JTB、21年3月期の最終赤字1051億円 人員削減計7200人

JTBが28日発表した2021年3月期の連結決算は、最終損益が1051億円の赤字(前の期は16億円の黒字)となった。新型コロナウイルス感染の長期化で旅行需要が急減し、赤字額は過去最大となった。山北栄二郎社長は同日、700人規模の追加リストラや今夏冬の賞与ゼロなどを発表したが、オンライン旅行予約が台頭する中で収益環境は厳しく、抜本的な構造改革が急務となっている。
「新型コロナにより大規模な需要が喪失した」。同日のオンライン記者会見で山北社長は前期の業績をこう振り返った。連結売上高は前の期比71%減の3721億円、経常損益は742億円の赤字(前の期は25億円の黒字)だった。足元では東京など9都道府県で6月20日まで緊急事態宣言の延長が決まったうえ、ワクチン接種の遅れで旅行需要の回復はより不透明さを増している。

山北社長は同日、早期退職などでグループ全体で約700人を追加削減し、今期の賞与を支給しない方針も示した。昨年11月の発表分と合わせて人員削減は全体の約25%に当たる7200人規模になる。21年度末までに国内の約25%の115店を減らすとした昨秋の店舗削減計画は足元で70店超まで進んだ。コスト改革と7月以降の国内移動の回復を見込み、22年3月期は「なんとしても(最終)黒字化を実現する」と述べた。
三菱UFJ銀行やみずほ銀行、三井住友銀行の3メガ銀に日本政策投資銀行を交えた枠組みでの支援を受ける方向だ。優先株などでの資本支援を軸に銀行団全体で数百億円規模の資本支援を検討している。山北社長は具体策には言及せず、「自助努力によって資本確保すると同時に、あらゆる手法を検討したい」と述べた。
JTBなど国内の旅行会社の事業モデルは厳しさを増していた。米調査会社フォーカスライトによると、19年は国内旅行市場のうち、オンライン予約の占める割合は43.6%で、店舗などオフラインが56.3%だった。オンラインの割合は14年に比べて8.8ポイント上昇し、その割合は今後も高まる見通しだ。

JTBでは、19年の個人向け旅行取扱高のうち、7割を店頭販売が占めている。ウェブ上での販売も強化しているが、店舗での対面販売が主流だった中、20年には新型コロナ禍が直撃。店舗を持たず少人数で運営できるOTA(オンライン専業旅行会社)に比べて、店舗型の固定費の高さという構造的課題を浮き彫りにした。
すでに欧米では旧来型の旅行会社はOTAにおされて追い込まれていた。団体旅行の元祖とされる英旅行会社のトーマス・クックは業績悪化で19年に破産。オンライン予約の普及に対抗できなかったことが最大の原因とされる。独大手TUIも20年5月、新型コロナの影響でグループ全体で8000人規模の人員削減を決めた。
トーマス・クックはその後、経営再建に向けてOTAに転身。20年9月からオンライン上で旅行取り扱いを再開した。ただ、旅行業界に詳しい日本大学の矢嶋敏朗准教授は「JTBがOTAに転身しても収益化は難しい」と指摘する。国内市場で米エクスペディアなど海外大手を含めたOTAがすでに存在感を増しているためだ。

エクスペディアは4月、オンライン上で旅先のおすすめ情報を案内したり、ガイド付きのパッケージツアーを取り扱ったりするなどサービスの多角化を発表。店舗型の強みだったガイド機能がOTAに備わることで、競争環境はより厳しくなっている。
JTBは交通手段や宿泊を自由に組み合わせ、使い勝手を高めた旅行商品「ダイナミックパッケージ」を拡大するほか、オンラインによる接客サービスも促進。近畿日本ツーリストなどを抱えるKNT-CTホールディングスも、同じ趣味を持った人をつなぐオンライン上のコミュニティー事業など新サービスを構築。同社は21年3月期に96億円の債務超過となり、親会社の近鉄グループホールディングスや銀行団から総額400億円の資本支援を受ける。
JTBは昨年11月発表の中期経営計画で、自治体の観光課題解決などソリューションビジネスを事業の中核に育て、28年度までに連結営業利益450億円規模の達成を掲げる。新たな観光資源の発掘や、ふるさと納税の商品開発、国際会議や見本市の誘致など「MICE」事業で協力する。山北社長は「オンラインを駆使して新しいビジネスになりつつある。人材教育など必要な投資を進めたい」と述べた。