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アイリスオーヤマ、躍進のカギは人事評価 下位1割降格

アイリスオーヤマ解剖 第1部 人事の力(1)

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

アイリスオーヤマ(仙台市)は新型コロナウイルスが流行する状況でも事業を拡大し、グループ売上高は1兆円を視野に入れる。商品数は2万5000点を超え、家電から猫用トイレまで消費者を「なるほど」と納得させる機能を備えた製品を開発し続ける。長期連載企画「アイリスオーヤマ解剖」では強さの秘密がどこにあり、弱点は何なのか探っていく。第1部は社員の能力を引き出す人事評価制度に迫る。

「実績だけで評価してはいけない」

アイリスオーヤマの役員は2月に出張などの予定をほとんど入れることができない。2週間にわたって大勢の部下が書いた「論文」と向き合わなければならないからだ。

大山健太郎会長は「業績や実績だけで社員を評価してはいけない。そこには幸運や不運の要素もあり、個人の力を正確に示すものではない」と社内で繰り返す。そんな大山会長が編み出した評価手法が「実績とプレゼンテーション、360度評価の合算」だ。

同社には約3500人の正社員が在籍し、2割にあたる約700人を幹部社員と位置づけている。内訳は主任と係長を合わせて約450人、課長と部長の合計でほぼ250人だ。彼らは毎年1回、経営陣が設定した様々な課題に沿ってA4サイズ2枚の論文を書かなければならない。

テーマは「事業計画を達成するため自分の部署は何をすべきか」といった具体的な内容から「部下を育てるには何が必要か」「幹部社員としての人間力をどう高めるか」まで幅広い。人事部の会田祐一部長は「各人の考え方のレベルを見ることが最大の目的だ」と話す。経営者と同じ目線に立つ意識を持ち、具体策を示す内容が高評価を得る。

昇進の判断に同僚も参加

論文は昇進の速度も左右する。主任から係長を選ぶ場合ならば主任全員が複数グループに分かれ、役員や同僚の前で論文に沿って15分間プレゼンする。評価者は役員だけではない。「聴衆」の同僚たちも点数を付ける。この点数に過去の実績などを加え、昇進者が決まる。プレゼンせずに役職が上がることはない。

一般的な企業は経営陣や直属の上司が社員の昇進を判断することが多いが、アイリスでは選別される社員も過程に参加している。「選ばれなかった社員も優秀な同僚のプレゼンを見て、自身も評価に加わっている。だから納得しやすい」と会田氏は話す。

透明性を確保する工夫は他にもある。実績や論文と並んで昇進にかかわる「360度評価」では、1人の社員を15人から20人が一斉に判定する。評価者は上司や部下、関連部署の社員などが務める。

項目は①目標達成②マネジメント③部下育成④チームワーク⑤知識――などで、それぞれ6段階で判定する。全員が同じ重さの1票を持つ。上司だけ、部下だけの評価が高くても好成績は望めない。

そして評価結果が出れば一般的な会社では「S」や「AAA」などの表現で知らせるが、アイリスは違う。主任や係長など同列の役職全員の中で何位だったか個別に知らせるのだ。社内で順位を公表するわけではないが、各自が「昨年は65位だったが今年は31位だ」など、自身の立ち位置を常に意識することになる。

イエローカードと再挑戦

成績が下から数えて10%に入った幹部社員には内密に「イエローカード」を出し、指導役の社員を付けて1対1で改善を促す。2年連続でイエローカードを受ければ課長から係長など、降格となる。

大山会長は自社を「3車線の道路」に例える。能力ある人材は追い越し車線を最速で走り、実力が伴わなければ登坂車線を進む。30歳で課長になった人もいれば、50歳で幹部に入っていない事例もある。しかし降格が絶対的な失敗ではない。「追い越し車線と普通車線を交互に走ることもできるし、プロ野球の選手も一軍と二軍を行き来する」。こんな言葉で奮起を促す。

透明性の確保は新人研修でも同じだ。新人たちは基本マナーや報告訓練など、獲得すべきスキルを示すリボンを服に付け、審査に合格すると外す。1週間ですべて外す新人もいれば、時間がかかる場合もある。自身の立ち位置を意識し、目標を達成するアイリスの流儀はここから始まる。

高卒新人の採用が多いことも同社の特徴だ。2021年の新人は高卒者が6割弱を占める。「高校を出て『アイリス大学』で学んだ若者の方が、大卒の新人よりも優秀に育つ」が大山会長の口癖だ。

「大企業病」を避けられるか

同社の人事評価制度の課題は、同僚との優劣を強く意識させる流儀に若い世代がどこまでついてくるかにある。最近の就職人気ランキングで楽天グループ任天堂を上回ったアイリスだが、すべての若者が激しい競争を望むわけではない。しかもコロナ禍でプレゼンや360度評価では「密」を避ける必要があり、これまで以上に丁寧な審査と結果の説明が求められる。

そして事業拡大に伴って社員が増えれば、挑戦の意欲に欠ける人材や上司の顔色ばかり気にするような社員が増える可能性を否定できない。そんな「大企業病」を防ぐことにも気を配る必要がある。

(日経産業新聞副編集長 村松進)

連載企画「アイリスオーヤマ解剖」は外部から見えにくいアイリスオーヤマの経営の特色を様々な角度から分析します。第1部では他社から移ってきた人材が驚く実態や、海外子会社の実情を見ていきます。

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