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Appleの次のヒットの芽 買収・提携企業から探る

CBINSIGHTS
スマートフォンの「iPhone」や時計型端末の「アップルウオッチ」など世界的なヒット商品を生み出してきた米アップルの次の一手への関心は高い。秘密主義で戦略がなかなか見えづらいが、2018年以降に買収、出資、提携した企業を分析すると、拡張現実(AR)・仮想現実(VR)やデジタルヘルスなど注力する4分野が浮かび上がる。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

米アップルは次のヒットを探し求めている。同社は時価総額2兆ドル以上、年間利益1000億ドルを超える世界有数の企業で、スマートフォンやパソコン、タブレット端末、スマートウオッチで名をはせてきた。

現在は健康・ウエルネス、モビリティー、デジタルコネクションなどにインパクトを与える製品や機能の土台を築くため、AR・VR、人工知能(AI)、半導体などのハイテク分野に積極的に投資している。

アップルは秘密主義で有名だが、同社の買収、出資、提携動向からは次の方向性がうかがえる。2018年以降に買収した企業は、端末側でデータを処理するエッジAIのスタートアップの米エックスノア・ドット・エーアイ(Xnor.ai)からVR配信プラットフォームの米ネクストVR(NextVR)に至るまで25社を超える。

今後5年で半導体の開発、AI、高速通信規格「5G」技術などの分野に新たに4300億ドルを投じて米国で2万人の新規雇用を創出するほか、欧州とインドにも追加投資する方針を明らかにしている。

今回はCBインサイツのデータを活用し、アップルの最近の買収、出資、提携から4つの新たな重要戦略を突き止めた。この4つの分野でのアップルとのビジネス関係に基づき、企業を分類した。

・AR/VR

・デジタルヘルス

・機械学習&AI

・半導体&先端素材

AR/VR

アップルの特許申請動向が示すとおり、同社は10年以上前にAR/VRのアプリケーションへの投資に乗り出した。例えば、17年にリリースしたAR開発キット「ARキット(ARKit)」のダウンロード件数は今や計1300万件に達し、1万4000以上のアプリに使われている。

ここ数年はAR/VR分野の企業をかなり買収している。同時に、23年に発売される見通しの複合現実(MR)ヘッドセットの開発を社内で進めているとのうわさも浮上している(いずれはもっとスタイリッシュな眼鏡型端末が続くだろう)。

18年にはこの分野の企業2社を買収した。画像認識技術(コンピュータービジョン)とAR技術を持つイスラエルのCameraiと、AR眼鏡のレンズを開発している米アコニア・ホログラフィックス(Akonia Holographics)だ。アップルは2社の買収により特許ポートフォリオを強化し、豊富な人材を手に入れ、将来のAR製品の土台を築いている。

20年にはVR企業2社を買収した。1つ目はネクストVRで、買収額は1億ドルとされる。ネクストVRはスポーツや娯楽のVRコンテンツを取得し、配信するシステムを開発している。その2~3カ月後にはロケーションやテーマに応じて仮想環境を作成する米スペーシズ(Spaces)を買収した。

アップルは米メタのようにメタバース(仮想空間)への野心を明らかにしてはいないが、AR/VR端末への相次ぐ投資は未来のより没入的なデジタル環境と、それに伴い必要になる可能性があるハードウエア開発の布石になっている。

デジタルヘルス

アップルはさらに広範な重要戦略の一環として、健康事業に注力し続けている。この戦略を進めるために他社や大学、アプリ開発企業などとも提携している。

この戦略の柱はアップルウオッチやiPhoneなどの自社端末だ。利用者はこれを使って自分の健康データを追跡、収集、共有できる。

アップルの研究チームはアップルウオッチでモニタリングできる新たな健康データを積極的に探っている。21年には米バイオ医薬品大手バイオジェンと提携し、認知機能の低下を検知できる手段を調べると発表した。

米国立衛生研究所(NIH)や米ホワイトハウス、米ハーバード大学、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)、米ミシガン大学などいくつかの大学や政府機関とも組み、自社端末を活用して新型コロナウイルスや騒音暴露、女性の健康など様々な問題に対処するために研究している。

一方、米医療保険大手のユナイテッドヘルスケアやエトナなどとは、加入者にアップルウオッチの購入費用の補助などのサービスを提供する契約を結んでいる。

19年には睡眠中の子どものぜんそくの状態を測定するシステムを手掛ける米トゥエオ・ヘルス(Tueo Health)を買収した。この買収もアップルが消費者向けの健康・ウエルネスを拡充する方針を示している。

機械学習&AI

アップルはAI分野の取り組みを強化するため、機械学習(過去のデータを活用して未来のシナリオを理解するAIの一種)とAI分野の企業を積極的に買収している。買収ペースは米グーグルや米マイクロソフトを上回っている。

アップルによるAI企業の買収攻勢はiPhoneの新機能の開発に不可欠となっている。多くは音声アシスタント機能「Siri(シリ)」を強化する位置付けにあるが、同社の他の多くのソフトウエアにも活用される。

例えば、19~20年には次の企業を買収している。

・一人ひとりの利用者に応じてシリやニュースフィード、動画アプリを最適化する機械学習プラットフォームの米レーザーライク(Laserlike)

・シリの言語理解を向上させるアイルランドのボイシス(Voysis)

・データセットのエラーを自動で検知して修正するAIプラットフォームを開発するカナダのインダクティブ(Inductiv)

・iPhoneの写真の品質を高める赤外線技術を持つ英スペクトラル・エッジ(Spectral Edge)

アップルは20年1月、エッジ(端末側の情報機器)で使う高性能の機械学習モデルを開発しているエックスノアも買収した。買収額は2億ドルとされる。エックスノアは画像の取り込みや処理、自然言語処理、物体認識に関する多くのアップル製品の機械学習モデルを強化する可能性がある。

AI分野のその他の買収には、AIを搭載したホームセキュリティーカメラを開発している米ライトハウスAI(Lighthouse AI)、オンデバイス(端末に内蔵された)機械学習ソフトウエアを手掛ける米シルクラボ(Silk Labs)などがある。これらの買収は、データをデバイス内に保存することによりプライバシーに配慮したスマートスピーカー「ホームポッド(HomePod)」をテコ入れしている可能性を示している。

半導体&先端素材

アップルは一部では世界最先端の半導体設計企業だとみなされている。さらに、世界最先端の半導体製造受託企業、台湾積体電路製造(TSMC)に半導体の生産を委託している。半導体の生産プロセスは極めて複雑なため、この提携は重要だ。

アップルは08年、半導体設計の米PAセミ(P.A. Semi)を買収し、設計事業に参入した。この買収は先見の明があった。最高の消費者体験を可能にするには、自社デバイスに合わせた独自の半導体を設計する必要があると理解していた。

同社はそれ以降、半導体の設計に精力的に取り組んでいる。19年には米半導体大手インテルのスマホモデム事業を10億ドルで買収し、重要な特許ポートフォリオとインテルの社員2200人を獲得した。18年には英ダイアログ・セミコンダクター(Dialog Semiconductor)の電源管理部門を6億ドルで買収した。

さらに、米コーニング(Corning)や米ツーシックス(II-VI)など重要なサプライヤーに出資し、半導体機能を強化している。コーニングはiPhoneの画面に使われている強化ガラス「ゴリラガラス」を手掛ける。アップルは21年、それまでに4億5000万ドルを出資していたコーニングに4500万ドルを追加出資した。この時期に折りたためるiPhone発売のうわさが広がったが、追加出資の正式な狙いは明らかにされていない。

一方、21年にはツーシックスに4億1000万ドルを出資した。17年にはツーシックス傘下の米フィニサー(Finisar)に3億9000万ドルを出資している。ツーシックスはアップルの顔認証「フェイスID(FaceID)」やポートレートモードなどの機能に加え、AR体験の生成に使う「LiDAR(ライダー)スキャナー」に搭載されているレーザーなどの光技術を手掛ける。

アップルはこれらの投資に加え、iPhoneの組み立てを委託している台湾・鴻海(ホンハイ)精密工業傘下の富士康科技集団(フォックスコン)や、有機ELパネルを手掛ける韓国のLGディスプレーなどの大手企業と提携している。

その他

アップルはこの4つの重要戦略の他にもいくつかの分野に投資している。

自動車

アップルカーのうわさは2014年からあり、過去数年間には自動車の特許も多数出願している。CBインサイツの特許検索ツールで探すと、熱管理システムや車両の座席など、伝統的な自動車技術に注力していることが分かる。特許だけではなく、2019年には自動運転スタートアップのドライブ・エーアイ(Drive.ai)を買収している。

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