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世界最大級の臨床検査施設 ロボット活用でほぼ無人

日経ビジネス電子版
「検査を止めるな」。血液検査など受託臨床検査最大手のH.U.グループホールディングス(HD)が、約850億円を投じた新たな検査センターを稼働させた。広さは東京ドーム3個分に近い巨大施設だ。自動化も徹底しており、時間にして検査の9割以上をロボットなどが担う。従業員の働きやすさにも配慮した開放感たっぷりの新施設を探訪した。

東京都あきる野市にあるJR五日市線・武蔵引田駅から徒歩すぐ。田園風景が広がる地域にあって、H.U.グループホールディングス(HD)が新設した臨床検査施設「H.U.ビオネスコンプレックス」が異彩を放つ。敷地面積は12万2000平方メートルに達する。

ロボティクスで人手は3分の1に

新施設は子会社のエスアールエル(SRL、東京・新宿)の受託検査施設などから成る。血液や尿、DNAなど医療機関から送られてきた検体を検査する能力は1日最大30万件と「世界最大級」(H.U.グループHD)。国内の約8割の医療機関と契約している。現在約700人が働くが、将来は1000人規模に増やす予定だ。

従業員が多いようにも思えるが、それはこの施設にグループの研究開発機能も集約しているため。むしろ注目すべきは、人がほとんど介在しないまま検査をさばく自動化ラインにある。

全国から検体がセンターに届くとロボットがQRコードを読み取り、AGV(自動搬送車)が検査装置エリアに搬送する。検査は多種多様な装置を使い、様々な検査項目について同時並行で分析する「分注」が一般的だが、ここでは最大20もの分注ができる。従来、人の手による分注が多かったが、ここでは完全自動化している。

一般的な血液検査や尿検査などの場合、受付から検査、保管先の冷凍・冷蔵庫への搬入までは約2時間しかかからない。従来、中核拠点の八王子ラボラトリー(東京都八王子市)では半日ほどかかっていた。新施設では検査結果も4時間ほどで出るといい、「他社と比べてもかなり速い」(同)という。

徹底的な効率化はロボットやAGVなしには実現しない。その数は計約110台。自動化を徹底し、2025年3月期には1検体当たりの取り扱いコストを20年3月期比15%引き下げる計画だ。

従来人がやっていた作業を疲れ知らずのロボットたちがテキパキとこなす。廃棄時期がきた検体のデータがロボットに送られるや、廃棄してもよい検体だけをピッキングして、針山にくし刺しにする。処理した後の容器もごみ箱に捨てる。

ほかにも血液を遠心分離機にかけて異常がないか検査する作業では、ロボットが画像認識して検査結果が正しいかどうかを判定。これには検査員も顔負けだ。大々的なロボティクスの導入で八王子市の拠点に比べ検査要員の数は約3分の1だという。

つながり重視、研究者を一堂に

「検査を絶対止めないという使命感でビオネスコンプレックスを立ち上げた」。H.U.グループHDの竹内成和社長兼グループCEO(最高経営責任者)は、こう力を込める。止めないために竹内社長が妥協しなかったのは、新施設の立地だ。

従業員の通勤を考えたとき、八王子市の近辺が理想だった。そこで候補地を探したところ、水害がなく地盤の固さや活断層が走っていないことを踏まえ、10あった候補先からあきる野市を選んだ。

交通の便もいい。首都圏を大きく囲う圏央道(首都圏中央連絡自動車道)のあきる野インターチェンジに近く、それを経由することで中央自動車道や関越自動車道など方々に伸びる主要な高速道路にすぐにアクセスできる。停電リスクへの備えも徹底。非常用電源や受水槽などを設け、電力供給が途絶えても3日間ほぼフル稼働できる体制を整えた。

ビオネスコンプレックスには受託検査だけではく、グループの研究開発機能もある。SRLに加え、試薬や分析装置を扱う富士レビオ(東京・新宿)、基礎研究を担うH.U.グループ中央研究所(東京都あきる野市)の研究者も集う。ロボティクスや人工知能(AI)の技術者も在籍する。

竹内社長は「施設は、『つながる』『はぐくむ』も大きなコンセプト。グループの研究開発はバラバラだったが、ここに横串を通し顧客の課題解決につなげる」と語る。SRLの検査責任者は「最先端のゲノム検査プロジェクトが、H.U.グループ中央研究所と共同で立ち上がるなど一体感が生まれている」と明かす。カフェレストランでは、これまで交流がなかったグループ会社の社員同士がランチを楽しむ風景も珍しくなくなった。

検査施設の暗いイメージ覆す

検査の現場では防護服に身を包んだ従業員が、無機質な空間でひたすら検体を装置から出し入れして分析する。人の命と健康に関わるだけに神経をすり減らしストレスも多い。施設は、そうした従業員に少しでもリラックスして安らいでもらえるよう開放的なつくりになっている。

検査施設から各棟をつなぐ回廊は全面ガラス張り。光がたっぷり差し込み、暗いイメージはどこにもない。通路やレストラン、従業員が休息できる場所のどこからでも広々とした自然豊かな中庭を眺めることができる。

照明も時間帯によって光の量や色合いが変わる。デザインやコンセプトはすべて竹内社長の発案だ。建屋を上空からみると細胞と細胞をつなぐ神経のシナプスのように見える設計も竹内社長のアイデアという。

「従業員がいつでも快適に働けるよう創意工夫するのは経営者の大事な仕事。お金は惜しまなかった」。竹内社長が言うように施設内を歩くとちょっとした美術館かのように錯覚してしまう。カフェレストランでは朝、焼きたてのパンも味わえる。食材の多くは地元の農協から仕入れるほどのこだわりぶりだ。

巨額投資の回収で試される手腕

竹内社長はソニー・ピクチャーズ エンタテインメント会長などソニー(現ソニーグループ)のグループ会社で数々の要職を歴任。エイベックス・グループ・ホールディングス(現エイベックス)では最高財務責任者(CFO)も務めた。16年6月、ヘルスケア業界に転身。H.U.グループHDの前身である旧みらかホールディングスの副社長を短期間務めた後、同年10月、社長に就任した。

受託検査だけでなく試薬開発、検査キットの生産、手術器具まで多角化しているH.U.グループHDは時に市場関係者から「コングロマリットディスカウント」(複合企業の価値が各事業の価値を足し合わせたものより小さいこと)を指摘されることもあったが、竹内社長は「逆に強み。シナジー(相乗効果)は出せる」と一体運営を推進してきた。

H.U.グループHDの22年3月期連結決算は、売上高、純利益とも過去最高を更新した。ただ、これは新型コロナウイルスのPCR検査受託や抗原検査用試薬の販売が好調だったためで、一過性の追い風参考記録ともいえる。

22年3月期からは、ビオネスコンプレックスの減価償却が始まっており、今後負担がずしりとのしかかる。H.U.グループHD全体の23年3月期(今期)の減価償却費は200億円と、前期比38%増える見通しだ。コロナ関連需要のピークアウトもあって、今期の純利益は前期比58%減の125億円にとどまりそうだ。

巨額投資に見合うだけの受注を集め、最先端の新施設をフル活用することが収益改善に欠かせない。「つながる」を掲げるビオネスコンプレックスを根城に、コングロマリットディスカウントをどれだけ跳ね返せるか。竹内社長の手腕が試される。

(日経ビジネス 上阪欣史)

[日経ビジネス電子版 2022年5月25日の記事を再構成]

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