米山舞 開催イベント、展覧会でなく展示会と呼ぶ理由
イラストレーター米山舞インタビュー(下)
アニメーターとしてキャリアをスタートさせながら、活躍のフィールドを広げ、従来の「絵」にとらわれない挑戦を続けている米山舞。彼女が新たに挑戦した素材は「布」だった。元和元年(1615年)創業の京都の老舗綿布商『永楽屋』とコラボした手ぬぐいを作ったのだ。昔ながらの手ぬぐいにも、彼女のこだわりが込められているという。

「ファブリックは初めてでしたけど、永楽屋14代目の細辻伊兵衛さんとお会いして、永楽屋さんが大事にされていることや、イラストとコラボして手ぬぐいを盛り上げたいという気持ちを伺いました。
私、職人さんも大好きで、生地や刷りの技のお話も面白かったです。繊細な絵も再現するために生地もオリジナルで一から作られたり、手ぬぐいのための情熱と技術がすごかったです。ちょうど細長い絵を描いていたので、これで作りたいなと。見本で見せていただいた祇園祭の手ぬぐいが白黒できれいだったので、全体はモノクロで、そこに手ぬぐいにはあまり使わない金や銀をさしたら、シックで持ちやすいものになるかなと考えました。
ボカシも多用するので、それをグラデーションで表現するのに、刷りの版を8版も重ねていただいて、色校正も2回ぐらいチェックして……。画面で見る絵と手触りのあるものはやっぱりちょっと違うし、身近に置くものは無意識に目に入って記憶に残る。すごくいいものができたと思います」(米山舞、以下同)

(※)永楽屋:https://eirakuya.sub.jp/blog/collaboration002/
あえてプロダクト、"もの"主体で展示会を開催
絵を描くだけでなく、見せるための「技術」にもこだわる。そんな米山の象徴ともいえるのが、今年、開催予定の展示会「SSS Re/arise」だ。米山が所属する創作者集団SSS by applibotのイラストレーター・キャラクターデザイナーのPALOW.をプロデューサーに、米山舞をディレクターに据えて、デジタルアートと物作りを組み合わせたものになるという。
「絵を並べた『展覧会』ではなく、あえて『展示会』と言っているのには理由があります。プロダクトや作品の出力にこだわって、これまでと違う形でデジタルアートをリデザイン(再実現)して、会場に置いてみようと考えているからです。
例えばアニメのタペストリーにしても、日本には素晴らしい技術をもった業者さんや職人さんがたくさんいらっしゃるし、製造方法やお金のかけ方を変えたらランクアップできるのではないかなと。
これまで、"アニメの絵""萌え"などジャンルで分けて狭めていたのはもったいないと思っていて。自分が欲しいと思えるものをリデザインして、会場に置き、手にとってくださった人がどんな表情をするのか、見てみたいんです。靴や服って持っていたらうれしいね、というのと同じように、デジタルで見ていたものが自分の手の中にあったら。そうしたものを並べた"場"そのものをデザインしたいなと」
アニメやコミックのイラストを絵画や抽象画と同じ扱いに
従来のファンや10~30代の若い世代に、圧倒的な支持を得ているイラスト。米山は、「イラストレーターやアニメーターであることも誇りですし、その表現を変えないまま、絵画や抽象画と同じ扱いをされたい」と言う。
「アニメやコミックのイラストは、今、たくさんの方の心を動かしたり、好きだと思えたり、音楽や文学と同じで、自分のものだと感じてもらえる、いい時代になりました。しかも絵って、いろいろなものとつながって、まだまだ伸び代がすごくあると思っているんです。見てくれる方々の読み取る力や楽しむ力もすごく大きくなっていて驚いていますし、感謝しています。
技術者の方がこんなことができると提案しにきてくれたり、こんなものが欲しい、作りたいと、いろいろな人のインスピレーションを刺激できたら。それは私たちも常に求めているし、いろいろ仕込んで、それを喜んでもらえたら。
小さい頃から、お年玉袋やグリーティングカードが大好きだったんです。もらった人もうれしいし、自分が込めた思いを読み取ってくれたら、自分ももっとうれしくなる。自分の表現する絵を形にして、そうした思いを乗せていきたい。そうした表現ややりたいことがどんどんアップデートされていく。デジタルの表現力とリアルの物欲がうまく絡み合う時代になったのかもしれませんね」

(ライター 波多野絵理、日経エンタテインメント! 平島綾子)
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