国際線「50年CO2ゼロ」目標を採択 国際民間航空機関

国連の専門組織、国際民間航空機関(ICAO)はカナダのモントリオールで開催した総会で、国際線の航空機が排出する二酸化炭素(CO2)を2050年に実質ゼロとする目標を初めて決定した。50年ゼロ達成は燃料転換だけでは足りず、CO2排出枠の購入など航空会社の負担増が避けられない。各国の今後のコスト負担などを巡る課題も残る。
総会は3年に1度の開催で、9月27日から10月7日まで開かれた。「50年CO2ゼロ」の長期目標を初めて採択した。国際航空で35年以降の長期目標を設けるのは初めて。これまでは21年以降に「19年比でCO2排出量を増やさない」としていたが、世界がカーボンゼロに動くなかで不十分と判断した。
新たに採択された目標では、23年までは19年の排出量を上限とし、24年以降は19年比で排出量を15%減らすことが努力目標となる。27年以降、この目標が加盟する193の国・地域に原則として義務づけられる方向だ。
ICAOのサルバトーレ・シャキターノ理事長は採択を受け「航空輸送の脱炭素化に向けた新しい長期目標を各国が採択したことは、今後数十年にわたって加速しなければならない技術革新を後押しするものだ」と強調した。
達成は容易ではない。国際エネルギー機関(IEA)によると世界の航空業界からのCO2排出量は21年で7億1000万トン。運輸業界全体の9%を占め、世界全体の排出量(363億トン)の2%を占める。航空業界が出すCO2の9割超は、原油から精製するジェット燃料によるものだ。植物や廃油を原料にした燃料「SAF」への転換が急務だが、世界のSAF生産量は20年で年間10万トン程度と年間燃料消費量のわずか0.03%しかない。

SAFを商用生産できるのは現状、欧米の一部企業にとどまるとされる。日本は30年に国内の航空会社が使う燃料の10%をSAFにする方針。当面は輸入に頼る必要があり、調達コストは増える。
削減目標を達成できない場合、航空会社はCO2排出枠を購入する必要がある。SMBC日興証券は国内の航空会社がCO2排出枠を利用した場合、営業費用が約1%増加すると試算する。ANAホールディングス(HD)の場合、年約230億円のコストアップとなる。
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ANAHDは50年にCO2排出を実質ゼロにする目標を掲げる。「排出枠取引に依存せずに達成を目指す」(同社)とし、50年に燃料の100%をSAFにする方針。完全にゼロにすることは難しいとしており、CO2を回収・吸収する技術も組み合わせる。CO2回収は独ルフトハンザや米ユナイテッド航空なども活用を始めている。
水素を燃料とする飛行機の開発も進むが、国際線に対応した長距離向け機材の開発はインフラ整備などの課題がある。実用化は早くて30年以降となりそうだ。ANAHDの担当者は「50年ゼロの実現には政府支援や他産業の協力が不可欠」と話す。
今後、世界的にSAFや排出枠の価格が高騰する可能性もある。三井物産戦略研究所シニア研究フェローの本郷尚氏は「排出削減にかかるコストを航空会社だけでなく、消費者がどう負担するかを本格的に議論する段階に来ている」と指摘。料金に上乗せするカーボンサーチャージのような仕組みも検討すべきだとする。
新興国と途上国間のコスト負担も課題となる。採択された長期目標では、30年以降に途上国の航空会社の負担が軽減され、先進国の航空会社がその分を多く負担することが盛り込まれた。
採択を巡っては中国やロシアなど一部の国が採択案に懸念を示したことで、議論は最終日までもつれ込んだ。環境規制をめぐる分断も浮き彫りになった。各国が実効性のある対策やコスト負担を議論する段階に来ている。(川上梓)