メタバースで誘客、ロボが調理 米外食大手の成長戦略 - 日本経済新聞
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メタバースで誘客、ロボが調理 米外食大手の成長戦略

(更新)
米外食大手のチポトレ・メキシカン・グリルが外部企業のテクノロジーを導入し、新たな成長に向けた顧客獲得や業務効率化に知恵を絞っている。メタバース(仮想空間)上でレストランでの料理づくりを仮想体験できるようにしているほか、ロボットを活用した店舗業務の自動化も進めている。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

チポトレ・メキシカン・グリルはファストカジュアルレストランのリーダーであり、新たなテクノロジーを採り入れることで時代の最先端を走ってきた。今や米国内外で3000店以上の店舗を展開し、年間75億ドル(約9700億円)以上の売り上げがある。

だが、サプライチェーン(供給網)の混乱や労働市場の逼迫に加え、料理宅配アプリの利用増加など消費者の習慣の変化により、顧客ロイヤルティー(愛着感)を得るのは一段と難しく、業界全体で利益を確保しづらくなっている。

チポトレはここ2〜3年、ロボット、業務自動化、食品ロスの管理、ユニークな特典、ゲーム関連テックなどテクノロジーの試行や実装によってこれらの課題に対処している。こうしたシステムの活用により、業務の効率化や収益増加、独創的な関係強化策を通じた新規顧客の取り込みを果たしている。

今回のリポートではCBインサイツのデータを活用し、チポトレと同社のコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)カルティベート・ネクストの最近の出資先や提携先からチポトレの4つの重要戦略についてまとめた。この4つの分野でのチポトレとのビジネス関係に基づき、出資・提携先各社を分類した。

・食品ロス&トレーサビリティー(生産履歴の追跡)

・ゲーム&メタバース

・業務の自動化&ロボット

・決済&特典

食品ロス&トレーサビリティー

チポトレは2030年までに二酸化炭素(CO2)排出量を50%削減する目標の一環として、食品ロスの削減とサプライチェーンのトレーサビリティー向上への投資を増やしている。

20年には自社の食材のサステナビリティー(持続可能性)を追跡し、業界平均と比較できるツール「リアル・フードプリント(Real Foodprint)」をアプリに追加した。サステナビリティー関連の調査会社米ハウグッド(HowGood)がまとめたデータを活用し、CO2排出量や水の使用量が業界平均に比べてどれほど抑えられたかを測定する。

22年9月には食品ロスを減らし、業務を効率化するため、米プレシテイスト(PreciTaste)と提携して、需要に合わせて調理する厨房管理システムを試験導入した。このシステムは機械学習などの人工知能(AI)を使い、食材の量をモニタリングしながら、需要予測に基づき食材をいつどれほど準備し、調理すればよいかをスタッフに知らせる。

22年には無線自動識別(RFID)を活用した在庫システムを試すため、米エイブリィ・デニソン、米ゼブラ・テクノロジーズ、米モジックスと提携した。RFIDの導入により、在庫システムの追跡機能を強化し、在庫の管理にかかる時間や回転期間、ミスを減らせる。さらに、賞味期限の可視性とアカウンタビリティー(説明責任)が高まり、食品ロスを削減できる。

ゲーム&メタバース

ゲームやメタバース体験は近年、多くの視聴者を引き付けている。チポトレはデジタル領域で存在感を高め新規顧客を獲得するため、この分野に商機を見いだしている。

21年にはゲーム動画配信プラットフォームの米ツイッチと提携し、ツイッチのゲーム関連チャンネル「ツイッチゲーミング(/twitchgaming)」の初のマーケティングパートナーの一つになった。チポトレは1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」や80〜90年代半ば生まれの「ミレニアル世代」を開拓する重要な糸口としてゲームを挙げている。

22年にはオンラインゲームの米ロブロックスと提携し、ゲームプレーヤーが仮想のブリトーを作ってゲーム内通貨「ブリトーバックス(Burrito Bucks)」を集め、これをチポトレで実際の商品と交換できる誘客策を始めた。仮想体験を使って実店舗への来店を促すのは、食品・飲料ブランド各社が売り上げ増加と顧客ロイヤルティー育成のために活用している新たなメタバース戦略の一つだ。

19年にはゲームを使った対戦競技「eスポーツ」団体のドリームハック(スウェーデン)や独ESLゲーミングと組み、eスポーツ大会「チポトレ・チャレンジャー・シリーズ(Chipotle Challenger Series)」を開催した。チポトレの商品が1年間無料になるなどの賞品が提供される。

業務の自動化&ロボット

チポトレはフランチャイズのコストを削減し、顧客にもっと便利で効率的な体験を提供するため、ロボットや自動化を積極的に導入している。

同社のロボット分野での最初の動きは、21年に配送ロボットを手掛ける米ニューロ(Nuro)に出資したことだった。さらに、AIを搭載したトルティーヤチップ調理ロボット「チッピー(Chippy)」を開発するため、米ミソ・ロボティクス(Miso Robotics)と提携した。チポトレは22年9月、米カリフォルニア州の店舗でチッピーの利用を開始した。

同じ22年には、食材の種類や量を素早く正確に取り分けて皿に盛る自動調理システムを手掛ける米ハイフン(Hyphen)に出資した。ハイフンはシェフが開発した新メニューをワイヤレス通信で複数の店舗に展開できる基本システム(OS)も提供している。

一方、チポトレは22年、米フライバイ(Flybuy)と提携し、アプリのユーザーがいつ店に到着するかを認識する予測テックを試験導入した。このシステムはユーザーが注文したメニューを受け取るために間違った店に来た場合に検知したり、ユーザーに特典の利用を促したりできる。

決済&特典

チポトレは顧客体験を向上し、顧客を維持するために、決済や特典システムに資金を投じている。19年に米国で会員プログラムを始めて以来、2800万人以上が登録している。

19年には米オンライン決済大手ペイパル傘下の個人間送金アプリ「ベンモ」と提携し、会員プログラムの登録者に総額25万ドルを提供するキャンペーンを展開した。22年3月には米オンライン決済大手スクエア傘下の個人間送金アプリ「キャッシュアップ」とも同様のキャンペーンを運営し、抽選で「グアカモーレ」が無料になる「グアクモード(Guac Mode)」キャンペーンを再開した。

数年前からは顧客エンゲージメント(顧客との結びつき)テック企業の米スパークフライ(Sparkfly)とも提携し、モバイルアプリのキャンペーン、店内のPOS(販売時点情報管理)システム、オンライン注文キャンペーンを展開している。

一方、22年6月には暗号資産(仮想通貨)決済プラットフォームを運営する米フレクサ(Flexa)と提携した。チポトレの3000店近くの店舗でビットコインやイーサのほか、USDコインなど7つの「ステーブルコイン(法定通貨と連動するコイン)」を含む計98の仮想通貨に対応している。

その他

チポトレはこの4つの重要分野に加え、他の分野でも重要な提携や出資をしている。

主な分野は以下の通りだ。

代替たんぱく質:チポトレは22年7月、カルティベート・ネクストを通じて代替たんぱく質を手掛ける米ミーティ・フーズ(Meati Foods)に出資した。ミーティはキノコの根を発酵プロセスによって培養し、植物由来の代替肉をつくる。

顧客エンゲージメント:チポトレは顧客エンゲージメントを高めるため、他社と数多く提携している。

・20年にはデートアプリの米ヒンジ、料理宅配の米ウーバーイーツと組み、限定メニュー「人肌が恋しい季節のメニュー」を提供した。このメニューから注文した客は抽選でコメディアンのレベル・ウィルソンさんからデートのアドバイスを受けられる。

・新型コロナウイルスの感染拡大初期には、米ビデオ会議システムZoom(ズーム)と提携してチポトレのファンが限定コンテンツにアクセスしたり、著名人のゲストと交流したり、Q&Aに参加したりできるオンラインランチ会「チポトレ・トゥゲザー(Chipotle Together)」を開いた。

・格安化粧品の米e.l.fビューティーとチポトレをテーマにしたメーキャップ化粧品を手掛けたり、アパレルの米カーハートとチポトレブランドの衣料品を開発したりするなど、ブランド各社とのコラボに参加している。

・米プロフットボールのNFL、北米アイスホッケーリーグのNHL、米プロラクロスのプレミアラクロスリーグ、米国サッカー連盟などのスポーツ団体と組み、新メニューの提供や試合での宣伝、特典キャンペーンを実施している。

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