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「ウエハーが足りない」 半導体揺るがすもう一つの影

SUMCOが手掛けるシリコンウエハーは不足感が鮮明
日経ビジネス電子版

世界各地の自動車工場が稼働停止に追い込まれるなど、半導体不足が深刻化している。そこに新たなリスクが浮上した。半導体の材料となるシリコンウエハーが足りなくなっているのだ。需要の急増に対応しきれず、2023年には供給不足に陥るとの懸念が業界で広がる。

半導体大手は矢継ぎ早に増産を催促するが、ウエハー世界2位のSUMCOなどは慎重姿勢を崩さない。背景には市況に踊らされない固い意志と、技術に裏打ちされた高い参入障壁がある。

「在庫がどんどん減っている。早く増産投資してくれないか」。SUMCOには2月以降、半導体大手の台湾積体電路製造(TSMC)から生産増強の要求が日増しに強まっている。主に先端品の製造に使う直径300ミリメートルタイプのシリコンウエハーの逼迫感が強まっているからだ。

SUMCOの推計によると、世界の半導体メーカーは平均で、20年初頭に300ミリウエハー在庫を1.6カ月分保有していた。一方で足元の2月は1.3カ月分まで減少した。「CPU(中央演算処理装置)や機器制御に使うロジック半導体向けで、需要に供給が追いつかない状況になっている」(SUMCOの橋本真幸会長兼最高経営責任者=CEO)。

世界では半導体不足が深刻だ。スマートフォンに加え、在宅勤務の増加でパソコン向けの需要が急増。デジタルトランスフォーメーション(DX)を背景に、人工知能(AI)やあらゆるモノがネットにつながるIoTなどでも引っ張りだこで、TSMCや米インテルでは連日フル生産が続いている。電気自動車(EV)の市場拡大も今後、増産に拍車をかける。

300ミリウエハー、23年に1割不足も

特にスマートフォン向けの300ミリウエハー需要は、4Gから高速通信規格「5G」への置き換えもあり、24年には20年比で3割程度増える見通しだ。ウエハーメーカーが今年中に需要に見合った大規模な投資決定をせず、23年に供給能力が増えていなければ、同年の300ミリの月当たりの需要予測750万枚に対し1~2割ほど足りなくなる。

「このままでは近い将来ウエハーが手に入らない」。TSMCやインテルを筆頭に、半導体大手は焦燥感に駆られ始めた。ウエハー工場の建設から安定量産に入るまで2年ほどはかかる。今年にも建設に着手しなければ、2年後には半導体の材料不足に陥りかねない。

一方でSUMCOは落ち着き払っている。橋本CEOは「値上げが通る見込みがなければ工場の新設はしない」と断言する。理由は大きく2つある。

1つは「シリコンサイクル」に踊った過去の呪縛だ。

半導体市場は00年代半ばに空前の活況を呈しSUMCOは、設備投資を積極化した。だが08年のリーマン・ショックをきっかけに需要が急減した結果、SUMCOは過大な設備を抱えることになり、大幅な赤字に陥った。安易な投資に動かない理由はここにある。

ウエハー工場をゼロから立ち上げるとなれば、500億円以上の初期投資が必要で、順次設備を増強していけば1000億円に達する場合もある。橋本CEOは「(300ミリウエハー価格が)50~60%上がらないと損益分岐点を超えない」と試算する。供給側の力が強いうちに値上げを勝ち取り、着実に収益が上がるめどがついてから投資する――。そんな思惑が透けて見える。

SUMCOの九州事業所(佐賀県伊万里市)

SUMCOは17年に旗艦拠点の九州事業所(佐賀県伊万里市)で10年ぶりに能力を増強したが、この時も値上げが実現するまで投資は決断しなかった。

市場関係者によれば、信越化学工業も値上げ交渉を進めているもようだ。当面は既存工場での生産効率化やボトルネック解消を通じて供給量を引き上げたい考えだが、市況を意識しているのは確かなようだ。

世界シェアの55%を日本勢が占める

もう1つの理由は技術力への自信だ。

英オムディアなどによると、世界のウエハー市場シェアの55%を首位の信越と2位のSUMCOが占め、最先端品になるほど寡占傾向は鮮明になる。半導体の性能は回路線幅に左右されるが、最先端の5ナノ(ナノは10億分の1)メートル向けの材料を量産できるのは、現時点でこの2社だけとみられる。4位の独シルトロニックを買収手続き中の3位台湾・環球晶円(グローバルウェーハズ)も、技術では日本勢に水をあけられている。

SUMCOのウエハーを直径300メートルの競技場に拡大したと仮定すると、グラウンドの高低差は0.1ミリ以下でしかない。また、微細なごみも許されない。甲子園球場の広さに例えるならピンポン玉が1つ落ちているだけで不良品扱いとなる。

ウエハーは半導体の品質に直結するため、TSMCなどは先端品向けの開発にSUMCOと信越をパートナーに選ばざるを得ない状況だ。下位メーカーが追いつくには時間がかかるため、度重なる増産要請に対して強気の態度を続けられるのだ。

SUMCOは20年に5ナノ向けの量産に入ったが、当初は研磨や洗浄装置の調整に手間取り、作れば作るほど赤字という状況だった。20年12月期の連結純利益は前の期比23%減の255億円だった。生産ラインを見直したことで足元では歩留まりは改善したが、こうした痛手を修復するためにも値上げを勝ち取りたい考えだ。

もっとも、2強は企業としての供給責任から逃れられない。足元の半導体不足が解消された後、今度はウエハーが届かないとなれば、世界の産業界から日本勢が糾弾される。そのため、値上げの進展次第ですぐに決断を下すとみられる。

橋本CEOもその時を見越し「候補地の選定を含め(工場を一から立ち上げる)『グリーンフィールド』の検討を始めた」と明かす。信越も1月の説明会で、「グリーンフィールドを早く決めないといけないという感触は持っている」と言及している。

半導体不足の影で露見し始めたウエハー不足。2強の投資判断は半導体業界の命運を握るといっても過言ではない。それは圧倒的な技術を磨き続ければ、やみくもに投資してシェアを追わなくてもプレゼンスを発揮できることを示唆している。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2021年4月26日の記事を再構成]

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