカは大手企業と協業してきた経験を生かし、CDMO事業に力を入れる。高橋英喜・常務執行役員ライフイノベーション部門長は「これまでの受託経験を生かし、CDMO事業として展開していく」と語る。

デンカは第一三共から、がん治療用ウイルスの生産を受託してきた。今後は需要が一段と大きくなるとみて生産能力の拡大を急ぐ。まずは新潟県の工場に数十億円の規模で投資を実行し、24年の稼働を目指す。その1~2年後の追加投資も検討している。

他にも韓国ロッテは22年5月に米ブリストルマイヤーズスクイブ(BMS)の米国の拠点を買収することで合意した。ロッテの米国におけるバイオ医薬品のCDMO拠点とする考えだ。

これらの新規参入を果たした各社は、スイスのロンザや富士フイルムなどの大手が力を入れる抗体医薬品とは異なる領域に目を向けている。

アーサー・ディ・リトルによれば抗体医薬品の市場規模は20年時点で16兆円で、25年までに23兆円へ成長するとされる。しかし5年間の平均成長スピードは8%で、細胞治療をはじめとする先進技術には劣るという見方が強い。同社の花村遼氏は「抗体医薬品はバイオ医薬品の中で比較的歴史が長い。一部で『コモディティー化』が始まっている」と指摘する。

優勝劣敗が鮮明に

富士フイルムの石川隆利副社長は「細胞治療などの分野では、この先も技術革新が起きる可能性が高い」と語る。同社は抗体医薬を大規模に受託する事業が主力に位置づけているが、遺伝子・細胞治療薬の分野にも投資を続けて、将来に備えている。

野村証券は22年1月段階の予測で、バイオCDMOの世界市場は24年度に1兆円を超え、20年度よりも7割拡大するとみている。市場拡大に伴って製薬各社はCDMO企業の技術力を厳しく見極める傾向が強まり、優勝劣敗が鮮明になるとみられる。「新規参入組」の各社は自社の強みと弱みを認識し、競争に打ち勝つための戦略を立てることが必要になる。

(茂野新太)

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