スズキ、EVなど電動車開発に2兆円投資 30年度までに

スズキは26日、2030年度までに電気自動車(EV)など電動車開発に2兆円を投じると発表した。うち5000億円は電池関連の投資になる。海外の主力市場のインドでEVなど6車種、日本でも同数を発売する計画だ。日印ともEVでは他社に出遅れている。資本提携するトヨタ自動車との協業を深めながらEVに本腰を入れる。
「EV化は必要で、特に軽自動車には重要だ」。都内で開いた説明会で鈴木俊宏社長はこう述べ、EVシフトへの決意を表明した。スズキは現状でEVは販売していない。これまで25年までに日本やインドでEVを発売する方針を示し、11日に報道陣へ公開されたインド国際自動車ショーでコンセプト車を発表したものの、EV比率などの具体的な計画は掲げていなかった。

インドでは多目的スポーツ車(SUV)タイプなどのEV6車種投入する。まずインド国際自動車ショーで発表していたSUVタイプのEVを24年度に発売する。30年度までにEV比率を15%に高める。スズキは1044億ルピー(約1660億円)をかけて西部グジャラート州に25年までにEV、26年までに車載電池の工場をそれぞれ稼働させる計画を発表していた。
国内では軽や小型SUVのEVを6車種投入する。スズキはこれまで23年度中にトヨタやダイハツ工業と共同開発した軽自動車の商用EVを発売すると発表していたが、乗用車についても品ぞろえを強化する。EVシフトが進む欧州でも5車種発売する。日本では新車販売の2割、欧州では8割をEVにする。EV販売などをテコに30年度に売上高を現在の2倍の7兆円に引き上げる。
二輪車でもEV化を進める。二輪車では8車種を発売し、EV比率を25%まで高める。

ただ、EV化には難路が待ち受ける。スズキの世界販売の半分を占める主力市場のインドでは、地場大手のタタ自動車や韓国の現代自動車がEVで攻勢をかける。
スズキは長年インド市場で首位を維持しているものの、EV乗用車市場に限ると、タタが9割近いシェアを占める。インドでのEV販売台数は年間で数万台規模とまだ小さいが、インド政府は大気汚染対策などの解消のため補助金を投じてEVの普及を後押ししている。EV市場がどの程度まで広がるかを見極めつつ、他社に遅れずに商品投入しなければならない難しいかじ取りを求められている。
国内では軽EV競争が始まった。スズキは軽市場で3割のシェアを持ち、ダイハツとともに国内軽市場をけん引してきたが、今後は競争軸がEVに移る。先行して22年に発売した日産自動車の「サクラ」は補助金込みで200万円を切る低価格を売りに同年中に2万台超を販売した。今後は競合のホンダやダイハツの軽EVも出そろう。
東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは「電池への投資は5000億円では到底足りない。インバーターや専用車台などEVに不可欠なものをどうするかもまだ不透明だ」と指摘する。他社からの調達も検討しているのではないかとみる。
スズキ幹部は「日産と同じような価格帯のEVをつくることができるが、うちのお客さんは地方部に住んでいる人が多く、所得帯も(日産とは)異なる」と話す。EV化すると軽市場での優位性が揺らぐ危機感もある。

EV計画では他社が先んじて発表してきた。トヨタは30年のEV販売を年間350万台にする。ホンダは40年に新車販売のすべてをEVか燃料電池車(FCV)にする方針を掲げ、30年までに世界で30車種を投入する。日産は30年度までにEV15車種を含む電動車23種を投入して、車種ベースで販売の5割以上を電動車にする。
中堅メーカーでもEVシフトは加速している。マツダは取引先の投資分も含めて30年までにEVなどの電動化対応に1兆5000億円規模を投じる方針だ。
英調査会社LMCオートモーティブによると、30年には世界のEV販売は約3670万台となり、新車販売全体の35%まで拡大する。2022年は783万台で全体の10%だった。世界でEVシフトのペースは早まりつつある。
スズキの成長のカギとなるのが資本業務提携するトヨタとの関係強化だ。スズキはインドや日本、欧州に投入するEVはトヨタと共同開発した車台を活用し、コストを抑える。
トヨタは26日、スズキとの提携を主導した豊田章男社長が会長に就任し、佐藤恒治執行役員が社長に昇格する人事を発表した。同日夜、取材に応じたスズキの鈴木修相談役はトヨタとの関係について「変わることはない」と述べた。
(白井咲貴、松浦龍夫、武田敏英、ムンバイ=花田亮輔)