抜け穴の「白ナンバー」も 迫られる飲酒運転対策

飲酒していたトラック運転者が引き起こした、痛ましい児童5人の死傷事故。顧客の荷物を有償で運ぶ「緑ナンバー」のトラックには酒気帯びチェックが義務付けられてきたが、事故を起こしたのは自社の荷物を運ぶ「白ナンバー」の自家用トラックだった。業務で使用する白ナンバー車についても酒気帯びチェックの体制づくりが避けられない情勢となってきた。
千葉県八街市で6月末に起きた、下校中の児童の列に飲酒運転のトラックが衝突した死傷事故。これを受けて政府が設置した「交通安全対策に関する関係閣僚会議」は8月4日に開いた第2回会合で、公立小学校の通学路の安全確認や飲酒運転の防止に向けたアルコール検知器の活用などを後押しする緊急対策を決定した。
焦点となりつつあるのが、先の事故を引き起こした「白ナンバー」の自家用トラックの取り扱いだ。赤羽一嘉国土交通大臣は8月4日の閣僚会議で自家用トラックについて言及し、「使用者における義務の徹底や対策の拡充について警察庁と連携して取り組んでいく」と表明した。
輸送用のトラックは大きく2種類に分かれる。顧客の荷物を有償で運ぶ営業用トラックは、緑色のプレートに白い文字を配した「緑ナンバー」を付ける。自社の荷物を自社で運ぶ自家用トラックは、一般の自家用車と同じ白いプレートを付ける。自社の拠点間の物流や、取引先への自社配送は白ナンバーが中心となる。
全日本トラック協会によれば、2019年度に国内で保有されていたトラック車両769万台のうち、緑ナンバーの割合は19.3%。その営業用トラックの事業者は、運行前にアルコール検知器を使って運転者の酒気帯びをチェックしている。同じ緑ナンバーであるバスやタクシーの事業者とともに、11年から義務付けられてきた。
残りの約8割を占める白ナンバーの自家用トラックの事業者には、その義務や罰則がなかった。白ナンバーの車両を5台以上使用している事業所、または定員11人以上の車両を1台以上使用している事業所は、「安全運転管理者」を選任し、所轄の警察署を通じて公安委員会に届け出る必要がある。今回の緊急対策では安全運転管理者の未選任の一掃に向けて取り組むとともに、検知器を使った酒気帯びのチェックを「促進する」とした。
さらに警察庁と国土交通省は、安全運転管理者の選任が必要な事業所に対して酒気帯びチェックを義務化する検討に入った。棚橋泰文国家公安委員長は8月20日の会見で「運転者の運転前後にアルコール検知器を用いて酒気帯びの有無を確認し、記録することを、いわゆる白ナンバーの安全運転管理者が実施しなければいけない業務として、新たに加えることを検討している」と述べた。
自発的にチェック体制を構築する企業も
白ナンバーの車両を運転する人の酒気帯びチェックを自発的に進める企業も出てきた。酒類の提供者でもある飲料・食品大手などは、営業車や自家用トラックを運転する前にアルコール検知器でチェックすることを社内で義務付け、酒気を帯びた状態で運転させないようにしている。
アルコール検知器を開発するパイ・アール(大阪市)は、スマホと検知器を接続し、呼気を吹き込んだときの本人の画像と測定結果を自動送信して記録するシステムを開発した。なりすましを防ぎ、管理者の数値入力の手間を省けるメリットもある。同社の安田將佑次長は「人手が足りていない中小の事業者がきちんと酒気帯びをチェックできる体制を構築する必要がある」と指摘する。
検知器に息を吹き込んでアルコール濃度が基準値以下でなければ車両が起動しない「アルコール・インターロック装置」の普及を図ることも、今回の緊急対策に盛り込まれた。飲酒運転を防ぐ手立ては徐々にそろってきている。
飲酒運転を防ぎ切れない企業は、事故や信用失墜などのリスクを抱えることになる。いずれは、運転者の管理が甘い企業との取引を避ける動きも出てくるだろう。業務用車両を使う企業には、検知器でのチェックが義務化されてから動き出すのではなく、飲酒運転を許さない体制を能動的に構築することが求められる。
(日経ビジネス 大西綾)
[日経ビジネス電子版 2021年8月24日の記事を再構成]
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