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在宅医療50兆円市場、未来つくる14のテクノロジー

(更新)
CBINSIGHTS
デジタル技術の進展などを受け、在宅医療への取り組みが活発になっている。市場規模は3600億ドル(約50兆円)以上ともいわれ、遠隔で患者をケアできれば医療費削減にもつながることから、多くの会社が関連機器・サービスの開発を競っている。ただ、関連テクノロジーは多岐にわたり、進度やニーズには、ばらつきがある。医療関係者はまずどこに投資すべきか、在宅医療を支える14の技術をCBインサイツが評価した。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

在宅医療への取り組みが活発化している。CBインサイツの業界アナリストの推定では、この市場の規模は3600億ドル以上になる。

関心が急速に高まった一因は新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)だが、パーソナライズされ使い勝手がよく、費用対効果も高い医療オプションへの需要が患者や医療関係者の間で高まっていることも挙げられる。米医療サービス大手ケアセントリックスによる最近の調査では、医療機関よりも自宅で治療を受けたいと答えた人は約6割を占めた。

在宅医療の恩恵を特に受けるのは高齢者と慢性疾患の患者だ。

世界各地で60歳以上の高齢者の数は急増しており、2050年には20億人に達する。一方、米国の成人の6割が糖尿病やがん、肥満など何らかの慢性疾患を抱えている。米疾病対策センター(CDC)によると、米国では治療が必要な慢性疾患の患者の医療費は年3兆7000億ドルに上る。従来の医療機関以外での健康状態のモニタリングの質が向上し、ケアする機会が増えれば、この費用を大幅に減らせるだろう。

今回の記事では、在宅医療を支える14のテクノロジーのどこに医療関係者はまず投資すべきか、その優先順位を「優先すべき」「精査してから」「しばらく注視」の3段階で評価した。

横軸「市場の勢い」:市場全体の成長性を示す指標として、未公開株市場の活動を測定した。こうした指標には、この分野のスタートアップの数、投資額、スタートアップの成熟度などがある。

縦軸「業界大手の活動」:既存の業界プレーヤーがテック市場にどの程度関与しているかを評価した。コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の活動、業界や各社の幹部の発言、特許出願件数などがある。

優先すべき――すぐに投資したい

オンライン診療

▽オンライン診療とは:医療関係者による遠隔医療サービスや人工知能(AI)を活用した症状チェッカー、診察前の事前問診などのテクノロジー。緊急の医療相談や外出が容易でない患者に使われる。

▽知っておくべきこと:米国医師会(AMA)の研究によると、今や医療関係者の約85%がオンライン診療サービスを積極的に提供している。この分野のスタートアップによる過去5年の資金調達総額は52億ドルで、CBインサイツが選んだ有力ベンチャーキャピタル(VC)25社「スマートマネーVC」の多くもこのテクノロジーに投資している。

オンライン医療によってケアを受けやすくなり、医療関係者が1日に診察できる患者数が増えるため、かかりつけ医の不足という今も続く懸案に対処できる。医療関係者は自分の専門分野や特定の疾患を対象にしたシステムなどにこのテクノロジーを導入し続ける必要があるだろう。さらに、診察時にデータに基づいた意思判断を下せるよう、AIを活用したツールの利用を検討すべきだ。

遠隔モニタリング

▽遠隔モニタリングとは:アプリやウエアラブル端末、センサーを組み合わせ、患者の状態を自宅で継続的に記録できるテクノロジー。データは受動的に収集され、医療関係者にリアルタイムで送られる。医療関係者はケアについて判断する際、この情報を活用する。

▽知っておくべきこと:この分野のスタートアップの過去5年の株式発行を伴う資金調達総額は9億2400万ドルで、米VCのゼネラル・カタリストやセコイア・キャピタルなどから出資を受けている。さらに、遠隔モニタリングの開発各社は米マサチューセッツ総合病院やスイスの製薬大手ロシュ、米イーライ・リリーなど業界大手と広く提携している。

医療関係者は患者に関するデータを常時得ることで、治療計画の変更についての判断を積極的に下せる利点がある。このため、遠隔モニタリングへの投資は優先すべきだ。慢性疾患の患者や高齢者はケアを細かく管理する必要があるため、まずはこうした層への導入を検討すべきだろう。

在宅医療支援

▽在宅医療支援とは:在宅医療を提供する環境を整えるテクノロジー。往診の調整や在宅治療オプションの拡充、病院と同等のケアなどがある。患者の都合のよいときにケアの必要性に応じて有効に対処できる上に、患者を自宅にとどまらせることで利便性を高め、感染症の拡大を抑えられる利点がある。医療機関はこのテックの活用により、入院が必要な患者に資源とスペースを割くことができる。

▽知っておくべきこと:この分野は投資家から注目を集めている。過去5年のスタートアップの資金調達総額は25億ドルで、スマートマネーVCは15件の資金調達に参加した。最近では重要な提携も増えている。マサチューセッツ総合病院、米大手医療保険カイザーパーマネンテ、米大手医療機関メイヨー・クリニックなどの医療大手がレイター(後期)ステージのスタートアップ、米メディカリー・ホーム(Medically Home)と提携したほか、米アドベントへルス(AdventHealth)や米ラッシュ大学医療センターはユニコーン(企業価値が10億ドル以上の未上場企業)の米ディスパッチヘルス(DispatchHealth)と組んでいる。

医療機関が様々なケアの段階の患者に病院と同等の医療を提供するため、この市場に事業を拡大するのを注視すべきだ。医療関係者がこの分野に投資する際には、AIツールやデータ分析などの機能を搭載した総合システムを手掛ける企業を見定めなくてはならない。こうしたシステムは在宅サービスの最適な治療計画への知見をもたらしてくれる可能性があるからだ。

在宅診断

▽在宅診断とは:テックを活用して家庭で迅速に病状を検査できるシステム。咽頭をぬぐう検査や静脈切開キット、病気の兆候を受動的にモニタリングするセンサーなどがある。これにより医療機関での受診が不要になり、患者は自宅にいながらにして確かな治療を受けられる。

▽知っておくべきこと:20年代末には在宅診断の市場規模は数十億ドル相当に拡大するとみられており、過去5年間のこの分野のスタートアップによる調達総額は14億ドルに上る。この分野はなお急速に進化しつつあり、過去5年の投資件数の44%をアーリー(早期)ステージのスタートアップが占めている。

医療関係者はこの市場を真剣に評価すべきだ。患者に自宅で受けられる便利な診断検査を提供することは、患者と医療関係者の双方にとって魅力的だからだ。注目分野の一つは妊婦や心臓病のケアを対象にした在宅での超音波などの画像撮影法だ。さらに、在宅でセンサーを使って記録した患者の声や嗅覚に関するバイオマーカーは、パーキンソン病などの疾患を予測する上で今後ますます有望になるだろう。

精査してから――今後1~3年の間に評価

在宅点滴

▽在宅点滴とは:通常病院や点滴センターで受ける透析などの点滴治療を、自宅で受けられるようにする。データを医療関係者に提供する無線接続の点滴ポンプや、治療計画をモニタリングするプラットフォーム、在宅機器の殺菌などがある。医療関係者は消費者向けの利便性の高い医療を支えるため、このテックに目を向けつつある。

▽知っておくべきこと:この市場への投資額は過去2年で大幅に増えている。この期間に米ソマタス(Somatus、調達額3億2500万ドル)、英クアンタ・ダイアリシス・テクノロジーズ(Quanta Dialysis Technologies、2億4500万ドル)、米モノグラム・ヘルス(Monogram Health、1億6000万ドル)が一度に1億ドル以上を調達する「メガラウンド」を実施した。

腎臓疾患やがんなど体力を消耗する長期に及ぶ治療で在宅治療の利便性を求める患者が増えていることを背景に、在宅点滴市場は成長している。医療関係者はこの需要に応えるため、管理しやすさ、感染症のモニタリングと予防、注入後の状態を判断するツールなどに対応した包括的なシステムを選ぶべきだ。こうしたシステムは登場し始めており、数年後には導入によって恩恵を受けられるようになるだろう。

デジタル治療(デジタルセラピューティクス)

▽デジタル治療とは:エビデンス(科学的根拠)に基づく研究とデジタル技術を組み合わせ、在宅で対応可能な継続的な医療問題に対してパーソナライズされたオンデマンドの治療を提供する。メンタルヘルスや恐怖症の克服から、消化器系、内分泌系、心臓病系疾患の管理に至るまで様々な問題に対処するアプリやデジタルツールがある。医療関係者にとっては、医療現場以外で簡単に使える患者の健康を支える治療オプションを増やせるメリットがある。

▽知っておくべきこと:デジタル治療への投資額は過去5年間で11億ドルを超えている。米食品医薬品局(FDA)の承認を受け、臨床的に実証された治療法が市場に投入されており、この分野は急速に進化している。

医療関係者は様々な分野や症状に効果がある治療法を見つけるために、この市場に注目すべきだ。もっとも、システムが使いやすく、コンテンツが理解しやすく、対象となる患者層のニーズを満たしているかを吟味する必要があるだろう。

デジタル臨床検査ツール

▽デジタル臨床検査ツールとは:オンライン診療を支えるため、診断レベルの質の検査機器を家庭に提供するツール。デジタル聴診器や総合デジタル医療キットなどがある。

▽知っておくべきこと:米調査会社グローバル・マーケット・インサイト(GMI)によると、21年の遠隔診療機器の市場規模は35億ドル相当に上った。このテクノロジーでは提携の多様さが目立っている。メイヨー・クリニックやカイザーパーマネンテなどの医療大手はそれぞれスタートアップの米エコ(Eko)、同タイトーケア(TytoCare)と提携している。一方、こうしたスタートアップは遠隔医療大手の米アムウェル(AmWell)や米テラドック・ヘルス(Teladoc Health)のほか、米工業製品・事務用品大手のスリーエム(3M)や米大手家電量販店のベストバイなど医療分野に新規参入した異業種の企業とも組んでいる。

オンライン診療は今後も定着し、最先端の検査ツール、特にAIを搭載したツールは遠隔での診断や治療の判断を支える一段と重要な要素になるだろう。医療機関は在宅でさらに先進的な医療を提供するため、このテクノロジーを導入し始めるとみられる。

在宅ケア管理プラットフォーム

▽在宅ケア管理プラットフォームとは:効果的なケア連携に向け、急性期の医療機関から在宅ケアへの移行を支援するテクノロジー。従来は慢性疾患の患者や高齢者の治療が中心だったが、幼い子どもの親を対象にした新たなシステムも登場している。スケジュール作成の支援や、患者が現行のケアのニーズに対応しているかどうかのモニタリングなどがある。

▽知っておくべきこと:医療関係者は高齢者や慢性疾患の患者、急性期の患者など様々な患者層を管理する総合成長戦略としてこの市場の評価を続けるべきだ。

医薬品と医療機器(DME)の受注・発送管理(フルフィルメント)

▽医薬品と医療機器の受注・発送管理とは:多くの病気では継続的な在宅ケアのために医薬品や医療用品、機器を定期的に注文する必要がある。このテクノロジーには医薬品や医療用品を効率的に調達するためのオンライン市場や宅配サービスなどがある。

▽知っておくべきこと:この市場の過去5年間のスタートアップの資金調達総額は16億ドルに上る。スマートマネーVCは6件の資金調達に参加している。

この市場は医療分野では確立されているが、車いすや歩行器など医療機器の手作業での調達は医療関係者と患者の両方にとってフラストレーションがたまりやすい。このテクノロジーで注目を集めている2つの重要なポイントは、宅配の自動化とパーソナライズ化だ。医療関係者は患者が医薬品や医療機器を迅速に入手できるようにしたいと考えている。物流分野での優れたノウハウと最先端の流通テクノロジーを備える米アマゾン・ドット・コムなど、巨大テックのさらなる参入が見込まれる。

在宅ケアのワークフロー

▽在宅ケアのワークフローとは:在宅医療のワークフローの最適化を支援するテクノロジー。在宅ケアの調整の自動化のほか、事務管理や臨床、金銭面への対処などがある。

▽知っておくべきこと:この市場は数年後には定着している可能性が高いが、現時点ではもっと速やかに進歩するために資金調達が必要だ。医療関係者はこのテクノロジーを注視し、特定のニーズに対処しているかどうかを評価すべきだが、大きな価値を得られるようになるまでは既存テックの改良を待つ姿勢も必要だ。

しばらく注視――今後3~5年の見通し

データ収集・整理(データアグリゲーション)

▽データ収集・整理とは:連続した治療で患者のデータを集約・分析するニーズの高まりに対処する。電子健康記録(EHR)やウエアラブル端末、センサーなど多くのソースから集めたデータを医療関係者が利用できる状態に整えることは、患者の管理を成功させるために一段と重要になっている。データを取り込んで統合する機能は患者ケアの有効な管理に不可欠になりつつある。治療の必要性を評価する際に、最新の包括的な見方ができるようになるからだ。

▽知っておくべきこと:この分野のスタートアップによる資金調達額は他の在宅ケアサービス市場よりも少ないが、多くの医療機関はデータウエアハウス(大規模なデータベース)技術に多額の資金を投じている。開発各社が用語体系を統一し、共通のデータ構造を使えるようになるまで、この分野の動きはほとんどないだろう。今後けん引役となる可能性があるイノベーション(技術革新)は、様々な関係者間で患者データを収集、共有、追跡するために使われるブロックチェーン(分散型台帳)技術だ。この技術は医療業界ではまだ初期段階だが、データを統合し、記録の包括的な共有を阻む障壁の一部を排除する可能性がある。

患者の誘導&予約支援

▽患者の誘導&予約支援とは:ケアのニーズに基づいた医療関係者の検索や、便利で使い勝手の良い予約オプションへのアクセスを患者に提供するテクノロジー。この手段は患者にとって魅力的で、医療関係者を選ぶプロセスへの関与を促す。患者に自ら治療を選択してスケジュールを組む選択肢を持たせ、医療関係者のリソースを節約できるため、医療関係者側にもメリットがある。

▽知っておくべきこと:医療関係者のこのテクノロジーへの投資優先度は高くない。米センター・フォー・コネクテッド・メディシン(CCM)の調査では、このテクノロジーの活用を今後検討すると答えた人は88%に上った。だが現時点では、多くの医療機関は医療関係者の賛同を得られるかどうかが大きなネックになるとみている。テクノロジーの利用が増える前にこの点についての対処が必要になるだろう。この市場では戦略的提携が相次いでいる。保険の米ヒューマナや米シグマ、薬剤給付管理(PBM)サービスの米オプタム(Optum)などの大手は米ブオイ・ヘルス(Buoy Health)と提携している。数年もたてばこうした性質の提携が増え、異業種の参入(米マイクロソフトと韓国サムスン電子と似たような道をたどるだろう)が進む見通しだ。

このテクノロジーについて検討している医療関係者は、自らと患者の双方にとって使い勝手の良い包括的なシステムに資金を投じられるよう、時間をかけるべきだ。そうでなければメリットを実感しづらいだろう。

服薬順守

▽服薬順守とは:患者が自宅で適切な投薬計画に沿った処方薬を服用するよう支援する。このテクノロジーは服薬を促す通知やアプリ、服薬の記録に及び、ケアの一環として評価する必要がある。服薬順守はかねて懸案となっており、複数の研究では米国で年5000億ドル以上の無駄な医療費、年約12万5000人の回避できた死、最大25%の入院につながっていることが示されている。

▽知っておくべきこと:この市場の過去5年のスタートアップの資金調達総額は1億1100万ドルにとどまる。調達額が比較的少ないのは、総合ケア管理プラットフォームへの搭載が進んでいるからだ。こうしたプラットフォームはすでに医療関係者によって実装されているため、医療関係者はイノベーションの次の波が市場に到達するのを待っている。

医療関係者は既存の服薬順守ツールを吟味し、新たなテックに投資するか、既存ツールを強化するかを見極めるべきだ。既存テックの機能はこの市場の需要を十分に満たすだろう。だが新たなテクノロジーを検討するのであれば、服薬順守の新たな時代を導くスマート薬瓶や(センサーを組み込んだ)デジタル錠剤など新しいテクノロジーについて評価すべきだ。

患者紹介

▽患者紹介とは:患者紹介プロセスの負担を軽減し、専門診療への連携を簡素化するテクノロジー。在宅ケアの連携と適切な患者紹介は見過ごされがちで、あらゆる当事者にとって不満が募りやすい状況にある。このテクノロジーは事前予約に基づいて自動で紹介を開始し、患者と医療関係者の管理を調整することで負担を軽減する。

▽知っておくべきこと:この市場の過去5年のスタートアップの資金調達総額は5億ドル余りで、スマートマネーVCは10件の資金調達に参加した。もっとも、この市場は今のところ新たなイノベーションの導入よりも既存テックを重視しており、この分野にはアーリーステージのスタートアップが比較的少ない。

しかも、多くの医療機関や医療関係者は新規投資よりも、既存のEHR開発企業や以前に購入したシステムで対処しようとしている。この市場はケアを円滑に連携し、医療関係者と患者の介入を最小限にとどめる「裏方」の管理手法にシフトすれば活発化する可能性がある。

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