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サイバー上に安心築く 世界デジタルサミット6月6日開幕

新型コロナウイルスやロシアのウクライナ侵攻など世界経済の混迷が続いている。そんな中で注目されているのがドローンや衛星通信システム、ネット上の仮想空間「メタバース」など最新のデジタル技術だ。信頼できるネット社会を築くにはデジタルトラストの醸成が欠かせない。日本経済新聞社と総務省は6月6日、7日の2日間、この分野の世界の有力企業トップや専門家を招き、「デジタルトラスト~信頼できるネット社会へ」をテーマに「世界デジタルサミット2022」を開催する。会議に先立ち、登壇者の声を聞いた。

【関連サイト】世界デジタルサミット2022特設ページ
特設ページURLはhttps://www.digital-summit.jp/2022/

インフラ、人づくりに力 総務大臣 金子恭之氏

メタバースの広がりなどデジタル環境が急速に進化している。日本がデジタル敗戦といわれるのは、投資の源となる市場シェアや事業規模を維持できなかったことや、クラウドなどを海外の事業者に押さえられたからだ。2030年を見据え、総務省では光電融合技術などの研究開発支援やインフラ整備、デジタル人材育成に力を注ぐ計画だ。

岸田政権の「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、総務省では高速通信規格「5G」の人口カバー率を23年度末までに95%に高める計画で、データセンターなどの地方分散も促進していく。

デジタルトラストを育むため、電子署名やタイムスタンプ、eシール(電子割印)といったトラストサービスを推進する一方、サプライチェーンの強靱化に向け、通信インフラのオープン化も進めてまいりたい。

膨大なデータを省電力処理 NTT社長 澤田純氏

ロシアのウクライナ侵攻でドローンや衛星通信など最新のデジタル技術が注目された。日本でもそうした技術で産業力を高めて行く必要がある。紙や判子の世界のマインドセットを変え、変革のスピードを上げねばならない。

デジタル変革を促すにはサイバー空間でトラストをどう育むかも課題だ。本物か偽物か真贋(しんがん)性を挙証するには時空間の中で自分がどこにいるかを示す精密な起点が要る。そのためNTTでは4次元情報をリアルタイムに把握する基盤を開発している。

現実をデジタル空間に映し出すにはコンピューターパワーが必要だ。拡大する電力消費を抑えるために考えたのが光電融合技術などの「IOWN構想」だ。通信だけでなく演算処理まで光信号のまま処理できれば、大量のデータを扱える。

一部の企業がネット上の言論空間を担っているのは健全ではない。IOWNにより従来と異なる蜂の目や触感のような非言語コミュニケーションを自然にできる空間ができれば今の分断も和らげられると思う。

信頼される生体認証に NEC社長 森田隆之氏

講演テーマを「オープン、トラステッド」としたのは緊迫する世界情勢から経済安全保障を真剣に考えるべきだと思ったからだ。何が本当のオープンで何がトラストなのか、サプライチェーンなどを政府と民間が一緒に考える必要がある。

トラストは街づくりでも重要だ。NECは欧州発の都市OS「ファイウエア」を日本に導入し、富山市などでスマートシティーを開発している。気候や人流などの情報をセンサーと広域無線通信で集め、災害対策や街づくりに生かしており、住民との信頼が大切だ。

東京五輪では入場管理に顔認証技術を提供し有効性を評価された。生体認証は利用者の事前同意を前提に個人IDとして適正に使えば、様々な利便性を提供できる。水際対策などにも効果を上げるだろう。

デジタル庁でガバメントクラウドの議論が深まってきたことは歓迎したい。NECはデンマークの電子政府ソフト会社を買収した経験をもとに電子政府構築へのホワイトペーパーをまとめ、トラストを重要項目に掲げている。

AI倫理を議論する時 富士通社長 時田隆仁氏

コロナ禍でデジタル技術が未来の働き方を前倒しすると以前話したが、我々もリモートワークやジョブ型雇用などを推進してきた。適材適所でなく「適所適材」を目指し、社員との対話を通じ信頼関係を築いてきたことが成果を生んだ。

技術の進化に終わりはない。メタバースなどに対応するには倫理観の議論をしっかりやる必要がある。3年前からAI(人工知能)倫理に取り組んでおり、昨年秋には「イノベーションで社会に信頼をもたらし世界を持続可能にする」という富士通のパーパスを実現する事業ブランド「ユーバンス」を発表した。

そこで掲げた技術がコンピューティング、ネットワーク、AI、データ&セキュリティー、コンバージングテクノロジーだ。5つ目は最先端技術と人文社会科学の融合を表しており、AIの画像情報などから人間の行動を予測したり最適な行動を提案したりする。

デジタルトラストを育むには技術を追いかけるだけではいけない。今後は文系人材がもっと重要になってくる。

量子の世界から新発見 日本IBM社長 山口明夫氏

日本IBMは順天堂大学と共同でメタバース内に仮想病院を設け、患者さんが来院前にアバターで治療の確認や入院体験ができるようにする。コロナ禍で対面が難しい中、オンラインでのコミュニケーションを実現するためだ。当社も入社式をメタバースで行ったが、今後は有能な人材が物理的な距離や時間を超えて協業できるようになろう。

技術の進化により新たなデジタルトラストの構築も必要だ。量子コンピューターの登場で従来型の暗号が解読されてしまう可能性があるからだ。ネット上の信頼を確保するには耐量子暗号技術を使う必要がある。

IBMは量子技術に力を入れているが、今後は従来型のコンピューターとAIなどに使われるGPU(画像処理半導体)、それに量子の3つを有機的に結び付けて利用できるプラットフォームが要る。

顕微鏡の発明により感染症の存在が解明されたが、量子の世界が広がれば今まで見えなかったものが見えてくるに違いない。そのための研究開発に力を注いでいる。

有事の時こそ信頼性の確立を 米フォレスターリサーチ バイスプレジデント ステファニー・バローラス氏

ロシアのウクライナ侵攻に見られるように軍事的にも地政学的にも様々なリスクや混乱が世界を襲っている。トラストをいかに育むかが重要な課題だ。そのためフォレスターリサーチでは昨年、「トラストインペラティブ(信頼要件)」という報告書をまとめた。

その中でトラストの構築に必要な要件としたのが、責任感、一貫性、適格性、信頼性、共感、誠実性、透明性の7つの要素だ。政府なのか医療機関なのか組織によって求められる要件は異なるが、一番重要なのは信頼性だろう。

クラウドでデータを安全に管理 米オラクルCIO ジェイ・エバンス氏

オラクルはアプリケーションと情報基盤サービスを両方提供できる数少ない会社だ。「オラクル・クラウド・インフラストラクチャー(OCI)」はAIからクラウド化が難しい複雑な業務ソフトまで、すべてを運用できる情報基盤だ。

セキュリティーやプライバシーを最優先に、利用場所に関係なくハードからネットワーク、業務ソフトまで入念な安全対策を施している。クラウドに移行してもデータを特定の国や地域に保持することができ、政府なども安心して使えるようにしている。

サイバー攻撃の脅威に備えを 米パロアルトネットワークスCEO ニケシュ・アローラ氏

すべてのモノがネットにつながり、ソフトがクラウドで稼働する時代において、サイバー攻撃のリスクが驚異的に高まっている。攻撃者はここ数年で「趣味」から「プロ」になった。国家や組織が重要システムを止めたり、混乱させたりできるようになった。(身代金を要求する)「ランサムウエア」も急増している。

今のITインフラは新しい社会に十分に対応していない。企業や組織はまず、最も重要なシステムの安全性を高めるべきだ。攻撃された際を想定したバックアップも重要になる。

データ分析で顧客の信頼獲得 米クリック・テクノロジーズCEO マイク・カポーン氏

クリックは様々なデータを簡便にリアルタイム分析できるソフトで、スウェーデンで生まれた。本社は米東海岸だが、技術の多くは今もスウェーデンで開発している。欧州は「一般データ保護規則(GDPR)」を4年前に施行しており、我々もプライバシーに最大限の注意を払っている。

デジタルトラストの構築に重要なのはデータを安全に管理することだ。我々は大手のIT企業に属さず、中立で高い透明性を誇る。データ分析を通じて顧客の真のニーズを見いだすことが大きな信頼につながる。

信頼づくり、国家の枠超え協調


世界デジタルサミットの前身「世界情報通信サミット」が始まったのは今から24年前の1998年。米グーグルが誕生する半年前のことだ。軍事技術として生まれたインターネットが冷戦終結により民間開放され、多くのベンチャー企業を生んだ「ドットコム・ブーム」のまっただ中だった。
初回のテーマは「サイバー・ウォーフェアと世界協調」と定めた。国家の枠を超えたネットの登場が新たな課題を招くと予感したからにほかならない。実際、SNS(交流サイト)によるプライバシーの侵害やサイバー攻撃などが国際問題となり、そうした課題を解決するために世界が協調する必要に迫られている。
一方、ロシアのウクライナ侵攻は武力に対しドローンや衛星通信などデジタル技術の重要性を気付かせた。コロナ禍に伴うテレワークやオンラインの医療や教育も、日本社会に続く古い慣行や働き方などを大きく変革した。
そうしたデジタル変革を今後も継続していくにはAIや5Gなどの最新技術を上手に使い、ネット時代の信頼を担保する「デジタルトラスト」を我々の社会や経済に根付かせていく必要がある。(客員編集委員 関口和一)
世界デジタルサミット2022

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デジタルサミット

日本経済新聞社は2022年6月6日、7日の両日、「世界デジタルサミット2022」を開催します。メタバースの広がりなどますます進化するネット社会で「安心・安全」を育むための「デジタルトラスト」をどう醸成するか議論します。


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