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分断する世界、脱炭素戦略に影 再エネで供給網リスク

Earth新潮流 三井物産戦略研究所シニアフェロー 本郷尚氏

NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞日経産業新聞 Earth新潮流

多くの企業が排出ネットゼロを掲げている。次は具体的な行動であり、そこで必要になるのは中間目標だ。ルール作りが本格化したGXリーグでは2025年を中間目標年と想定している。25年と言えば3年後だ。中期計画にどう取り組むか腐心している企業も多いだろう。

いざ実行となると簡単ではない。中でも頭を悩ますのは個々の企業の努力を超える不確実性への対応だ。

LNG買い付け走る

例えば電力。多くの企業は化石燃料を直接使うことは少ない。二酸化炭素(CO2)排出削減のために省エネを推進するも排出の中心は電力からであり、目標達成は購入する電力の脱炭素化次第と言っても過言ではない。しかし、電力システムの脱炭素化が想定通りに進むとは限らない。自助努力として再生可能エネルギー電力を購入することも考えられる。ただ、日本全体の電力の低炭素化が進まないなかで再エネ電力の争奪戦をして確保しても、他社にしわ寄せをするだけだ。

コントロールができないのは経済状況も同じだ。エネルギーや農産物の価格高騰による世界的なインフレが金利高、ドル高を招いている。世界的なスタグフレーションか、と危惧されている。初期投資額が大きい太陽光発電や風力発電への影響は大きい。また景気の先行きが不安となれば、企業は投資を控えざるを得ない。脱炭素化計画に狂いが生じる。

もう一つ忘れてはならないのは国際問題だ。日米欧から経済制裁を受けるロシアは欧州への天然ガス輸出停止で対抗している。石炭から天然ガスへの転換を想定していた欧州委員会(EC)は太陽光発電の加速化などにより脱炭素目標は変えないとしている。

しかし、実際はかなり厳しいし、時間もかかる。そのため足元ではドイツなどが液化天然ガス(LNG)の買い付けに走り、世界的なLNG不足、価格高騰となっている。影響は日本の電力システムや日本企業にも及ぶだろう。

懸念は天然ガスに留まらない。脱炭素化に必要な様々な資源をロシアは供給している。ウランでは世界最大の供給国。触媒のプラチナ、軽量素材のアルミ、合金材料のコバルト、バッテリーなどに使うニッケルは世界有数の生産国なのだ。原材料がなければ脱炭素化に必要な機器や設備は作れない。

調達先集中のリスクはほかにもある。風力発電のタービン、高効率モーターなどに使われるレアアース供給の90%は中国だ。コバルトは世界生産の70%をコンゴ民主共和国(DRC)が占め、加工は70%近くが中国だ。リチウムはオーストラリアがチリを上回る最大の生産国となり世界生産の半分以上を占めるが、その加工は60%以上が中国だ。

また、太陽光発電に使われるポリシリコンの生産では中国のシェアが95%に達するだろうと国際エネルギー機関(IEA)は見通す。人権問題が指摘されている中国・新彊ウイグル自治区に世界生産の40%以上が集中するとのことだ。こうした国で混乱が起き、輸出を制限することになれば、脱炭素計画の実行は困難となる。脱炭素戦略においても集中のリスクは大きい。

脱炭素化の必要性は変わらず、脱炭素化を求める流れも変わらないだろう。こうした外部環境の不確実性への対応も目標達成には欠かせない。

まずは脱炭素シナリオの再考だ。最善の脱炭素シナリオだけをもとに自社の脱炭素戦略を立てるのはリスクが高い。世界や日本の脱炭素計画に遅れが生じた場合も含む複数の外部環境シナリオを用意すべきだろう。

例えば、石油ガスメジャーのシェルは国際協調が進まなかった場合も含め様々なシナリオ分析を発表している。狂いが生じた場合にキャッチアップするための代替戦略は用意すべきだろう。

供給網を複数用意

短期的な変動への備えも不可欠だ。いつでも市場から調達できるとは考えず、十分な在庫を持ち、複数のサプライチェーン(供給網)を用意する、さらには安定調達のための長期契約も選択肢になるだろう。これまでの経営戦略は経済効率重視だった。しかし、効率性と安定性のバランス重視へと転換が必要だ。

リスクは新しいビジネスのヒントでもある。代替調達先や代替資源の開発、あるいは集中のリスクのある資源を使わない技術の開発、さらにはリサイクルシステムなどにチャンスだ。資源調達先集中リスクが新しい技術、新しい市場を生み出しそうだ。

ロシアのウクライナ侵攻は自由貿易を前提とした効率優先の経済システムの脆弱さを浮き彫りにした。民間企業も努力するが限界がある。政府の役割はサプライチェーンの強靱(きょうじん)化支援などにとどまらない。紛争回避の外交努力は欠かせないし、また世界貿易機関(WTO)は自由な貿易には必要だ。さらには環太平洋経済連携協定(TPP)やIPEFなど地域の枠組みによる投資環境整備も期待されている。

[日経産業新聞2022年9月30日付]

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