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展示会をバーチャル空間で スペースラボがCG技術応用

スペースラボ(東京・渋谷)の柴原誉幸社長。360度のさまざまな高さにカメラを配置した撮影スタジオを使い、オンライン展示会を実現する
日経ビジネス電子版

いくつもの商品が並ぶショールーム。近づくと商品の説明が始まり、細部を確認することもできる。ただ、これは現実ではなくネット上での話。いわゆる「オンライン展示会」と呼ばれるものだ。新型コロナウイルス感染症の流行が始まり約1年半。見本市や展示会といった大型イベントの多くが自粛を余儀なくされてきた。その代わりとしてオンライン展示会が増えている。

スペースラボ(東京・渋谷)は、コロナ禍に対応して2020年9月からオンライン展示会のシステムを提供している。実際に足を運んでいるかのようにバーチャル空間の会場を回遊でき、目当てのコンテンツにアクセスできるのが同社のシステムの特徴だ。

撮影スタジオでスキャンした商品のリアルな映像を、バーチャル空間に落とし込む

これまで農機具など企業の展示イベントのほか、文化庁などが東京五輪・パラリンピックに合わせて日本文化を国内外にPRする日本博のデジタルコンテンツ「バーチャル日本博」を手掛けてきた。「オンラインでもリアルと同じような体験ができる。オンライン展示会の平均滞在時間は1時間を超えており、一般のウェブサイトなどと比べてもじっくりとコンテンツを見てもらえている」と柴原誉幸社長は話す。

展示されているものの魅力をいかに引き出して、見せるか。それはスペースラボの創業の原点から変わらない考え方だ。

独立、すぐにパンク寸前に

柴原氏は大学の建築学部を卒業後、デザイン事務所で店舗やイベント会場の内装設計などに携わった。00年前後、完成予想図などは手描きが主流だったが、柴原氏は大学の研究室で学んだCG(コンピューターグラフィックス)を駆使して作成。建物をあらゆる角度から見られる分かりやすさなどから、コンペを優位に進めることができた。

その後、国内外のデザイン事務所で働く中で、自身の強みを生かしてCG制作を請け負う会社をつくれば、多くのデザイナーが表現力を高め、業界全体の進化を促せるのではないか、と考えた柴原氏。建物などの完成予想図をCGで立体的にした「建築パース」や動画でデザイン会社などのプレゼンをサポートする、スペースラボを09年に立ち上げた。

たった1人での出発で、すぐに課題に直面した。創業当初から仕事は次々と舞い込んできたが、パンク寸前になった。人手の確保に奔走したが、なかなかCG制作に精通した人材は見つからなかった。

「依頼された仕事は絶対に断るな」。創業前、知人に言われた言葉が柴原氏に突き刺さった。周囲の期待をないがしろにすれば、次の依頼はないかもしれない。もちろん手を抜いて仕事をこなすだけでは信頼を失う。柴原氏が選んだのは、体が動く限り仕事に注力するのと並行して、人材を育てていくということだった。

創業翌月に1人を雇ったが、CGの技術は全くない。受けた仕事を進める傍ら、CGパースの技術を一から教えた。さらに翌月にはもう1人を入社させ、また教育。文字通り「寝る間を惜しんで」業務の遂行と教育を両立させ、企業としての土台を築いていった。

2年目には社員数が10人を超え、それぞれのCG技術も向上。大手ゼネコンなどからの依頼も増え、5年目には商業施設関連の建築パースでシェアの3割以上を占めるまでに成長した。

コロナで見えた新業態

約50人ものCG技術者を抱えるまでに成長したスペースラボだったが、試練となったのが新型コロナの流行だった。20年春以降、商業施設関連の依頼は急激になくなった。

一方で、こんな相談が増えた。「オンラインの展示会をしたいんだが、おたくではできないか」。オンライン展示会はこれまで全くタッチしていない分野。戸惑いもあったが、柴原氏はこれをチャンスと捉えた。

「当時はオンラインの展示会といっても、一覧サイトに毛が生えたようなものばかり。われわれのCG技術を使えば、もっと商品の魅力を体感できる展示会がオンラインでも開けるのではないかと考えた」(柴原氏)

中途採用や外注で人材を確保し、コミュニケーションツールなどのシステム開発に乗り出した。そして20年9月にはオンライン展示会のプラットフォーム「360 SPACE」をリリース、10月には展示会に参加するアバター同士の会話が可能な「XD-SPACE」を売り出した。

反応は上々だった。主力だった建築パース関連の売上高は20年度に前年より3割以上落ち込んだものの、オンライン展示会事業がカバーして全体では4億7800万円と前年比約1割減にとどまった。「リピーターを中心に展示会の引き合いは強い」(柴原氏)といい、21年度の売上高は前年比30%増の6億2000万円を見込む。

スペースラボの売上高の推移。コロナで減収もVR展示会に活路

今後はオンライン展示会の仕組みを電子商取引(EC)サイトなどに広げられないかと画策中。「現実の買い物のように店員から説明を受けたり、店を歩いて回って多くの商品を眺めたり、といった現行のECサイトでは難しい行動を実現したい。新たな価値が眠っているはずだ」と柴原氏は意気込む。危機を逆手にビジネスをこれからも伸ばしていけるか、挑戦は続く。

(日経ビジネス 藤中潤)

[日経ビジネス 2021年9月27日号の記事を再構成]

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