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富士フイルム、薬生産の主役へ 治験薬から担うCDMO

CDMO医薬変革(1)

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

医療用医薬品の製造を変革する動きが広がってきた。米ファイザーなど製薬大手が生み出した有効成分を実際の薬に加工し、生産を請け負う「CDMO」だ。単なる製造受託ではない。製薬会社にとってはバイオ医薬品など、高度な生産技術が必要な薬を患者に届けるパートナーだ。日本のCDMO企業を代表する富士フイルムホールディングス(HD)などが医薬品生産の「主役」になろうとする水平分業の現場を追った。

デジタルカメラや事務機器のメーカーからヘルスケア企業への抜本的な転換を進める富士フイルムは6月末、約2000億円の投資を発表した。CDMOの能力は現状の4倍に拡大する。

CDMOは「コントラクト・デベロップメント・アンド・マニュファクチャリング・オーガニゼーション」の略称だ。「医薬品の開発製造受託」と訳す場合が多い。医薬品が患者に届くには、まず製薬会社が「薬のタネ」となる物質(有効成分)を創出する必要がある。その後に健康な人や患者に投与して効果を確かめる臨床試験(治験)を経て、製造や販売が始まる。

新薬の開発プロセスに参画

スマートフォンなど幅広い業種で製造受託は一般的だ。しかしCDMOは仕組みが大きく異なる。医療用医薬品でも「単純な製造受託」は以前からあった。製薬会社が治験を終えて承認を取得し、販売できる仕組みを整えて他社に製造だけを任せる方式だ。

これに対してCDMOでは製薬会社が薬のタネを生み出した段階で、それ以降の手順を他社に委託する。請け負った企業は治験のため人間へ投与する薬を作る段階から、開発プロセスに参画する。これは高度な製剤技術が必要で、出来栄えは医薬品の投与のしやすさや効果を左右する。

富士フイルムは米メルク子会社のダイオシンスや米バイオジェンのデンマーク子会社を買収してきた。受託事業の投資額は8000億円を超え、現在では世界に7拠点を持つCDMO企業だ。そこまで力を注ぐ背景には医薬品のシフトチェンジがある。

かつて医薬品は化学合成で作る「低分子薬」が一般的だった。これは生産しやすく、多くの企業が受託できる。受注にはコスト競争力が重要だ。しかし最近の抗がん剤などは免疫機構である抗体や、遺伝子で治す仕組みが多い。それらをバイオ医薬品と呼び、製造には培養タンクなど大規模な設備が必要となる。しかも厳しい条件を満たさなければ完成させられない。

「ものづくり」技術が必要

富士フイルムHDはフィルムなど複雑な工程が必要な製品を手掛け、生産現場を革新してきた。ヘルスケア関連でも、抗体の生産効率を一般的な手法と比べて3倍以上にする技術を持つ。これらの蓄積はCDMOにも生きる。医薬品も「ものづくり」の技術を競う段階に入ってきた。

CDMOは製薬大手にも利点がある。これまで武田薬品工業第一三共など製薬大手は研究開発から製造まで自前で手掛ける割合が多かったが、バイオ医薬品の研究開発費は低分子薬よりも膨らむ。

スイスのノバルティスが開発したCAR-T細胞を使う血液がん治療薬のように、いったん患者から免疫細胞を取り出して培養し、体内に再び戻す難しい手順を踏む医薬品もある。製薬会社が高度な生産設備に多くの資金を投じる余裕は乏しくなり、水平分業の重要性が高まっている。

富士フイルムHD取締役でCDMO事業を統括する石川隆利・富士フイルム副社長は「CDMOがなければ患者に届かない薬もある」と意義を強調する。一部のバイオ薬は患者自身の細胞を培養して作るため、拠点が海外にあると日本での投与に時間がかかる。通関で国境を越える移動が難しくなるリスクもある。

日本の患者にとって、国内企業がCDMOを進める意義は大きい。石川副社長は「生産が難しい薬に挑戦し、そこに富士フイルムの価値を求める」と今後の方針を語る。

世界に目を向ければスイスのバイオ医薬大手であるロンザや韓国のサムスンバイオロジクス、独ベーリンガーインゲルハイム、米サーモフィッシャーサイエンティフィックなどがCDMOの有力企業だ。日本の中堅CDMOの担当者は「国内で海外企業と張り合える技術と資金を持つのは富士フイルムHDぐらいしか存在しない」と実態を語る。

そんな「日本代表」とも言える富士フイルムHDだが、バイオ医薬品の受託の経験は浅い。カメラメーカーなどとしてはグローバル市場で存在感があるが、ヘルスケア企業としての国際的な知名度は、まだ低い。CDMO企業は治験に必要な薬を製造するため、製薬会社にとって新薬開発の「運命共同体」とも言える。日米欧の大手企業に選ばれる信頼を勝ち取るため、地道に実績を積む必要がある。

CDMOは2022年に入り、新規参入が相次ぐ。リコー旭化成など、製薬を「本業」としていない企業が多いことが特徴だ。

リコーは5月に米エリクサジェン・サイエンティフィックの買収を発表した。新型コロナウイルスのワクチンとして米ファイザーなどが実用化し、注目を集めるメッセンジャーRNA(mRNA)技術を生かした医療用医薬品の製造受託を進める。旭化成も子会社を通じて、米スタートアップのバイオノバサイエンティフィックを約450億円で傘下に収めた。

「役割分担」が容易

CDMOは医薬品の開発から製造における水平分業であり、半導体業界で台湾積体電路製造(TSMC)などが手掛ける受託生産事業(ファウンドリー)とは一定の類似点がある。しかしCDMOはファウンドリーよりも、一般的に新規参入の余地が大きいとされている。

医薬品は注射剤や錠剤、カプセル剤、粉薬といった形状で細かく分かれるためだ。バイオ医薬品が普及すれば、製造工程は一段と複雑になる。さらに治験の初期段階から販売後の量産まで役割が異なり、それぞれ必要となる生産能力や技術が違ってくる。このため企業ごとに「住み分け」しやすいとの見方が強い。

旭化成グループでCDMO事業を手掛ける旭化成メディカルの四ノ宮健・取締役兼専務執行役員バイオプロセス事業部長は「大手CDMO企業と競合するとは考えていない。我々はバイオスタートアップから、小規模の研究開発に必要な生産を受託する」と話す。いわば「多品種少量」を目指すビジネスモデルだ。こんな手法で大手企業との違いを打ち出し、存在意義を示すこともできる。

投資額や事業規模では富士フイルムホールディングスには及ばないが、以前からバイオCDMOを手がけてきた中堅企業の投資も活発だ。

日東電工は「核酸医薬品」と呼ばれる薬を製造する米国など4カ所の生産拠点に資金を投じている。

核酸は遺伝情報にかかわる体内物質で、低分子薬などでは治療が難しかった病気の治療につながると期待されている。30年度に700億円の売上高が目標だ。

タカラバイオはCDMO事業の拡大に向けて、滋賀県草津市の工場を拡張している。22年度のCDMO売上高は約100億円を見込む。近い将来の目標としては、ほぼ倍増の200億円を掲げている。

投資は欧米に集中

グローバル市場でみればバイオCDMO事業の投資は欧米に集中している。多くのメガファーマが存在し、バイオ医薬品の研究開発も進んでいるためだ。CDMO各社が欧米の拠点に資金を投じることは自然な流れで、富士フイルムのCDMO拠点も欧米にしか存在しない。

しかし20年から続く新型コロナウイルスの流行は、様々なワクチンや治療薬の多くを海外企業に依存することのリスクを浮き彫りにした。各国・地域の保健当局が「自国優先」を強めていけば将来、必要な医薬品が日本に届かない事態も想定される。

中堅CDMOのAGCは欧米に投資を続けながら、日本にも生産拠点を置く考えだ。CDMO事業を率いる幹部は「日本の製薬会社が地元で生産を委託できる環境を整えたい」と狙いを語り、遺伝子細胞治療薬を生産できる拠点の開設を検討している。

官民連携も重要に

富士フイルムは現時点で、アジアや日本国内へのCDMO事業の具体的な投資計画を持っていない。それでも石川副社長は「経済安全保障などの観点から、アジアに生産拠点を構えることも視野に入れている」と語り、将来の可能性は考慮している。

経済産業省はワクチンのサプライチェーンを強くするための補助金を設け、日本国内に生産拠点を誘致している。将来はCDMOの能力が各国・地域のヘルスケア全体の能力に大きな影響を与える時期が来る可能性もある。官民が連携し、着実な取り組みを進めることが求められる。

(茂野新太)

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