次世代SNSは仮想現実に、フェイスブックの本気度
先読みウェブワールド (藤村厚夫氏)
フェイスブックがVR(仮想現実)への取り組みを本格化させている。最高経営責任者(CEO)であるマーク・ザッカーバーグ氏は今年、「(当社は)5年後にはSNS(交流サイト)から、VRへと移行した会社と見られることになる」と宣言した。「VR企業への変身」を宣言するとはどういうことか。
同社がVRに向けて最初に大きなカードを切ったのは2014年にまでさかのぼる。まずVR用ゴーグルと開発者向けソフトを開発していたオキュラスVR社を約2000億円で買収した。その後、オキュラスブランドでゴーグル製品の改良を続ける一方、VR市場向けゲームの開発企業を次々と買収してきている。

そして7年。市場が立ち上がる兆しははっきりと見えてきた。ゴーグルの最新版である「オキュラス・クエスト2」が絶好調だ。出荷台数は500万台に近づいており(21年第1四半期時点、カウンターポイント・テクノロジー・マーケット・リサーチ調べ)、「年内に1000万台」との声も聞こえるほどだ。
さらに最近同社が発表した「ホライゾン・ワークルーム」は、オフィス業務環境をVRで作り上げる意欲的な試みで話題を呼んでいる。VR空間上のオフィスで、アバター(分身)となった自分がやはりアバターの同僚らと会議をはじめとする業務を行うものだ。
クエスト2を装着していれば、周囲の同僚との会話は、映像はもちろん空間音響機能もあって驚くほどスムーズだ。仮想的にパソコン作業などもこなせるため、自宅を含めどこにでもオフィスを持ち出すことができる。同社はこれを「無限オフィス」と呼んでおり、今後も続きそうなテレワークの未来形を先取りしているといえそうだ。
VRへの傾注ぶりは、同社の組織規模にも表れている。フェイスブックの従業員数は全世界で約6万人とされているが、VR(拡張現実のARも含む)分野に携わる従業員がすでに約1万人にのぼり、SNSの開発に携わる1万3000人に匹敵するものになろうとしていると、米メディア「インフォメーション」が今年3月に報じている。

VRに多額の資金と人、時間を投じており、その本気度は高い。だが、いずれSNS事業を捨てて、巨大な「VRゲーム」企業へと変身をめざしていると理解するのは違っているようだ。
VRによって現実の制約に縛られずにさまざまな体験を行える仮想世界を「メタバース」と呼ぶが、ザッカーバーグ氏はこれがインターネットの進化した姿だと説明する。メタバース内で人間同士のコミュニケーション、物品の売買やコンサート、広告などの活動も行われるとする。つまり、メタバース自体が同社がめざす次世代SNSということになるわけだ。
折しも、個人を追跡するような広告技術への規制の動きなどにより、利用者を増やしてはそれを広告収入に変えてきたビジネスモデルの成長性について懸念が市場から取りざたされようとしているところでもある。ゴーグルというプラットフォームで市場をリードしたうえで、ソフト面でどこまで大ヒットを飛ばせるか。VRを大きな市場に育てることを目指す同社にとって今後の試金石となりそうだ。
[日経MJ2021年10月4日付]