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JAL、貨物機導入へヤマトとタッグ 繰り出した奥の手

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日経ビジネス電子版

日本航空(JAL)が貨物専用機の運航に再び乗り出す。かつて、日本で初めて貨物機の運航を始めたJALだったが、2010年の経営破綻を機に機材を全て手放し、以降は旅客機の貨物室を使った貨物輸送しか手掛けてこなかった。航空貨物は需要のボラティリティー(変動性)が高く、専用機を運航しないという選択は破綻以降の「保守路線」の象徴と言えたが、新型コロナウイルス禍による旅客需要の急減が潮目を変えた。それでもリスクはできるだけ取りたくない。選んだのは宅配最大手、ヤマトホールディングス(HD)とタッグを組むという道だった。

JALとヤマトHDは1月21日、両社が連携して貨物専用機の運航を始めると発表した。24年4月から、10トントラック5~6台分に当たる最大28トンの荷物を運べる小型の貨物機3機を使い、羽田・成田空港と新千歳・北九州・那覇空港の間でヤマトの「宅急便」を運ぶ。

「輸送ポートフォリオの強じん化を図る」。ヤマトHDの事業会社、ヤマト運輸の梅津克彦執行役員は21日に開かれたオンライン会見の中で幾度となく強調した。ヤマト運輸は17年、人手不足やEC(電子商取引)の普及を背景に荷物の遅配などが続出したいわゆる「宅配クライシス」をきっかけに、取り扱う荷物の量を制限する「総量規制」に踏み切った。ところがコロナ禍による「巣ごもり需要」などの影響で、取り扱う荷物量が再び増加傾向に転じている。21年4~9月の宅配便の取扱個数は18年同期に比べ26%増えた。

「ウィズコロナ」「アフターコロナ」でも宅配需要の増加傾向が継続するとみられる中、物流業界は「2024年問題」を抱えている。19年施行の働き方改革関連法が24年4月から運送業などにも適用され、トラックドライバーの年間残業時間の上限が960時間となるのだ。

首都圏と九州や北海道などを結ぶ長距離輸送をトラックが担う場合、途中でドライバーを交代させることも増えるだろう。24年以降も輸送量を維持するにはより多くのドライバーを確保しなければならない。また、日本は大雪や地震などの災害による物流網の寸断リスクとも隣り合わせだ。短時間で多くの荷物を一気に運べる航空輸送の重要性が年々高まっている。

海外では宅配会社が自ら航空による輸送機能を抱える事例が少なくない。独DHLや米UPS、米フェデックスはもちろんのこと、近年は米アマゾン・ドット・コムが自前の宅配網を構築する中で傘下の航空貨物会社を通じ、積極的に貨物専用機の導入を進めている。

日本国内ではかつて、ヤマト運輸や日本通運などが出資した日本ユニバーサル航空やSGホールディングスの子会社、ギャラクシーエアラインズなどが航空貨物事業を手掛けたが、いずれも短期間で運航停止に追い込まれた。

羽田空港便であれば需要を取り込みやすいが、その羽田空港は発着枠を確保するのも一苦労。さらに「国土が狭い日本では、航空貨物の運賃が高騰すると荷物はトラックや鉄道などの陸運に流れていく」(航空大手の貨物事業幹部)。日本の国内航空貨物は採算性を維持するのが難しい事業と言える。とはいえ、もはや「生活インフラ」となった宅配網を維持するにはある程度のリスクも背負う必要がある。そこでヤマトHDはJALと組んで自ら貨物専用機の運航に関わる決断をした。

JALとしても悪い話ではない。

貨物専用機の有無が業績左右

コロナ禍を機に旅客需要が傾き、JALの経営の土台は大きく揺らいだ。その一方で、旅客便の減便に伴う貨物スペース供給の減少や海運をはじめとする物流網の世界的な混乱を受け、航空貨物の運賃が高騰。貨物事業の収益性が高まっている。JALの貨物事業の売上高は21年4~9月期に983億円となり、19年同期から2倍以上に増えた。事業セグメントごとの利益水準は公表していないものの、苦しい台所事情を貨物事業が下支えしているのは確かだ。

ただし、競合のANAホールディングス(HD)に比べると貨物事業は弱い。ANAHDは中・大型の貨物専用機を計11機抱え、フル回転させる。21年4~9月期の貨物事業の売上高は19年同期の約2.3倍となる1541億円となった。

JALは貨物専用機を持っておらず、基本的には旅客機の貨物スペースのみを使って貨物を運ぶ。JALの菊山英樹代表取締役専務執行役員は「貨物事業のボラティリティーの大きさは半端ではない。我々が貨物専用機を持っていないのは10年の経営破綻というとんでもない経験がきっかけだ」と話す。

JALの経営破綻の背景には「貨物に象徴されるような過度なボラティリティーに依存した冒険主義的投資」(菊山氏)があった。破綻以降、シェアよりも利益水準を重視する保守的な経営を進めてきたJALにとって、貨物事業で旅客機のみを使って「手堅く」稼ぐという選択は必然だったと言える。その結果、航空貨物市場が好況な足元ではANAHDとの差が露呈してしまった。会社全体の赤字幅は今やANAHDよりJALの方が大きく、菊山氏は「率直に申し上げて(ANAHDよりも赤字が大きくなる)一番大きい要因は貨物だと思う」と認める。

テレワークやオンライン会議の普及などによって、アフターコロナの旅客需要はもはやコロナ禍前の水準には戻らないとの悲観的な見方もある。その中でJALは、再成長戦略の柱の一つに貨物事業の強化を掲げる。21年5月に公表した25年度までの中期経営計画では、25年度の貨物事業の売上高を19年度の1.5倍の水準まで高める方針を示した。その一環でEC・宅配需要を「戦略品目」の一つとして積極的に取り込む考えを明らかにしていた。

JALは依然として貨物専用機の導入に否定的な見方を崩していない。ただ、今回のヤマトとの連携という形であれば「成長性のある(EC・宅配)市場の確実な需要が見込める」(JALの岩越宏雄執行役員)ため、リスクは抑えられているとの見解だ。そのスキームにはリスク低減に向けた工夫が随所にちりばめられている。

機材はヤマトがJALに「また貸し」

まずは使用機材。JALとヤマトが今回の連携で使うのは、欧州エアバス製の小型旅客機「A321」を貨物専用機に転用したものだ。

ANAHDは19年から、最大100トンを搭載できる米ボーイング製の貨物専用機「777F」を2機運用している。コロナ禍以前の航空貨物の市況は米中貿易摩擦などの影響で低迷しており、777Fはそのキャパシティーを有効活用しきれず「お荷物」扱いとなっていた。

JALとヤマトが使う機材は777Fの4分の1程度の荷物しか積めないが、その分小回りが利き、需要の波に対応しやすい。小型貨物機の場合、コンテナが積みにくい構造であることが多いが、今回の機材ならその心配もない。オペレーションの効率が高まるだけでなく、ヤマトが得意とする保冷配送にも対応しやすくなる。

機材の調達には「奥の手」とも言える手法を使った。今回使う3機はヤマトがリースで調達し、JALグループにサブリースする。つまり、あくまで機材を保有するのはヤマトで「JALグループはパートナーとして運航などをサポートするというスタンスだ」(JAL担当者)。

さらに実際の運航を担うのはJALが50%出資するLCC(格安航空会社)、ジェットスター・ジャパンだ。JALとの共同運航(コードシェア)便として貨物機を運航し、JALが貨物スペースの販売や、地上での貨物の積み下ろし作業などの一部を担う。ジェットスターの主力機は欧州エアバスの「A320」で、同機のパイロットはA321の運航ライセンスを取得しやすい。

「多頻度運航」で収益性を高めるジェットスターのノウハウを活用すれば、貨物輸送の効率を高められる可能性もある。何よりLCCが運航業務を担うことで人件費などのコストは下がる。ヤマトは貨物スペースを全て買い上げるわけではないが、機材調達に関するリスクを取っている分、3機の貨物スペースを積極的に活用していくことになるだろう。

「基本的にはヤマトの需要で貨物スペースの大半を埋めることができ、JALグループとして需要変動のリスクを負うことはほぼないという認識だ」(JAL担当者)。JALにとっては機材の選定、調達、そして運航というあらゆる側面からリスクを抑えつつ、収益を安定的に享受できるスキームと言える。3機が運ぶ年間の貨物量は10万~15万トンの見込み。1回の平均飛行距離を1000キロメートルとすれば、3機の輸送規模はコロナ禍前にJALが運んだ国内の航空貨物量の30~45%に相当するインパクトだ。JALとヤマトは運航開始後、需要動向なども考慮に入れながら機材数の増強も検討する構え。

物流網の再構築進む

連携の深化に向け、ネックがあるとすればコスト面と環境対応だろう。

少し古い資料になるが、07年度の「国土交通白書」には、東京と福岡の間で貨物を輸送する場合、航空機を使うとトラックに比べ輸送費が8倍、二酸化炭素(CO2)排出量は10倍に増えるとの試算が示されている。ヤマトとしては航空利用が増えればコスト上昇につながる可能性が高く、2050年までの実現を目指す温暖化ガス排出量実質ゼロにも逆風となる。バイオ燃料の活用なども模索しつつ、航空の効果的な活用に向け、工夫を凝らす必要がある。

今後はANAHDの動向にも注目が集まりそうだ。21年8月には傘下の貨物事業会社、ANAカーゴが中堅物流会社の丸和運輸機関と業務提携を結んだ。食品スーパーなどに向けた生鮮品の産地直送に航空輸送を活用したり、越境ECの日本国内での配送体制を構築したりすることを目指す。

今後はヤマトと同様に荷物量の急増に直面するSGホールディングスや日本郵便、さらには日本では航空貨物輸送網を自前で持っていないアマゾンなどとの連携も可能性として考えられる。コロナ禍を機に、輸送手段の垣根を超えた物流網の再構築が進んでいきそうだ。

(日経ビジネス 高尾泰朗)

[日経ビジネス電子版 2022年1月25日の記事を再構成]

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