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米アルファベット、医薬90社に投資、遺伝子や生殖医療

CBINSIGHTS
米アルファベットが傘下の米グーグルを中心に、医薬品部門への企業投資を加速させている。この分野で過去2年間で投資した会社数は90社以上にのぼる。その中身を分析すると、医薬品の研究開発を支援するテクノロジーや遺伝子を調べる「ゲノミクス」、性と生殖に関する健康「リプロダクティブヘルス」など5つの重点分野が浮かび上がってくる。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

世界4位の時価総額を誇るアルファベットは、ウェブや検索だけでなく、医薬品分野でも活動している。

同社は過去2年で医薬品部門の企業90社以上に投資した。こうした投資は傘下の医薬関連企業、米ベリリー・ライフサイエンシズ、米カリコ・ライフサイエンシズ、英アイソモルフィックラボの活動を補っている。例えば、ベリリーは最近、コストを抑えつつ個別化したケアを提供する「プレシジョン・へルス(Precision Health)」を実現する目標を促進するため、10億ドルを調達した。

アルファベットはさらに、研究、臨床、非臨床のデータを駆使し、患者一人ひとりのニーズに応じて薬や医療をカスタマイズする企業にも投資し続けている。

今回はCBインサイツのデータを活用し、アルファベットのバイオ医薬品分野での最近の買収、出資、提携から5つの重要戦略をまとめた。この5つの分野でのグーグルとのビジネス関係に基づき、各社を分類した。

・医薬品の研究開発テック

・遺伝子治療

・ゲノミクス(遺伝子の網羅的解析)

・リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)

・サプライチェーン(供給網)

医薬品の研究開発テック

新たなテクノロジーによって創薬から臨床試験(治験)、精密医療(遺伝子情報をもとにその患者に最適な治療を施す医療)に至るまで医薬品の開発コストは下がり、開発期間は短くなっている。アルファベットなどのテック企業は投資や買収を通じてこの分野に参入しつつある。

例えば、アルファベット傘下のベリリーは2021年8月、治験管理システムを手掛ける米シグナルパス(SignalPath)を買収し、新風を吹き込んだ。この買収によりベリリーの臨床研究プラットフォーム「ベースライン」は機能を拡充し、今や分散型治験、実世界のデータの生成、50万人以上が参加するコミュニティーからの患者の募集など治験機能を完備している。

グーグルは21年3月、各細胞の遺伝子の働きを解明する「一細胞解析」を手掛けるスタートアップ、米セルシウス・セラピューティクス(Celsius Therapeutics)のシリーズB(調達額8300万ドル)に参加した。セルシウスは患者の組織サンプルに個々の細胞のRNA(リボ核酸)の遺伝子情報解析(シーケンシング)技術を適用した大規模なデータベースを構築している。これにより、これまで知られていなかった患者グループを対象にした医薬品を開発できるようになった。23年初めには炎症性腸疾患(IBD)の治療薬の治験に乗り出す計画だ。さらに、米ヤンセンファーマなどの製薬会社とともに、遺伝子情報解析技術を活用し、新薬の効果を測定するバイオマーカーの発見に取り組んでいる。

グーグルは米ライフマイン・セラピューティクス(LifeMine Therapeutics)にも出資した。ライフマインは遺伝子情報解析と人工知能(AI)を活用して真菌由来の薬剤候補を開発する。22年3月には複数の疾病分野で新たな低分子化合物を見つけるため、英製薬大手グラクソ・スミスクラインと提携すると発表した。

グーグルは直近では、米ジリス(Xilis)に出資した。同社は組織の採取(バイオプシー)、マイクロ流体力学、ロボット工学を活用し、患者の組織の3次元(3D)モデルを培養する。この生物学的に関連性がある3Dモデルにより、製薬会社は動物モデルではなく実際の組織で薬剤候補を検査できる。がん専門医が患者と同じ組織に様々な薬を試し、効果を上げる確率が最も高い薬を選ぶことも可能だ。

遺伝子治療

アルファベットはこれまでに、遺伝子治療を手掛ける企業12社に出資している。

例えば、ベリリーは20年初め、米マンモス・バイオサイエンシズ(Mammoth Biosciences)のシリーズBに参加した。マンモスは米バイオ医薬品バーテックス・ファーマシューティカルズ(6億9100万ドル)や独医薬・農薬大手バイエル(10億ドル)などと提携し、製薬会社による遺伝子治療の開発を支援している。

グーグルは21年7月、米プライムメディスン(Prime Medicine)のシリーズBにも参加した。このラウンドにはバイオテックの代表的なベンチャーキャピタル(VC)、米アーチ・ベンチャー・パートナーズ、米カスディン・キャピタルなども参加した。プライムメディスンのゲノム編集技術「プライム・エディティング」は、DNAの不完全な部分を「検索」して正しいコピーに「置き換える」ことができる。この技術は点変異、挿入変異、欠失変異など全ての遺伝子変異の90%近くに対処できるという。米バイオテクノロジー企業、ビーム・セラピューティクスは19年、鎌状赤血球症(遺伝子の変異によって引き起こされる遺伝性血液疾患)の治療のため、プライムメディスンの技術を使用する独占権を取得した。

遺伝子治療の課題の一つは、薬を狙った場所にピンポイントで届けることだ。多くの治療では遺伝子治療を標的とする細胞に届けるため、ウイルスのカプシド(たんぱく質の殻)を利用している。グーグルは遺伝子治療での薬の伝達を向上させるため、米ダイノ・セラピューティクス(Dyno Therapeutics)に出資している。ダイノはAIと大量・高速の新たな手段を使い、薬を大量かつ効果的に届けるためにアデノ随伴ウイルス(AAV)のカプシドを最適化する。ダイノはスイスのノバルティスやロシュなど多くの製薬会社と連携している。

ゲノミクス(遺伝子の網羅的解析)

21年のゲノミクス企業への投資額は10億ドル近くと過去最高に達した。アルファベットは遺伝子情報解析技術から解析プラットフォーム、がん診断に至るまで、この分野の多くの企業に出資している。

例えば、ベリリーは19年、患者に実用的な遺伝子情報を提供するため、公衆衛生プラットフォームを運営する米カラー(Color)と提携した。ベリリーが手掛けるベースラインの参加者はカラーの遺伝子検査サービスと遺伝子カウンセラーを利用し、病気のリスクや薬の反応を知ることができる。

グーグルは20年、リキッドバイオプシー(血液などの体液をもとに病気を診断する技術)を手掛ける米フリーノーム(Freenome)のシリーズCに参加した。フリーノームは遺伝子情報解析とAIを使って血液サンプルからセルフリーDNA(破壊や死滅した細胞に由来する血中DNA)を見つけ、がんを早期発見する。21年12月には乳がんの血液バイオマーカーを見つけるため、独シーメンスの医療機器部門シーメンス・ヘルシニアーズと提携した。

グーグルは直近では、ゲノム(全遺伝情報)関連のデータ管理・分析プラットフォームを運営する米DNAネクサス(DNAnexus)に出資した。DNAネクサスはゲノムデータへのアクセスを提供し、製薬会社が標的やバイオマーカーを見つけ、医薬品開発を推進できるよう支援する。同社は急成長しつつある実世界のデータ市場で活動する企業だ。

リプロダクティブヘルス(性と生殖に関する健康)

CBインサイツのアナリスト予測では、女性ヘルスケア市場の規模は今後5年以内に570億ドル近くに達する。グーグルはここ2年で5社に出資し、この分野で活動し始めている。

21年には米ウーバーテクノロジーズのダラ・コスロシャヒ最高経営責任者(CEO)とともに、避妊の処方薬の販売と配達サービスを手掛ける米フェイバー(Favor、旧ザ・ピルクラブ)に出資した。

直近では、妊娠合併症を早期発見するRNA検査を開発する米Mirvieに出資した。妊婦の5人に1人が予期せぬ合併症にかかり、年間の医療費は欧米だけで500億ドルに上る。Mirvieのプラットフォームは症状が出る前に妊娠高血圧腎症にかかっている女性の75%を発見できるとしている。

グーグルはここ2~3年で体外受精企業3社にも出資している。米トゥモロー(TMRW)は体外受精に使う卵子凍結を管理する自動プラットフォームを構築している。このプラットフォームでは無線自動識別(RFID)技術を使ってそれぞれの卵子のIDを確保し、ロボットにより一定の温度を保つ。

やはりグーグルの出資を受けている米オーバーチュア・ライフ(Overture Life)は非侵襲性の遺伝子診断、卵子凍結、胚の冷凍保存をワンストップで手掛ける。一方、イスラエルのエンブリオニクス(Embryonics)はAIを使ってそれぞれの胚の着床の可能性を推測する。これにより体外受精の成功率が約15%高まったとしている。

サプライチェーン(供給網)

新型コロナウイルス禍ではサプライチェーンの問題が様々な業界に広がり、定着した。サプライチェーンの混乱は傷んでいない薬を適時に投与される必要がある患者に甚大な影響を及ぼしかねない。アルファベットはこの2~3年でサプライチェーン企業5社に出資している。

例えば、米カルチャー・バイオサイエンシズ(Culture Biosciences)はバイオリアクター(生物反応装置)を使った実験の設計、モニタリング、分析を代行するクラウドプラットフォームを開発している。ベリリーは21年10月、カルチャーのシリーズBに参加した。カルチャーの顧客企業には米バイオスタートアップのザイマージェン(Zymergen)や人工設計たんぱく質を開発する米ジェルター(Geltor)などが名を連ねる。

一方、グーグルが出資する米レジリエンス(Resilience)はバイオ医薬品の製造プラットフォームを拡大するため、20億ドル以上を調達している。レジリエンスはバイオ医薬品、細胞治療、遺伝子治療、核酸、ワクチンを製造しようとする製薬会社向けに、バイオマニュファクチャリングサービスを提供している。22年8月には希少疾患や複雑な疾患のバイオ医薬品を開発するため、米大手医療機関メイヨー・クリニックと提携すると発表した。

グーグルは直近では、22年4月に米ワルツ・ヘルス(Waltz Health)のシリーズAに参加した。ワルツは消費者に処方薬の保険給付のナビゲーションや各薬局の価格情報を提供するデジタルツールを手掛ける。処方薬を推進しつつも薬局スタッフの事務負担を減らすため、薬局とも組んでいる。

その他

アルファベットは上記の5つの重要戦略に加え、2つの関連分野にも投資している。

感染症:グーグルは様々な科のウイルス全てに効く鼻の抗体スプレーを開発するオランダのバイオテック企業ライデン・ラボ(Leyden Labs)に出資している。同社は新たな感染症への感染やパンデミック(疫病の世界的大流行)を防ぐ製品の提供を目指している。

アンチエイジング:グーグルはここ1年、加齢に伴う病気の治療薬を開発する米テンシックスティーン・バイオ(TenSixteen Bio)や、予防的なアンチエイジングサービスを提供する米モダンエイジ(Modern Age)にも出資している。

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