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アイリスオーヤマ、大山健太郎会長の「士気向上の言葉」

アイリスオーヤマ解剖 第2部 大山会長の言葉(2)

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NIKKEI BUSINESS DAILY 日経産業新聞

多くの企業が若手社員の離職防止や組織全体のモチベーション向上を重要な課題としている。アイリスオーヤマ(仙台市)の大山健太郎会長は町工場だった時期から、人材の確保に苦労してきた。石油危機では創業の地である大阪府の工場を閉鎖し、従業員の多くを解雇した。それ以来「二度とリストラはしない」という意思を経営の根幹に据える。「NIKKEI LIVE」での発言から、社員の士気を高める秘訣を考える。

「プロジェクトに参加したくない社員を巻き込むためには、アイデアの前にコンセプトが重要だ」

社員全員が高い意欲を持って働き続ける会社はほとんど存在しない。新規事業などのプロジェクトが始まる際に「自分はできれば関与せず、既存の仕事だけをしていたい」と考える社員が出てくることは避けられない。そんな社員も巻き込んでやる気を引き出すため「大切なのはストーリーだ」と大山会長は説く。

アイリスオーヤマが家電を開発する際には「利用者を便利にするにはどうすればいいか」というストーリーを社員が考え、大山晃弘社長をはじめとする経営陣にプレゼンテーションする。これを重ねて「生活者目線」のコンセプトが全社で固まってくる。ストーリーとコンセプトが、多くの社員にプロジェクトへの意欲を持たせる前提となる。

「一番大切なのは戦略を明確にして、互いに共有することだ。エンパシー(共感、感情移入)が大事で、スポーツの監督と同じだ」

大山会長は経営者を監督に例える。「監督が考えたことをいかにメンバーで共有するかで勝負が決まる。いくら監督が選手に指示しても、選手が白けていては駄目だ。監督の考えと選手の考えを一致させ、共感させることが必要だ」と強調する。かつて従業員が数十人だった町工場では、自身の考えを全員で共有することは簡単だった。規模が大きくなっても社員全員を共感させるため、知恵を絞る。

これを大山会長は「社員の心に火を付ける」と表現する。「スポーツで『俺のために頑張ってくれ』と言っても選手は燃えないが『あと1点取って、みんなで勝とう』と言えば士気が上がる」。経営者が目標を達成するため社員にかける言葉は自分のためか、全体のためか。その違いを社員たちは敏感に感じ取る。エンパシー抜きで社員の心を動かすことは決してできない。

「アイリスオーヤマの人事は、すごく優しい仕組みだ。実績だけでは評価しない」

一般的に企業の人事考課は獲得した注文や研究開発の成功事例、取得できた特許などの実績で決まる。アイリスでも実績が考課結果を左右するが、それは全体の3分の1だ。残る3分の2は上司や同僚など多くの社員が人材の価値を見極める「360度評価」と、事前に与えられた課題に基づいて書く論文のプレゼンテーションで決まる。論文のテーマは「人間力の強化」など、役職に応じて幅広い。

「実績は環境の要因も大きい。ある支店で営業成績が良かったとしても、別の支店で同じようにもうかるとは限らない」と大山会長は言う。だから「1回勝負」ともいえる実績だけですべてを判断するのではなく、周囲の評価やプレゼンの結果も加味して総合的に成績を決めている。

「僕は働く人にとって働きがい、やりがいのある仕組みを作ろうと思った。どこの学校を出たとか偏差値とか、そういうのは関係ない」

実績と360度評価、論文評価の合計値が最終的な人事考課となる。同じ等級に100人いれば1番から100番までが数値化される。そして下位の1割には、社内で公表せずに「気づきカード」を出す。サッカーなどでのイエローカードに近い意味合いだ。そして社員をコーチとして付け、能力向上を指導する。

「サッカーのイエローカードはみんなに見えるが、これは本人にしか分からないようにしている。それが思いやりで、リカバリーの努力をしろということだ」と大山会長は言う。コーチは指導する社員に360度評価の結果を提示し、自己評価と周囲からの見え方の違いなどを説明しながら、改善点を一緒に探す。それでも低い評価が続くようならば降格することになる。

「サラリーマンもプロフェッショナルだ。野球のスター選手でも不調なら2軍に落ちる。降格がない会社の方が不自然だと思う。落ちたら次に頑張ればいい」

アイリスの人事制度は道路に例えて「3車線」になっている。人事評価が高ければ「追い越し車線」を走って素早く昇格していく半面で、低い評価を繰り返せば低速車線を走り続けることもある。

大山会長は「34歳で執行役員になる人間もいれば、50歳で課長止まりの人間もいる。それが平等だと思う」と語る。これもスポーツに例えて「野球やサッカーでもスター選手がどんどん出てくる。追い越された人はマイナスかもしれないが、スターを見ると『俺もああいう人になりたい』という気持ちになる」と表現する。「かわいそうだから評価に差を付けにくいという組織ではなく、みんながスターにあこがれる組織を作るべきだ」と意識の変革を説く。

「私は昭和の人間で『Z世代』とは人生観が違う。しかし共通していることは、やりがいや達成感を得ることだ」

幅広い世代が同じ価値観を共有することは難しい。重要なのは部下を評価する上司と評価される部下がともに納得し、部下が仕事の達成感を得る仕組みを作ることだ。その意味でアイリスオーヤマの「実績、360度、プレゼン」の3分割には意義がある。

一方で、若手人材の価値観は今後さらに変わり続け、現在の仕組みが有効に機能しなくなる可能性も考えられる。そうなったとき、改めて最適な仕組みを構築することができるか。これは企業理念の一節に「社員が良くなると会社が良くなる仕組みづくり」を掲げるアイリスオーヤマにとって、重要な課題といえる。

(日経産業新聞副編集長 村松進)

=「アイリスオーヤマ解剖」は日経産業新聞の連載です。詳細な発言はNIKKEI LIVEで電子版有料会員の方に限り、こちらから視聴できます。

勝ち続けるアイリスオーヤマの強さの秘密に迫る

https://www.nikkei.com/live/event/EVT220509003/live

※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。

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