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安川電機 キュウリとの格闘の先にあるロボットの未来

日経ビジネス電子版

産業用ロボット大手の安川電機が農業分野への進出を本格化させている。目下取り組むのはキュウリ生産者向けロボットの開発だ。熟練の生産者の長年の勘に根ざした作業の自動化は容易ではない挑戦だが、主戦場の自動車工場や家電工場とは畑違いのキュウリとの格闘は、ロボットの未来を切り開く戦いでもある。

キュウリの大規模栽培施設「ゆめファーム全農SAGA」(佐賀市)。日の光が降り注ぐハウスの中でキュウリがすくすくと育っている。そこに登場したのは青いアームを備えた安川電機のロボット。アームの先で葉をつかみ取ると、備え付けの箱の中に入れる。通気性や日照を良くするために古い葉を取り除く「葉かき」という作業だ。

キュウリ生産者向けロボットの開発は全国農業協同組合連合会(JA全農)と共同で進めている。安川電機とJA全農は2018年に業務提携して農業や畜産の自動化に取り組んでおり、これまでには採卵鶏農場向けのサルモネラ菌検査用ロボットの稼働にもこぎ着けている。それにしても、なぜキュウリなのか。

今回、テーマにキュウリを選んだ理由は、その成長の速さにある。収穫作業は朝と夜の2回で、農家の負荷は大きく、自動化への要求も高いと判断した。開発着手は19年。安川電機の開発担当者がキュウリ栽培の現場に足を踏み入れて作業するところからスタートした。

AIで熟練の技に挑む

開発者が現場に入って驚いたのは、キュウリの収穫に従事する熟練のパートたちの能力だった。規格外になれば半値に下がるシビアな世界とあって、色や形、そして重さを、見た目や触感を頼りに見極めて、最も高く売れるタイミングで収穫する。

ゆっくりと考えていては獲れる本数も少なくなるので、瞬時の判断が求められる。安川電機の熊谷彰・技術開発本部長は「そこまで、というほどに考えながら、こんなにもたくさんの量を収穫する。目の当たりにして、すごさを実感した」と振り返る。自動化のハードルは高い。

一つ一つ個性のある農作物を扱うのは極めて複合的な作業といえる。決められた一つのことをこなすのを得意とするロボットにとって、こうした曖昧な作業こそが、最も苦手とする領域だ。

ロボットでも熟練のパートと同じように収穫できるよう、活用するのが人工知能(AI)だ。カメラで撮影したキュウリの生育状況の画像データに加え、気温や二酸化炭素(CO2)量といった外部環境のデータも集め、自律的に収穫のタイミングを判断できるよう学習させる。

多能工型で採算性のハードル越える

仮に技術課題をクリアしても、採算性という壁が立ちはだかる。農業の場合、春から秋にかけて短期間の作業が大量に続く。例えば、収穫に特化したロボットを開発しても、1年のうち1週間しか活躍の機会がないといったことになりかねない。安川電機がこれまでロボットを納めてきた、年間を通して同じ作業を繰り返す製造業の現場とは大きく異なる。

こうした採算性のハードルを越えるのにはどうしたらいいのか。熊谷氏が出した答えは多能工化だ。「収穫をするまでに10の仕事があるとすれば、そのすべてを1台のロボットがやればいい」と語る。すでに製造業向けに実用化されている、2つの工程を1台でさばく双腕ロボットの技術を発展させる。

片方の腕で商品を箱詰めし、もう片方の腕で粘着テープを操って箱に封をするといったロボットがすでに存在する。これをベースに農業に関する諸々の作業をこなせる多能工型ロボットを目指す。第1段階として、23年度には収穫と葉かきの作業ができるロボットを稼働させる計画だ。

担い手の高齢化や後継者不足など、日本の農業には課題が山積している。こうした課題は自動化への潜在的ニーズではあるものの、仮に人間と同じようにあらゆる作業を自律的にこなすことのできるロボットが誕生しても、生産者側に設備投資する余力があるかは見通せない。

熊谷氏も「ビジネスの絵が描き切れてはいない」と認めるところだが、JA全農とは複数の農家で設備を共有するような形で自動化のビジネスを定着させていくことを検討しているという。

流通現場などに応用可能

農業分野への進出のハードルは高いが、挑戦の過程で得るものは有益だ。これまで産業用ロボットを導入して自動化する場合には、扱う製品の規格化が欠かせなかった。ロボットが扱いやすいように製品の大きさ、形状、重さなどをそろえる手続きだ。

だが、農業向けの多能工型自律ロボの開発に成功すれば、自動化の対象となる現場は一気に広がる。キュウリという形も大きさも生育状況によってまちまちなものをロボットが扱えるようになるなら、たとえば、商品一つ一つの形も重さもバラバラな小売業のような現場にロボットが入れるようになる。

ロボット開発の最前線では、柔軟性を持ったロボットの「自律」が大きなテーマになっている。農業や小売業、医療・介護など人手不足分野ではロボットの活躍の余地が大きいが、工場に比べると予測不可能な事態が起きる可能性が格段に高いからだ。

川崎重工業は10月18日、藤田医科大学(愛知県豊明市)と共同で、病院内で検体や医薬品を運ぶ自律走行型ロボットの実証実験をスタートすると発表した。外部と遮断された工場と違って、患者や医療従事者が行き交う病院で作業するにはやはりロボット自身が安全かどうかを判断できる必要がある。

製造業の現場でも自律型ロボットのニーズは高まっている。多品種少量生産の傾向が強まる中で、ヒトと協働するロボットが求められているからだ。ミスもすれば疲労もする人間と働く上でも、ロボットには自己判断する力が欠かせない。

1915年の創業から最初の17年間は赤字が続いたが、粘り強く開発を続け、モーターとその応用である産業用ロボットで地歩を固めた安川電機。これからの100年につながる技術を開発できるかが問われている。

(日経ビジネス 奥平力)

[日経ビジネス 2021年10月25日号の記事を再構成]

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