液晶と有機ELいいとこ取り シャープのミニLEDテレビ

シャープがミニLED(mini LED)バックライトを搭載した、8K/4Kテレビの新シリーズ「AQUOS XLED」を発売した。長年テレビ市場でトップシェアを維持してきた同社だが、2021年7月と9月には首位を譲り、その後は上位3社の混戦となっている。新たに開発したミニLEDバックライト搭載テレビは巻き返しの一手となるのか。その中身と同社の狙いを探った。
シャープは2021年12月10日、8K/4Kテレビの新シリーズ「AQUOS XLED」を発売した。最大の特徴は、新開発のミニLEDバックライトを採用したことだ。ミニLEDとはその名の通り小型の発光ダイオード(LED)で、サイズは同社従来機(4K液晶テレビ「4T-C65CH1」)のLEDの約10分の1。AQUOS XLED「4T-C65DP1」にはこのミニLEDが従来機(4K液晶テレビ「4T-C65DN1」)の約72倍、8000個以上が敷き詰められているという。

従来型の液晶と有機ELの"いいとこ取り"
これにより、輝度とコントラストが向上した。1000以上のエリアに細かく分割して駆動させ、映像に応じて各エリアのLEDの点灯・非点灯を制御。従来機(4T-C65DN1)の約3倍のピーク輝度、高コントラストを誇る。また、非点灯の制御により、液晶の弱点だったバックライトの光漏れによる"黒浮き"を大幅に低減させている。
黒の表現は、上位製品として位置づけられてきた有機EL(OLED)の長所。自発光素子のため、バックライト不要で、発光をオフにすれば完全な黒表現が可能だ。一方、その名の通り有機物を使った発光体のため、多くの電力を流して明るく発光させると劣化が進んでしまうとされる。長寿命を確保するため、流れる電流の量を制御しており、製品や映像によって輝度が低くなる傾向にある。
取材時、AQUOS XLEDの4T-C65DP1に加え、従来液晶の4T-C65CH1(2020年モデル)と有機ELの「4T-C65CQ1」(同)、いずれも4Kテレビで同一コンテンツを視聴したが、その違いは明確。従来液晶よりも黒が沈み(締まり)、有機ELのそれに迫る。明るさの面では、有機ELが他に譲り、ミニLEDは優位性のあった従来液晶よりもさらに明るく、コントラストも高い。コンテンツなどにより、有機ELとは好みが分かれるかもしれないが、液晶の明るさと有機ELに迫る黒表現、ミニLEDがそれぞれの"いいとこ取り"と評されることにもうなずける。

ただし、発売直後(12月上旬時点)の実勢価格は、ミニLEDの4T-C65DP1が44万円(税込み、以下同)、従来液晶の4T-C65CH1が11万3527円、有機ELの4T-C65CQ1が24万5898円。液晶と有機ELは20年モデルではあるが、価格差が大きい。
AQUOSブランドのフラッグシップに据える
シャープでは、ミニLEDディスプレー搭載モデルをどう位置づけているのか。ミニLEDを採用したテレビは海外メーカーが先行し、国内メーカーではシャープが初となる。
商品企画を担当した、シャープ スマートディスプレイシステム事業本部 国内TV事業部 8K推進部 部長の上杉俊介氏は、「AQUOS XLEDはフラッグシップであり、今後の主力にしていきたい」と話す。20年に有機ELテレビ市場に参入したが、その際は「"シャープといえば液晶"という強いイメージがあると考え、AQUOSブランドを冠さなかった」(上杉氏)。一方、市場では「AQUOSの有機ELテレビはどれか」といった問い合わせがあり、むしろテレビのブランドとして認知されていると再認識し、21年からはAQUOSブランドに改めた。今回のミニLEDでは、当初からAQUOSブランドをうたい、久しぶりのテレビCMを打つなど、その本気度がうかがえる。

どこに市場性を見いだしたのか。上杉氏は次のように話す。「一番は、液晶テレビの弱点を補うことができたデバイスであるという点。加えて、有機ELに非常に似た商品性であること。日本では海外に比べて有機ELの人気が高く、構成比が約10%を占めているため、ユーザーに受け入れられる素地があると思っている。加えて、液晶テレビの技術をベースとした裾野の広い技術のため、比較的に技術障壁が少なく、参入メーカーが増えてくると予測している。マーケット側、プロダクト側の両方の面から、ミニLEDはかなり伸びてくる」。調査会社による「ディスプレイ方式別テレビ用パネル市場構成比予測(世界)」を引用し、22年には有機ELの構成比を上回ると見込む。

15年以上にわたり、薄型テレビの販売台数トップを維持してきたシャープだが、近年はシェアが低下。そして21年7月にはソニー、9月にはTVS REGZA(旧東芝)にトップを譲る混戦模様となっている(同年8、10、11月はシャープがトップに返り咲き)。また、4Kテレビの販売台数に限ればソニーのシェアトップが続き、シャープが2位で追う構図だ(販売台数シェアはいずれもBCN調べ)。シェア回復のため、将来性の高いミニLEDで先行しつつ、ブランド復権を狙っているようにも思える。
この点に関して上杉氏は、「価格が高いため、シェアの回復よりもまずシャープのAQUOSブランドをもう一度新しくつくり直し、ユーザーの認知を高めるのが使命。結果的に、それが8Kテレビ、4Kテレビ、2Kテレビへと波及していけば全体としてシェアの獲得につながっていくイメージ」と話す。
8Kの技術力などで差異化
参入メーカーが相次ぐと予測したうえで、フラッグシップと位置づける理由もここにある。実は、ミニLEDを先行して採用した海外メーカーの一部製品は、比較的値ごろ感を打ち出している。ミニLED搭載ディスプレーは、例えばLEDの数を減らして性能を落とせば、コストダウンによって価格を抑えることができる。対して、シャープはブランド価値の向上を図り、ハイエンドの道を選んだ。
今後の参入も見込まれる競合他社に対し、勝算はどこにあるのか。画質設計を担った、シャープ スマートディスプレイシステム事業本部 TV技術開発センター 8Kシステム開発部 主任技師の下田裕紀氏は、「優位性は十分ある」と自信を見せる。

その一つが8Kの技術だ。17年以降、同社は8K化に力を入れてきた。今回のAQUOS XLED導入の背景についても、「シャープといえば8Kといわれるようになり、8Kの技術開発が一段落したため、次の進化の構想として、ミニLEDはタイミング的にも自社のロードマップに合致してきた」と上杉氏は話す。
そして、AQUOS XLEDでラインアップする8Kモデルには、その技術が生きているという。地デジや4Kの映像は、新開発の画像処理エンジンで8Kにアップコンバートされており、ここで強みが出るためだ。「200万画素に満たない地デジの映像を8Kの3300万画素にするには1個の点を約16倍に増やす必要がある。それぞれの点に本来何があるべきかを推測して適切な映像にアップコンバートするため、そのアルゴリズムは膨大になる。8Kへのアップコンバートは優位性を出せる部分の一つ」と下田氏は自負する。
もう一点、「大幅に改善できている」(下田氏)と強みにするのが色の再現性だ。「従来の液晶テレビはカラーフィルターで赤青緑の三原色を表現するが、LEDの光の特性上、青が強く他の色のバランスが悪くなる。今回、量子ドット(QD)という光の波長を変えることができる半導体を用い、青色のLEDの光を赤や緑に直接変換できるようになり、純度が高い色再現と広色域化が可能になった」(上杉氏)。シャープとしては初めて採用した技術で、「従来のようにQDシートを使わないという選択肢もあったが、今回ミニLEDを採用するにあたり、合わせ技で高画質化を図っている」(下田氏)

ディスプレーが自社生産かどうかは非公表だという。今回のシリーズに限らず、「自社工場で生産しているディスプレーサイズは限られており、フルラインアップでそろえようとすると必然的にいろいろなチョイスをせざるを得ない。モデルごとに自社、他社という表現だと煩雑になってしまう。グループ内の大阪・堺や中国の工場はじめ、他社を含めてその時々で最適なものを調達している」と上杉氏は説明する。
一方で、「1から100までの垂直統合ではないが、つくりたい仕様を決め、アセンブリーして最終的な製品にする責任はシャープが持っている」(上杉氏)と力を込める。今回のAQUOS XLEDのスペックはそれが表れているといえそうだ。
21年12月10日に発売となった(4Kテレビの55型を除く)が、「実機がないうちから予約が相次いでいる。シリーズ月産4000台の計画で、弾切れを起こさないよう営業からはくぎを刺されている」(上杉氏)と滑り出しは順調のようだ。
かつて、液晶テレビでは海外勢による低価格攻勢で苦い経験をした同社。ミニLEDでは他社の参入を見越したうえでハイエンド戦略を取る。消費者に受け入れられ、AQUOSブランドの価値向上となるか。
(ライター 吉成早紀、写真 古立康三)
[日経クロストレンド 2021年12月21日の記事を再構成]
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