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車内エンタメも Amazonが破壊・創造する輸送の未来

CBINSIGHTS
米アマゾン・ドット・コムはこれまで企業買収などを通じて、様々な業界をディスラプト(創造的に破壊)してきた。目下の標的が、物や人の輸送だ。物流では2022年内に米国の宅配最大手になる見込みで、配送網の最適化や自動化を一段と進める。人の移動関連では、車内エンターテインメントやロボタクシーなどの開発に取り組んでいる。同社が出資、提携する企業から今後の戦略を分析した。

アマゾンは22年初めには、米物流大手のUPSやフェデックス、米郵政公社(USPS)を抜いて米宅配最大手になるとみられる。

アマゾンはここ3年、既存事業の強化や合理化、最適化を進め、新しい事業に参入するため、輸送と物流の投資や提携に力を入れている。こうした新たな収益の機会には、次世代移動サービス「MaaS(マース)」や食料品の宅配、通信機能を備えたコネクテッドカー(つながる車)の技術など、輸送と物流の未来を形作るテクノロジーが含まれる。

日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

サステナビリティー(持続可能性)も重視している。19年には気候変動対策の誓約「クライメート・プレッジ(Climate Pledge)」を共同発表し、二酸化炭素(CO2)排出量を削減するために多くの投資や買収を進めている。

このリポートではCBインサイツのデータを使い、アマゾンの最近の買収、投資、提携から同社の輸送と物流分野の4大戦略を突き止めた。さらに、各戦略でのアマゾンとのビジネス関係に基づいて各社を分類した。

・貨物と物流

・コネクテッドカー技術

・車載インフォテインメント

・MaaS

貨物と物流

アマゾンは年間数十億個の荷物を配達し、10万人以上の配達員を抱えており、輸送の変動費削減を最重要課題の一つに挙げている。米ウォルマートや米ターゲットなど実店舗を持つ小売り大手と競合するため、配送拠点を地域に分散配置することが焦点になっている。

これを達成するため、アマゾンは物流網を強化して最終顧客の近くに拠点を置き、配達時間を短縮し、物流コストを削減することに多額の費用を投じ続けている。

航空貨物

アマゾンは航空貨物の輸送力増強に取り組んでいる。専用の貨物航空会社「アマゾン・エア(Amazon Air)」を設立し、21年初め時点で70機以上の航空機を保有またはリースしている。28年には200機に増えるとの観測もある。

航空輸送力の増強は、アマゾンが配達を迅速化し、物流業務の隅々にさらなる可視性とデータをもたらす非常に重要なステップだ。アマゾンの航空貨物事業は現在、米国内に限られているが、海外に拡大する計画もある。長距離貨物ジェット機を導入すれば、中国など他国のメーカーから製品を直接輸入できるようになる。

アマゾンは16年、航空機のニーズの高まりに対処するため、米貨物航空機リース大手のエアー・トランスポート・サービス・グループ(ATSG)からボーイング767型貨物機20機をリースすることで提携した。ATSGはアマゾンに最大19.9%分の新株予約権も割り当てた。アマゾンは21年3月、これを1億3190万ドルで行使した。

自動物流車両

アマゾンは倉庫や輸送時の人手不足、配送車両の増加、より速く安い輸送の需要に対処するため、物流網の自動化に資金を投じている。

こうした分野の一つが自動トラック輸送だ。これが実現すれば、路上での事故が減り、燃費が改善し、配達時間を短縮できる。アマゾンは19年初め、米スタートアップのエンバーク・トラックス(Embark Trucks)と共同で自動トラック輸送の走行試験を実施した。

同社はそのすぐ後に、自動運転技術を開発する米オーロラ・イノベーション(Aurora Innovation)のシリーズBラウンド(調達額5億3000万ドル)に参加した。オーロラは米トラック大手パッカーとも自動運転トラックの開発で提携している。

だが、完全自動運転トラックを本格展開できるようになるには、まだいくつかのハードルを越えなくてはならない。アマゾンは貨物トラックの自動運転技術を開発する米智加科技(Plus)の自動運転システム1000台を注文して最大20%分の新株予約権を取得し、この分野の戦略を分散化している。智加科技は自動運転トラックを一から開発するのではなく、既存車両に後付けする自動運転システム「プラスドライブ(Plus Drive)」を開発している。

自動運転トラックが導入されればアマゾンの物流事業のコスト構造は改善するが、運転手の必要性は当面消えないだろう。智加科技のシステムでは、まだ人間の運転手が同乗しなくてはならない。

生鮮食品・食品の宅配

アマゾンは07年に食料品宅配サービス「アマゾンフレッシュ」を開始して以来、生鮮食品宅配の分野で存在感を大きく高めている。17年には米食品スーパーのホールフーズを137億ドルで買収した。

アマゾンはその後、米食料品卸・小売りのスパルタンナッシュと提携し、最大15%分の新株予約権を取得した。もっとも、この契約にはアマゾンが7年間でスパルタンナッシュからフレッシュ向けに食品80億ドル相当を購入するという条件が付いている。スパルタンナッシュは16年からアマゾンに食品を卸しているが、この契約によりアマゾンの調達量は2倍以上に増える可能性が高く、スパルタンナッシュはアマゾンフレッシュの主な卸業者になる。

アマゾンは海外の生鮮食品宅配にも手を広げている。16年には英スーパー大手モリソンズ(Morrisons)と提携し、生鮮食品の即日宅配サービスを提供している。19年には英国での宅配対象地域を拡大した。

排出ゼロ物流

アマゾンは19年、40年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロにする誓約「クライメート・プレッジ」を共同発表した。排出量削減を支えるテック企業に投資するため、運用資産20億ドルのクライメート・プレッジ・ファンドも組成した。

このファンドが力を入れている分野の一つは、車両電動化への投資だ。アマゾンのサステナビリティーについての年次報告書によると、20年に同社の活動により排出されたCO2は6064万メトリックトン相当に上っている。

アマゾンのこの分野での最大の投資は、上場したばかりの電気自動車(EV)メーカー、米リヴィアンの株式20%の取得だ。両社はアマゾンの音声AI(人工知能)サービス「アレクサ」や最先端の安全機能などを搭載した専用の電動配送車を共同開発している。リヴィアンは30年までに、この電動配送車10万台をアマゾンに納入する。

アマゾンはカナダの電動トラックメーカー、ライオン・エレクトリック(Lion Electric)の中型と大型の電動トラック2500台も調達する計画で、そのために同社の新株予約権も取得した。この電動トラックはアマゾンの中間配送能力を強化し、車両保有にかかる総コストを削減する。アマゾンはインドのEVメーカー、マヒンドラ・エレクトリック・モビリティー(Mahindra Electric Mobility)とも提携し、インドの宅配事業で三輪配送車の提供を受けている。

コネクテッドカー技術

アマゾンは近年、傘下のクラウド事業「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」を活用して数社と提携し、コネクテッドカーのソリューションを開発している。

AWSと車載基本ソフト(OS)「QNX」を手掛けるカナダのブラックベリーは、自動車用データ基盤「アイビー(IVY)」を共同開発すると発表した。この基盤では様々なセンサーで収集した車のデータを読み取り、自動車メーカーが個別の乗車体験をつくり出したり、ウェブ管理ツール「AWSマネジメントコンソール(Management Console)」で機械学習モジュールを使ったりできる。

アマゾンはコネクテッドカーサービスを構築するため、独BMW、米フォード・モーター、トヨタ自動車などの自動車メーカーとも直接提携している。提携各社はAWSのクラウドインフラや、開発者がモビリティーサービスや車両の設計などでデータ解析を軸に据えるために機械学習を活用できるようにする「アマゾンセージメーカー(Amazon SageMaker)」などを活用している。言い換えれば、自動車メーカーは今や車から得られる大量のデータを有効活用し、より優れた製品やサービスを開発している。

アマゾンはコネクテッドカーのソリューションを提供することで、AWS事業を強化し、データを活用して車両管理向け製品を開発し、遠隔測定データを保険会社に外販し、車載OSの無線アップデートを提供するなど、新たな定期収入源を開拓できる。

車載インフォテインメント

アマゾンは自動車メーカーやナビゲーションシステム各社と提携し、アレクサやスマートスピーカー「エコー(Echo)」、動画ストリーミング端末「ファイアTV(Fire TV)」を使った車載インフォテインメントシステムも提供している。21年には、各社がアレクサを活用して自社ブランドにあわせたAIアシスタントを開発できる「アレクサカスタム・アシスタント(Alexa Custom Assistant)」を発表した。

欧米自動車大手フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)、米ゼネラル・モーターズ(GM)、韓国の現代自動車、EVスタートアップの米ルシード・モータース(Lucid)などの自動車メーカーはアマゾンと提携し、自社の車にアレクサを搭載している。これにより運転手はアレクサを使ってメディアや天候情報、ナビ、電話などを操作できる。アマゾンはナビゲーションシステム大手の米ガーミンや米テレナブと提携し、音声で操作できるカーナビやインフォテインメントシステムも手掛けている。

さらに、米ボックス・オートモーティブ(Voxx Automotive)と組み、後部座席の娯楽システムにファイアTVを搭載している。ボックスは20年初め、世界屈指の大手自動車メーカーに製品を供給する契約を結び、ファイアTVがそのメーカーの車載プログラムに採用されると発表した。

車載インフォテインメントはここ数年、巨大テック企業が特に注目している分野だ。巨大テックの米アップルや米グーグルはそれぞれ、自社OSを車載機器に対応できるようにしている。アマゾンのアプローチにより、同社は既存技術を活用して新たな収益源を生み出し、自動車業界の存在感をさらに高められる。

MaaS

アマゾンは20年6月、自動運転技術を開発する米ズークス(Zoox)を買収した。ズークスはその6カ月後、自社の自動運転システムを搭載したロボタクシーを発表した。両社はこれを自動運転配車サービスに活用する計画だが、荷物の宅配に使う可能性も排除していない。宅配業務で運転手が不要になれば、アマゾンの物流事業にとって大きなコスト削減になる。

ズークスは独立事業として運営を続けているが、アマゾンを親会社に持つことでアマゾンの有料会員「プライム」という大きな顧客基盤を自動的に取り込んでいる。一方、アマゾンはズークスの買収により、グーグル傘下で自動運転技術の開発を手掛ける米ウェイモ(Waymo)やGMの同クルーズ(Cruise)など他の自動車メーカー大手や巨大テックと競合する足掛かりを得ることになる。

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