タクシー配車アプリ、DX時代の潮流に
読み解き 今コレ!アプリ フラー執行役員デジタルパートナーグループ長 林浩之氏
新型コロナウイルスの影響による巣ごもり・インドア志向の高まりを受け、苦境が続くタクシー業界。だが、スマートフォンを使ったタクシーの「配車アプリ」の利用は旺盛のようだ。デジタルトランスフォーメーション(DX)によるビジネスの構造改革という観点で、配車アプリが時代の潮流をつかみつつある。

フラー(新潟市)が手がけるアプリ分析ツール「AppApe(アップ・エイプ)」によると、配車アプリや地図など人々の移動や交通利用に関連するアプリジャンル「地図&ナビ」の2022年3月の月間利用者数(MAU)上位50アプリの合計MAUは2689万人で20年3月に比べ13.7%減と減っている(数値はすべてiOS・Android合算)。コロナ前には戻っていない状況だ。
一方、そうしたなかでも22年3月のタクシー配車アプリは健闘している。MAU上位5アプリの合計は20年3月比69.1%増の176万人と大きく伸びた。前年同月比でも9.4%増で、コロナ禍で逆に利用が旺盛となっている。
最も利用者が多いアプリは「GO」だった。日本交通ホールディングス(HD)の「Japan Taxi」とディー・エヌ・エーの「MOV」が統合して新たなタクシー配車アプリとして生まれた。
22年3月のMAUは20年3月の5.1倍で、「GO」への一本化を前提にユーザーを減らしながら運営が続く「Japan Taxi」と合わせても2.0倍と、配車アプリ成長の核となっている。
2位は中国から日本に進出した「DiDi」(15.8%増)で、以下、グローバルで圧倒的な存在感を示す「ウーバー」(13.9%増)、「Japan Taxi」(64.6%減)、「エスライド」(2.5倍)と続く。
国内発の「GO」が首位となっている配車アプリの勢力構図は、既存産業のタクシーでのDXという視点に加え、国内企業が手掛けるアプリがグローバルに展開するアプリに打ち勝つための"勝ち筋"を示唆していると筆者は見ている。
配車アプリが対応地域を拡大させるとともに、1分でも早くタクシーに来てもらいたいという配車アプリの生命線とも言えるニーズを満たすためには、地域に根ざす中小タクシー会社との提携が必要不可欠となるからだ。
そうなると、国内の商習慣やニーズを熟知し、安心感もある国内企業は断然有利になると筆者は見る。
実際、配車アプリの対応エリアが存在する都道府県は「GO」が21都道府県と最多となり、以下、「DiDi」(15都道府県)、「ウーバー」(14都道府県)、「S.RIDE」(7都府県)となっている。
国内で地域に根ざす優位性を生かすことができる産業は、タクシー以外にもたくさんあるはずだ。そのような産業が今後、グローバルで展開したり、しなやかなアプリ開発やDXを実現したりするためには、既存事業の役割とデジタルが担える役割とのすり合わせが重要だ。
既存の産業とデジタルの橋渡しをする人材や企業の存在感がますます高まるのは間違いないだろう。
[日経MJ2022年5月8日付]