/

JR東西・私鉄も23年春に値上げへ 円安と原油高で

日経ビジネス電子版
2023年春は、鉄道業界では久々の「値上げラッシュ」になりそうだ。東急電鉄が国土交通省に申請していた運賃改定が条件付きで認められたほか、近畿日本鉄道も4月15日に23年4月からの運賃改定を申請。JR東日本、東京メトロ、JR西日本も値上げを表明した。しかし、各社がよりどころにする値上げの根拠はそれぞれ異なっている。

3月末から4月にかけて、「来年春に運賃を値上げする」との表明が相次いでいる。JR東日本と東京メトロはそれぞれ社長会見で、10円程度上げると発表。JR西日本は京阪神の一部区間で運賃を改定する。近畿日本鉄道は4月15日に来年4月からの運賃改定を国土交通省に申請した。

最も影響が大きいのは、東京都心部に路線網を張り巡らせるJR東と東京メトロの値上げだろう。しかし、JR東からは運賃改定のリリースは出ていない。

実は、4月5日付の「バリアフリー設備の整備を促進します」というニュースリリースに書かれた以下の記載が運賃改定に該当する。「設備整備にあたっては、2021年12月に国により創設された、都市部において利用者の薄く広い負担を得てバリアフリー化を進める制度(鉄道駅バリアフリー料金制度)を活用します」

「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律(バリアフリー法)」では、1日の利用客数が10万人以上の駅にホームドアや可動式ホーム柵、3000人以上の駅に点字ブロックや障害者用トイレを早期に整備する目標が示されている。これまでは鉄道事業者の自助努力によって整備が進められてきたが、新型コロナウイルス禍でその余力がなくなっている。そこで新たに認められたのが、運賃に一定額を上乗せする制度。国交省の認可が必要な運賃改定とは異なり、届け出だけで実施できる。

JR東では東京を中心とした「東京電車特定区間」のみを利用する場合に限り、普通運賃に10円上乗せすることに決めた。通勤定期の場合は1カ月280円、3カ月790円、6カ月1420円の上乗せとなる。増収額は年間230億円、13年間で総額2990億円を見込む。これらはバリアフリー設備の整備に使われ、投資額4200億円の一部を賄う予定だ。

東京メトロもこの制度の利用を表明した。JR東と同様、上乗せ額は普通運賃で10円となる。24年度の運輸収入はコロナ前の85%程度を見込んでいるが、この上乗せが実現すれば5ポイント高い90%になるとみている。

ただしこの制度が使えるのは、大都市圏、特に首都圏の鉄道事業者に限られる。

バリアフリー対応で特に費用がかさむのはホームドアの整備。JR東の場合、計画する約4200億円のうち実に4100億円が首都圏330駅のホームドア整備に充てられる。ただ、全国的に見れば、ホームドアの整備が必要な1日10万人以上の利用がある駅は少ない。

例えばJR西の場合、20年度で1日10万人以上の利用があったのは、大阪駅、京都駅、天王寺駅の3駅だけだ。JR西は「鉄道駅バリアフリー料金制度の活用も検討している」(長谷川一明社長)としつつ、22年4月に別の手法で運賃値上げを決めた。正確には値上げではなく、値引きを取りやめるというものだ。

JR西の管内では、315区間で「特定区間運賃」という、通常より割安な運賃が設定されている。旧国鉄時代、赤字を減らそうと値上げを繰り返した結果、京阪神エリアでは私鉄よりも運賃水準が高くなってしまった。そこで客離れを食い止めるために、私鉄と競合する区間に限って、私鉄と同水準に割り引いている。

しかし分割民営化後、JR西は消費税率引き上げによる運賃改定しか行っていないのに対し、私鉄各社は何度か値上げを実施。その結果、JRのほうが安くなる逆転現象が生じていた。今回、私鉄よりも割安な34区間について、運賃を引き上げることにした。

例えば大阪-神戸間は現行の410円が450円に上がるが、それでも阪急電鉄や阪神電鉄と同額で、JR西のほうが所要時間が短いことから競争力は十分保てるといった具合だ。国交省から認可されている上限運賃の範囲内のため、運賃の変更は届け出だけでよい。一部の乗客が私鉄に流出しても、年間10億円程度の増収が見込めるという。

近鉄は「沿線人口減少」訴える

各社があの手この手で、運賃改定とは別のスキームで少しでも増収を図ろうとするのには理由がある。運賃改定のハードルは極めて高いのだ。鉄道事業法に基づく「旅客運賃の上限変更」の認可を得る条件は、鉄道事業で今後3年間赤字が見込まれること。一般的には過去3年間が赤字の場合に認められてきた。コロナ禍の赤字は一過性という見方も捨てきれず、将来の赤字をどう「証明」するのかがカギになる。

4月8日、国土交通省は東急電鉄が今年1月に申請していた運賃改定を認可した。来年の春にも、平均12.9%の値上げが行われる。初乗り運賃は現行の130円(ICカードは126円)よりも10円ほど高い140円(ICカードも同額)となる。

コロナ禍による利用客の減少を理由とした運賃改定が認められるかどうか、業界内では注目が集まっていた。1月以降、運輸審議会で11回の議論が重ねられ4月5日に答申が出された。内容は値上げを認めるというものだったが、異例の「要望事項」が付いた。「新型コロナウイルス感染症の影響は先行き不透明であり、東急電鉄の需要見通しは一定の合理性が認められるものの、想定と実績が大きく乖離(かいり)する可能性がある。従って認可期限を付けるとともに、経営実績や収支率について運輸審議会に毎年報告せよ」という内容だった。答申に基づき、今回の認可は28年3月末までの期限付きとなった。

東急の運賃改定が認可されたちょうど1週間後、今度は近畿日本鉄道が運賃改定を申請した。認められれば初乗り運賃は現行の160円から180円に上がる。値上げ率は17%と東急よりも高い。

近鉄はコロナ禍による乗客の減少だけでなく、首都圏とは異なり、そもそも人口自体が減少段階に突入していることを強調する。沿線の生産年齢人口は1995年の768万人から2020年には654万人と、15%減少している。輸送人員は1991年度をピークに減少を続けており、コロナ禍の前の2018年度時点ですでに1991年度の3割減、コロナ禍の20年度は91年度と比べて半分まで落ち込んでいる。利用の減少は不可逆的と訴えており、東急の前例を考えれば、運賃改定は申請通り認められる可能性が高い。

円安、原油高でコスト削減吹っ飛ぶ

JR西の長谷川社長は東急の運賃改定が認められたことについて「アフターコロナにおいて鉄道利用が元には戻らないという前提で、将来の赤字について柔軟な見方がなされた」と評価する一方、「もっと機動的に運賃を改定できるように議論を進めてほしい」と注文を付ける。

国交省では2月から運賃・料金制度のあり方に関する小委員会が開かれており、6月下旬に中間とりまとめが出される予定だ。小委員会での事業者ヒアリングにおいては「事前の認可ではなく届け出制でいいのではないか」(JR東)、「物価上昇に応じて運賃を適正に見直す必要がある」(JR西)、「収入原価の算定基準が3年間なのは長すぎる」(JR九州)といった声が上がった。

目下、円安と原油高のダブルパンチも鉄道各社を襲っている。あるJR関係者は「コロナ禍で数百億円の経費削減を行っているが、その努力が吹っ飛ぶレベル。航空業界と違って燃油特別付加運賃(燃料サーチャージ)などが認められていないのもつらい」と頭を抱える。国民生活への影響の大きさから、これまで厳しい運賃規制がかけられてきた鉄道。しかしこのままでは、鉄道事業そのものが成り立たず、生活の足までが失われる最悪の結果にもなりかねない。

(日経ビジネス 佐藤嘉彦)

[日経ビジネス電子版 2022年4月26日の記事を再構成]

日経ビジネス電子版セット

週刊経済誌「日経ビジネス」の記事がスマートフォン、タブレット、パソコンで利用できます。「日経ビジネス電子版」のオリジナルコンテンツもお読みいただけます。日経電子版とセットで月額650円OFFです。

お申し込みはこちらhttps://www.nikkei.com/promotion/collaboration/nbd1405/

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

日経ビジネス

企業経営・経済・社会の「今」を深掘りし、時代の一歩先を見通す「日経ビジネス電子版」より、厳選記事をピックアップしてお届けする。月曜日から金曜日まで平日の毎日配信。

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

関連企業・業界

業界:

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン